【Doctor Tのスポーツ医学】脳振盪(のうしんとう)を疑ったら?「もうちょっと…」が命取り!!〜脳振盪③〜
こんにちは、Doctor Tです。今回は脳振盪(のうしんとう)の第3弾「受傷した後の対応」について。少し専門的な話になりますが、周りの人が受傷した時適切に対応できるよう皆さんに知っておいてもらいたい内容です。
脳振盪といえば、昔ラグビーやフットボールの試合中に、ぶつかった選手が意識を失うとコーチのような人がやってきて選手の頭に水をかけるシーンが思い浮かぶのではないでしょうか。すると選手が動き出すという魔法の水。
しかし、実際はそんなものはありません。そして、受傷後試合復帰するのは今はNGとされています。脳振盪を疑ったら『即』試合を離脱です。
脳振盪にまつわる誤解
「脳へのダメージは永久的だ」「脳振盪になるとその後の人生が変わってしまう」などと恐れられる一方で、44%の選手が症状がありながらも試合を続行しているというデータがあります(O'Kaneら2014)。
脳振盪は、繰り返せば繰り返すほど、受傷と受傷の間隔が狭まれば狭まるほど、回復が遅くなります。それを防ぐために適切に安静を取りリハビリをする必要があるのです。
受傷後も動けてしまう脳振盪
脳振盪になっても体が動くこともあるので、一見正常に戻ったように見えてしまいます。そのため、受傷後もプレイすることが可能に見えます。しかし、動作には現れない、記憶・見当識障害(自分が置かれている状況がわからなくなってしまうこと)などが起きています。
Hide it... Ignore it... Minimize it...
未だに脳振盪が起きた時、「隠して、無視して、最小限にしよう(過小評価)」とする文化が残っているのが現状です。ちょっとくらいいいじゃないか。それがそうではありません。
プレイ継続すると回復が長引きやすくなる
回復に21日以上かかる選手の数を比較したところ、プレイを継続した選手は即離脱した選手の約8倍に上りました。
たった”25分のプレイ継続”で"回復にかかる時間が20日延びる"
受傷後の平均回復時間(完全に復帰)に注目します。即離脱した選手は22日なのに対して試合を続行した選手は44日でした。このプレイ続行時間は平均が25分でした。(Elbinら2016)
この結果からわかるように、「受傷したら『即』試合を離脱」なのです!
脳振盪と聞くと他人事のように思われるかもしれませんが、以前の脳振盪①の回でもお伝えしたように、スポーツ選手でなくても、子供の日常生活でも起こり得ます。
脳振盪は、受傷から「段階的に」活動のレベルを上げて、日常生活復帰、さらに競技復帰をしていきます。これをGRTP(Gradual Return To Play)といいます。
受傷後48時間は安静に
受傷後48時間は安静が推奨されています。この間は脳血流量が減少したままで神経細胞がまだ危機的な状況にあるからだと言われています。受傷後のGRTPは、患者さんの回復に合わせて進めるので医師に相談するのがいいと思います。
【まとめ】
1) 脳振盪を疑ったら『即』試合を離脱すべし。
2)脳振盪の報告などは過小評価で報告されているのが現状である。
3)受傷後プレイを続ければ続けるほど、回復が長引く。
4)受傷後48時間は安静にし、その後の計画は医師に相談する。
脳振盪は比較的新しい概念で日々情報が更新されています。まだわからないことも多いのです。新しい情報をお伝えしていきたいと思いますので、ぜひ日常生活に役立ててもらえるとうれしいです。
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