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#543 Almaty Ortalik Stadion

2018年8月16日
UEFA EL予選3回戦 Kairat Almaty vs Sigma Olomouc

2020年8月時点、海外での最後のサッカー観戦。通算543、海外では98試合目。
2011年のクロアチアから、その日にしかないスタジアムの雰囲気を味わうために何度も旅をして、気づけば海外で100試合近く観戦。全く飽きもせず、ドラマティックな瞬間はもちろん、辺境のさびれたスタジアムで退屈な試合を観ている瞬間ですら、心の中ではずっとワクワクしている。

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この日は、カザフスタン最大の都市、アルマトゥイ。
真夏のアルマトゥイは連日快晴、日中は40度近い猛暑だったが、キックオフは暑さもやわらいでくる19時。

ホームチームのKairat Almatyは、旧ソヴィエト連邦のトップリーグに、カザフスタンから参戦していた唯一のチームである(歴史を通じて、カザフスタンからはこの1チームしか在籍していない)。
そんな古豪は、近年のカザフスタン国内リーグでは2015年シーズンから毎年2位。絶対王者であり、2015-16シーズンにはCL本戦にも出場したAstanaの壁を破れないものの、強豪の座を確立している。
ヨーロッパの舞台では、これまでCL/EL(UEFA CUP時代含む)本戦出場をかけて7回予選を戦ってきたものの、いずれも本戦出場には至らず。このシーズンも、2回戦でオランダの強豪AZ Alkmaarを2戦合計3-2で下したものの、3回戦はチェコのSigma Olomoucを相手にアウェイでの1stレグを0-2で落としていた。
つまり、POに進出するためには、この試合を3点差以上で勝利する必要があった。

そんなときほどスタジアムは盛り上がるもので、この日もチケットは完売。
国内リーグの注目度を考慮すると、おそらく1年に数回あるかないかのお祭り騒ぎになっていた。

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対戦相手のSigma Olomoucは、2017-18シーズンにチェコ1部リーグで昇格1年目ながら4位に食い込み、EL予選参加資格を獲得。
正直、私自身何の前知識も無かったため、歴史を調べてみると、リーグ優勝の経験はないものの、1991-92シーズンにUEFA CUP準々決勝でReal Madridと対戦(2戦合計1-2で敗戦)、2000-01シーズンには当時のインタートトカップで決勝進出(Udineseに2戦合計4-6で敗戦)といったように、弱小というわけでもないようだった。

土砂降りのスタジアム

「Kairat!Kairat!!」の声援が響く満員のスタジアムで始まった試合は、51分までにSigmaが2点を先行。Kairatは、勝ち抜けのために5点が必要という、半ば絶望的な状況に陥っていた。
そんな中、予期せぬ土砂降りの雨。試合展開も相まって、約半数の観客が早々に帰宅の途に。だが、残った観客は、もはやヤケクソになって総立ちで応援。観客が減っているにも関わらず、それまでの何倍もの大声援がこだました。
61分には、Kairatが1点を返したことで、試合も観客もさらにヒートアップ。ゴール裏のサポーター集団は裸になり、試合はKairatの波状攻撃。

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奇跡の大逆転すらも期待できるだけの雰囲気が整った。

だが、なんとかこの流れで1点取れれば…と思っていたところで、雨はぱたりと止み、同時にKairatの中盤の選手が退場。万事休すだった。アディショナルタイムには、イライラを危険なタックルという形で表現した前線の選手も退場。

試合としては後味が悪い形で、Kairatはこのシーズンのヨーロッパの舞台から姿を消したが、私自身は大満足だった。
「Kairat!Kairat!!」と、ただただ叫ぶ。決まった応援歌を歌うわけでもない。手拍子もない。だが、あの瞬間のスタジアムは一体になり、全員が目の前の試合に熱中していた。陸上トラックの存在すらも忘れられた。
CLやELで、モニター越しに届けられるカザフスタンのスタジアムは、どこか無機質で、熱気に欠けた印象を持っていたが、やはり現地に足を運ばなければ分からないものである。
UEFA加盟国最東端(ロシア除く)の地でも、サッカーへの情熱を確かに感じることが出来た。

また、もう1つ印象的だったのは、試合中(80分ごろ)に記念写真を撮影していたSigmaサポーターの姿だった。組み合わせ抽選の際には、移動時間の長さから、しばし「罰ゲーム」と称されるカザフスタンのチームとの試合だが、熱狂的なサポーターにとっては間違いなく心躍るものである。
彼らもチェコからはるばるやってきたのだろう。こんな瞬間こそ、わがチームがヨーロッパの舞台に立つ喜びを最も感じるのではないだろうか。

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ロシアの「新皇帝」、最後の地

Kairatには、かつてロシアの「新皇帝」と言われた、Andrei Arshavinが在籍していた。当時37歳の彼は、この試合でも4-4-2のサイドハーフで先発出場。
Zenit Saint PetersburgとArsenalで活躍した、旧ソヴィエト連邦出身の世界的プレイヤーであるArshavinは、やはり当地でも圧倒的な知名度と人気を誇るようで、ボールを持つたびにスタジアムの雰囲気が一変していた。だが、衰えは隠せず、対戦相手のサイドバックに封じ込められ、目立ったプレーが見られないまま74分に途中交代となった。

結果的に、彼はこの年限りでの現役引退を決断。
EURO2008でのセンセーショナルな活躍から10年、一時代を築いた稀代のアタッカーにとって、これがヨーロッパの舞台でのラストゲームとなった。

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ヨーロッパとアジアの間で

カザフスタンは、かつてUEFAではなくAFCに所属していた。
1991年のソヴィエト連邦からの分離独立当初、過去との繋がりを断つために、そして、代表チームのW杯への出場可能性の高さから、AFCに加盟した。だが、代表チームが結果を残せず、UEFAの大会の価値が高まっていく中で、2001年にAFCを脱退し、2002年からUEFAに加盟した。

ヨーロッパの強豪がひしめくUEFAに加盟するということは、W杯への出場可能性を遠ざけることと同義だ。だが、代表チームはW杯やEURO予選へ、クラブチームはCLやEL予選への出場によって、世界的なスター選手をカザフスタンに呼んで試合をすることが出来る。本戦に出場することが出来れば、莫大な放映権料も期待できる。AFC所属での国際大会予選や、ACLへの出場とは比べ物にならないだろう。

実際に、代表チームの国際大会への出場は極めて厳しい状況に置かれているものの、クラブチームではAstanaがCLやELの本戦に出場するなど、着実にその存在感を高めていっている。2020年UEFAのカントリーランキングでは、旧ソ連の中ではベラルーシを抜き、ロシア、ウクライナに次ぐ3位となっている。
また、国外の選手に頼っていたAstanaやKairat、Aktobeといった強豪クラブでも、徐々に自国の選手の活躍が目立つようになってきているようで、近い将来、カザフスタン代表選手が5大リーグで活躍する姿も見られるかもしれない。


本日の豆知識。
カザフスタン国内リーグ屈指の強豪であるFC Astanaのある都市は、2019年3月に、Astana(アスタナ)から、Nur-Sultan(ヌルスルタン)に改称されました。
Astanaは、カザフ語で「首都」の意。Nur-Sultanは、同月に退職した初代大統領の名。いかにもこのあたりの地域といった感じですね。
これによってFC Astanaのチーム名変更が予定されているかどうかは分かりませんが、FC Nur-Sultanだとか、Nur-Sultan Arenaだとか、なんだかもやもやする響きだと感じるのは私だけでしょうか。

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