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ベートーヴェンの春の歌

 あなたのお住まいの街ではもう春の兆しをみつけられたでしょうか。

 このところ、青年時代(30歳前後)終わりのベートーヴェンの大傑作である「スプリング・ソナタ」のピアノ独奏版を弾いています。元気になれる音楽で、昔から大好きなのですが、著作権フリーの無料楽譜の宝庫であるIMSLPでは、原曲のみならず、様々な作曲家以外の手になる編曲楽譜が利用出来て、スプリングのソロピアノ版を弾いています。
 一緒にヴァイオリンを弾いてくださる方がいればいいのですが、残念ながらこの曲を弾き切る力量を持つヴァイオリニストはわたしの周りには現在はいないのです。

 このサイトのSheet Musicの部分まで行って、Arrangements and Transcription のタブを開くと、クラリネット編曲版やチェロ編曲版などと共に、ピアノ独奏版が見つかります。

 瑞々しい春の息吹を感じさせる第一楽章のメロディは、やはりヴァイオリン高音をつかさどるE弦で思い切りカンタービレで歌いたいのですが、名旋律ですので、もちろんソロピアノでも美しい。

 この冒頭の2分音符(ラの音)が美しく鳴り響けば、もうあなたのいる部屋はスプリングソナタの世界になる。ヘ長調の和音が下降系で細かい非和声音と共に歌われるだけなのですが、このメロディが美しく歌われるだけで嬉しくなります。

 素晴らしい録音がたくさんありますが、わたしは長年、シェリングとルービンシュタインの名盤に親しんできました。

 最近はヴァイオリン以外の楽器でも演奏されます。フルートでもすこぶる美しい。ヴァイオリンとほぼ同じ音域の音を奏でることができますからね。最低音域の部分(ピアノの真ん中のドよりも下の音)は一オクターブ上げたりと工夫が必要ですが。

テンポは速めですが、このクラリネット版も美しい。

 第二楽章の変奏曲に代表されるように、美しいカンタービレな歌こそがこのソナタの最大の魅力。なのですが、じつはこの曲の主導権を握っているのはピアノパート。
 第一楽章の第二主題もピアノのリズミカルな刻む音によって導かれるもの。突然ヘ長調ではないイ長調のピアノのフォルテの和音が鳴り響くなど、ピアノから聞こえてくるベートーヴェンらしさは名ピアニストだったベートーヴェンの独断場といった趣です。第三楽章の小気味よいリズムもピアノというリズムセクションがあってこそ生きるというもの。第四楽章はするすると流れてゆく名旋律によるロンド形式の音楽。

 歌うヴァイオリンとリズムセクション(打楽器)としてのピアノの魅力が全開なスプリングソナタ。

(c) Spotify

 ベートーヴェンって堅苦しいと言われる方にこそ、聴いていただきたいです。あのベートーヴェンにだって若者だった時代もあったのです。
 モーツァルトやハイドンを模範として新しい時代の音楽を作り出さんと模索していた頃の初期のベートーヴェンの音楽は青春の音楽です。若々しい生命力あふれるリズムとのびのびとした歌に溢れたこの時代のベートーヴェンの音楽、もっとたくさんの人に親しまれて欲しいです。

ほんの小さなサポートでも、とても嬉しいです。わたしにとって遠い異国からの励ましほどに嬉しいものはないのですから。