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静かな作家の持つ凄み

湯川豊著.「海坂藩に吹く風 藤沢周平を読む」文藝春秋.2021.

本書は,藤沢周平の小説を,時代小説・歴史小説・市井小説に分け,それぞれの魅力を丹念に辿る。

たとえば橋にまつわる物語の中で,老年に差し掛かる男の行き場のない人生の寂寥感が描かれる。
 また,荘内地方の美味が,民田茄子・醬油の実・カラゲ(エイの干物)等々の描写でとっくりと説明される。

心のうちに秘めたものを抱えながら生きる人物を,立ち振る舞いなどで浮き彫りにするその文章のちから。

 以下は私見。
 藤沢周平の深い洞察力が「過不足なく必要な表現だけ残す」ことにより,鮮やかにすっくりと物語が立ち上がってくる。
 この,過不足なく残す=引き算の文章力・表現力は,藤沢周平という人そのものだと思われる。
 潔しとする/しないの基準や,自己を律する気概,故郷鶴岡を慈しむまなざしが風に舞うようによぎる。

 個人的に,静かな作家の持つ凄みは小説「密謀」に顕著に記されているという印象を持った。義をよりどころにした武将と,権力の本質を自在に操った人物との対比に唸る。

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