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「弱者」ニッポンがついに見つけたスタイル。そして次のステップへ。

 放心状態だった。ベルギーのチャドリが日本代表GK川島永嗣の守るゴールにボールを押し込んだ瞬間、言葉にはならない感情に襲われた。25分前には日本サッカーに新たな歴史が刻まれる試合になるであろうことが確実にすら思えた試合。2対3で黒星を喫した西野監督の率いる侍たちは、ベスト16でロシアを去ることになった。

 一ファンとして個人的にこの大会をどう見るか、試合直後はなかなか整理がつかなかった。事実として、この日、日本は勝てる試合を落とした。「2対0は危険なスコア」とは言われるが、リードはリード。25分+アディショナルタイムを残していたチームが勝利を逃した事実は褒められたものではない。

 一方で、そもそもプレミアリーグの一線級の選手たちが中心となっているベルギーをあと一歩まで追い込んだことも事実だ。アザール、デブライネ、ルカク、クルトワをはじめとした選手たちは紛れもなくスターの集まりであり、「個」の力で言えば到底及ぶレベルではなかった。前半は26回日本エリア内でボールタッチを許した(これは今大会前半の数字としては最多だ)。それでも、決定機はほとんど与えなかった。2点を奪ったことも事実であり、それも流れの中から奪った2点。ボール支配率(44%)が示すとおり、極端に守備的に振舞ったわけでもなく、日本が試合を支配した時間帯もあった。この試合だけを見れば、ポジティブな面もネガティブな面もあった。

 だが、トータルで見ればやっと「日本のスタイル」が見つかった大会だと思う。正直に書けば、これまで「自分たちのサッカー」と言っていたものは、一体何を指しているのかがよく分からなかった。ここ数年間の代表戦で思うような結果が残らなかった際に選手たちが何かにとりつかれたかのように繰り返されたこの言葉は、いつの日かネット上でもネタにされるようになった。何かも分からない「自分たちのサッカー」を目指してロシアの地に乗り込んだのがこの代表だった。

 しかし、答えは本番で示された。西野監督のチームはグループリーグ3戦目を除けば全ての試合で選手たちがコンパクトな距離感を保った。このチームの躍進の象徴にもなったMF柴崎岳はグラウンダーの縦パスを供給し続け、サイドの選手たちは極力低いクロスをエリア内に送り込んでいたように感じた。まだワールドクラスではなくとも日本の強みである足元の上手さを生かし、ウィークポイントである高さで勝負をしない選択だった。

 また、守備時は時間帯・状況によって攻撃的なプレッシングと引いた守りを使い分けた。過去に見られた前線と2列目以降の間延びは見られなかったし、スタミナ切れも起こしているようには思えなかった。

 何より、「相手や状況に合わせたサッカー」をできたこと。第1戦は試合開始早々にコロンビアMFカルロス・サンチェスが退場し、数的優位になったが前半は日本も苦しんだ。それでも、後半は試合を支配し、勝ち点3を勝ち取った。第2戦のセネガル戦ではシセ監督が試合途中で戦術を変更したものの、これに見事にチームとして対応。第3戦は試合終盤に西野監督が「ポーランドに0対1で負ける展開をキープ」という選択をし、ピッチにキャプテン長谷部を送り込むと、情報を受けた選手たちは黙々とその任務を遂行。賛否両論あるが、決勝トーナメントへの切符を手に入れた。ある意味で日本は常に「弱者」としての戦い方を受け入れた。無理やり試合を支配するようなことはなかった。身の丈に合った戦い方を常に選択していたし、結果としてグループで勝ち点4を積み上げた。

 終わってみれば、「日本代表はこんなサッカーをしたよ!」と言える大会だったと思う。そしてそのサッカーは、恐らく日本のフットボーラーにマッチした、日本が追い求めた「自分たちのサッカー」と言えるものなのではないだろうか。当然課題は残るが、「グループリーグ突破」「強豪ベルギーと互角に戦った」という結果は残したし、何よりも見ていて面白いスタイルだった。そういう意味でも、本田圭佑と遠藤保仁のマジカルなFKで勝ち取った2010年南アフリカ大会のベスト16よりも、さらにポジティブな結果だったと思う。

 今個人的に何よりも強く願うのは、日本代表にこのサッカーを今後も続けて欲しいという事。もちろん、細かい部分は変わっていくだろうし、変わっていくべきだろうとは思う。しかし、今回示したスタイルはきっと日本人がこのスポーツをチームとして行う上でのベースにすべきものだという、「確信」に似た感情がある。8年前、同じくベスト16の結果を残した侍たちはその直後にW杯を忘れたかのように全く別のスタイルでボールを蹴り始めた。同じことを繰り返してはならない。悔しい負けから何かを学び、次こそはベスト8に駒を進めて欲しい。その軌跡を目撃するのが楽しみだ。

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