催涙弾を浴びた夕方
その頃、私は毎週土曜日の夕方、マクドナルドの2階でマクドナルドフリーWiFiを使ってメールチェックをすることにしていた。
いつも通りメールチェックをしながら友人とだらだら喋っていたら、外が突然騒がしくなった。
広場に面した窓から外を見ると、何やら群衆と警察が集まって、わーわー言っている。
選挙の前で政治が不安定だったので、デモだろうなと思っていたら
突然外がケムケムになっていった。
煙が窓から入ってきて、火事?逃げる?とあわあわしていたら、目がめっちゃ痛くなり、涙がとまらなくなった。
デモに慣れている国出身の友人はすぐ窓を閉め
「大丈夫、ただの催涙弾。催涙弾では人は死なない」と言った。
とりあえず他のお客さんたちも一緒に下に降りると、店舗入口は封鎖されていた。
泣きながらガラスのドアをドンドン叩く外の人たちを、屈強な警備員のお兄さんが内側から身体をはってドアを守っている状態。
とりあえず外の人は催涙弾が辛いから中に入りたいだけだろう、当分ここから出られんわ、と言う友人と2階へ戻り、いつでも逃げられる体勢をキープしつつ、手に持っていたアイスティーの続きを飲んだ。
貧乏留学生だった私のアパートにはテレビがなく、ネットニュースも週に一度マクドナルドで確認する程度だったので、その日街なかでデモがあり、暴動になる危険があることを知らなかった。
国中で起っていた暴動や、数日前メトロに火炎瓶が投げ入れられた話は把握していたが、
穏やかなこの街で、こんなに身近で突然起こった暴動に
ただただびっくりした。
友人はコーヒーを飲みながら、催涙弾では人は死なないけれど、ゴム弾を警察が使い出すとヤバい、当たりどころが悪ければ死ぬ。とりあえず近づかないが吉。
というお役立ち情報を教えてくれた。
めっちゃ助かる。
わりとすぐに喧騒は去っていった。
(体感がすぐなだけで、もしかしたら1時間くらい経っていたのかもしれない)
お店の人が、入口開けるから急いで出てやー、と言いに来て、
私たちはささっとマクドナルドを後にした。
目の前のメトロ入口は封鎖されていた。
大通りはデモ隊の残り火が燻り、文字どおりゴミ箱や車が燃えているので、
住宅街を早歩きで帰る。
ショーウィンドウは割られ、道にたくさん割れたガラスが散らばっている。
暴徒に遭遇することもなく、無事におうちにたどり着く。
とりあえず、涙でベロベロになった顔を洗った。
治安と情勢は一瞬で変わるんだということを目の当たりにし、
のほほんと生きていた自分をちょっと反省した。
いのちだいじな留学生活、スリルもサスペンスもできれば避けたい。
後日その話をパーティーでしていたら、親切なマダムが
うちに使っていないテレビあるからあげるわー、ニュース見ときー、と
小さなブラウン管のテレビをくれた。
ありがたや。
私はそれで、おうちでお酒を飲みながらサッカーを応援する、という技を覚えることとなる。
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