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熱中症はなぜ起きる①熱を逃がす【Doctor Tのスポーツ・エクササイズ医学】

こんにちはDoctor Tです。雨が降らない日の気温は、狂っていますね。さらに比較的温度のコントロールされた車内でも日差しに当たっているだけで肌がジリジリします。

熱中症という言葉はよく耳にするけれど…

今回は熱中症についてです。注意喚起はテレビなど至るところで耳にすると思いますが、熱中症がなぜ起きるか、熱中症の時、何が体の中で起きているかを知ることでもっと上手く予防できるかもしれません。そんなことを期待して熱中症について少し深堀りします。下の論文を参考にしています。

「熱射病」は熱中症の最重症状態

最初に言葉の確認をしておきます。テレビで耳にするのは熱中症という言葉ですが、これはheat related illnessと言い、全ての重症度の状態を含みます。その中で熱射病が最重症で致命的になる可能性がある状態です。

熱痙攣(けいれん)・熱失神→熱疲労→熱射病heat strokeの順に重症度が上がります。これらを全てまとめて熱中症と呼んでいます。

日本語の日射病と熱射病の定義の違いを調べてみましたが統一の見解が見つからなかったので、ここではheat strokeを「熱射病」と訳します。間違っていたらすみません。

さっそく、実際の熱中症について説明します。

なぜからだに熱がたまるのか

体温上昇はざっくりと(産生される熱+外部からの熱)ー(発散される熱)で表されます。

1)暑い環境にさらされる、2)代謝によって体内で熱が発生する、3)体を冷却させる機能がうまく働かない、この3つが体に熱がたまる主な原因です。

現実的な例に書き換えると

上記のようになります。もちろん、他にも肥満や15歳以下の子供、65歳以上の高齢者であること、アルコールを飲んでいるなども熱中症になりやすくなる要因です。

現場での初期対応で合併症や死亡はかなり低くなる

熱中症が起こるのは学校や自宅など医療機関の外です。つまり、いきなり現場に医者や救急隊員がいるわけではなく、医療関係者以外の素人が対応することになります。この時の対応が、医療機関に運ばれた後の経過にも大きく影響するので重要です。脳振盪と同じです(参考:脳振盪を疑ったら?「もうちょっと…」が命取り!)。

①すぐに活動を中止させ、涼しい場所へ移動させる

やるべきことは決して難しくなく、「すぐに」活動を中止させ、涼しい場所へ移動させるということです。具合が悪いのにあとちょっとだけと粘るのがよくありません。

②次に「意識障害」を確認

反応が悪い、怒りやすい、言ってることがおかしいなど医学で言う「意識障害」がみられたらそれは緊急です。熱射病の可能性がぐんと高くなります。現場でも体を冷やし始めて救急車を呼ぶほうがいいです。

効果的かどうかを悩んで時間が過ぎていくより、すぐにあらゆる手を使って体を冷やしましょう。冷やし方(熱の逃し方)について説明します。

熱の逃し方(熱の移動の仕方)

体から外部へ、もしくは外部から体への熱の移動様式は以下のとおりです。

  1. 伝導 体より冷たいものに直接触れることによって、熱をものへ移動させる。

  2. 対流 体の表面で空気が流れることによって熱を移動させる

  3. 蒸発 汗など液体が蒸発するときに肌を冷ます。

  4. 熱輻射 電磁波によって熱が移動する
    これらを利用して熱くなった体から熱を逃す方法を考えましょう。

実際には

  1. 「冷たいものに接触させる」保冷剤などを体に当てる、冷たい金属の水筒などに触る、アイスバスに入れる

  2. 「風を起こす・風に当たる」電動のファンを使う、あおぐ、風当たりのいいところへ移動する

  3. 「肌に水分をつけて蒸発させる」霧吹きで水をかける

  4. 「熱いものから離れる、熱を遮る」太陽の光が当たらないところへ移動する=体に熱が移動するのを防ぐ

周りを見渡してできそうなことを、できるだけやりましょう。

オプション:熱中症を疑ったときのフロー

ここからは医学専門的です↓ 
医療者が行うことなので一般の方は興味があれば読んでください。

熱射病で冷却するときの水温はかなり低い

熱射病のときに急激に冷やすということは知られているかもしれませんが、具体的にどうするか知っていますか?現場では具体的に何をするかを知っていなければいけません。

ベストは「アイスバスに入れる」cold water immersionです。immersionとは浸すという意味です。

ではその水はどのくらい冷たいかわかりますか?Cold water 8-14℃Ice water 2-5℃です。東京オリンピックの推奨でも5-15℃でした。そうとう冷たい水なのです!

cold waterだと毎分0.16-0.26℃、ice waterだと0.12-0.35℃の速さで直腸温が下がっていくと言われています。エアコンの効いた部屋での体温の下がり方は毎分0.03-0.06℃言われているので、冷たい水だとエアコンの効いた部屋にいるより5倍以上の速さで温度を下げていけるということになります。

冷たい水が手に入らないときの代替案としてtemperate water immersion(20℃の水)も許容範囲のようです。

まとめ

  • 熱中症は、熱い体温に関連する病態の総称

  • 熱射病はその中で最重症で命に関わる

  • 熱中症を疑ったら、すぐに活動を中止し涼しい場所へ移動する

  • 現場での的確な判断と対応でその後の合併症や死亡率を下げることができる

  • その場でできる、体から熱を逃がす方法を何でもやってみる

  • 熱射病のときのアイスバスの水はとても冷たい

今回は少し理論的な話になりました。でもなぜ体に熱がこもるのか、どうしたら熱が発散されるのかその原則を知ることによって応用が効くのではないかと思い理屈を書きました。

今回は熱中症が発生してしまった時のことを書きましたが、本当はその前の段階で熱中症になりにくいからだ作りや、危険な環境を判断できることが大切です。熱中症のほとんどが予防できると言われているからです。

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