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はじめての線形代数part5 ~Aⁿを求めよう!(固有値、固有ベクトル編)

前回の復習

 前回は逆行列を求めるために、行列式(サラスの方法と展開)余因子行列の学習をしました。
 本記事の目標、$${A^n}$$の求め方は

  1. 対角行列$${P^{-1}AP}$$を求める。

  2. $${(P^{-1}AP)^n}$$に変形する。

  3. $${(P^{-1}AP)^n}$$を$${A^n}$$に変形する。

のでした。今回は対角行列$${P^{-1}AP}$$に使われる、行列$${P}$$を求めれるように頑張りましょう!


復習:対角行列

 ここで対角行列とは何かを復習しましょう。対角行列とはななめ(左上から右下にかけて)に成分が並び、そのほかは0で埋まる行列です。たとえば$${\begin{pmatrix}1&0\\0&2\end{pmatrix},\begin{pmatrix}6&0&0\\0&4&0\\0&0&7\end{pmatrix},\begin{pmatrix}α&0&0\\0&β&0\\0&0&γ\end{pmatrix},\begin{pmatrix}13&0&0&0\\0&27&0&0\\0&0&59&0\\0&0&0&104\end{pmatrix}}$$などです。

 この対角行列の素晴らしい利点は掛け算がとてもしやすいところです。対角行列どうしの掛け算になると、成分どうしを掛けるだけでよいのです。すなわち、n乗がとてもしやすいですね!
 $${\begin{pmatrix}α&0\\0&β\end{pmatrix}\begin{pmatrix}3&2\\9&7\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}3α&2α\\9β&7β\end{pmatrix}}$$,$${\begin{pmatrix}x&0\\0&y\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x&0\\0&y\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}x^2&0\\0&y^2\end{pmatrix}}$$
 このような対角行列を作るには対角化という技術を使います。対角化をするには固有値固有ベクトルの理解が必須となります。

固有値と固有ベクトルのお話

概要

「数」「行列」、この2つは全く別物です。(スカラーとベクトルの違いと言えばピンとくる方もいると思います。) すなわち$${「数」\neq「行列」}$$となります。$${1\neq\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}}$$ですよね。ここで、ある疑問を持つと思います。
「行列を無理やり1つの数にできないのか、『数=行列』にならないのか」と。
「数=行列」は不可能ですが、「数×ベクトル=行列×ベクトル」は成り立つことがあります!!ベクトルを掛けてあげることで、擬似的に「数≒行列」っぽいことができるのです。

固有値と固有ベクトル

 突然ですが$${λ\vec{x}=A\vec{x}}$$という等式をご覧ください。$${λ}$$はで、$${A}$$は行列、$${\vec{x}}$$はベクトルです。これこそ「数×ベクトル=行列×ベクトル」です。

  • 固有値・・・・・$${λ\vec{x}=A\vec{x}}$$でいう$${λ}$$のこと

  • 固有ベクトル・・$${λ\vec{x}=A\vec{x}}$$でいう$${\vec{x}}$$のこと。0にはなりません。要は$${\vec{x}=\vec{0}}$$にはならない、定義されない。

固有値と固有ベクトルを学ぶ意義

 part0で触れた一次変換を覚えているでしょうか。

 ある点を別の点に移動させる技術のことです。これをするには、あるベクトルに行列を掛けるのでした。

 例えば$${\vec{x}}$$に行列$${A}$$を掛けるとします。このとき$${\vec{x}}$$が$${\vec{x'}}$$へと変換されることです。
 それでは次の場合はどうでしょうか。

ベクトルの定数倍(ここではラムダ(λ)倍)したときと同じ形の1次変換です。言い換えると、ベクトルを伸び縮みさせる特別な1次変換が起きています。このλを固有値、伸び縮みするベクトルを固有ベクトルといいます。
 このように固有値と固有値ベクトルの存在意義は一次変換にあります。
何のために勉強するのだと思った方はこれをモチベーションにしましょう!

 この$${λ\vec{x}=A\vec{x}}$$をいろいろと式変形することによって、対角行列$${P^{-1}AP}$$が現れます。(いろいろと式変形する過程は小見出し「余談2」で解説します。)

いろいろと式変形することによって$${P^{-1}AP}$$が登場すると同時に、実は固有値λ固有ベクトルがこんな姿になって現れます。

$${P^{-1}AP=\begin{pmatrix}λ&0&・・0\\0&λ&・・0\\ :\\0&・・・&λ\end{pmatrix},P=\begin{pmatrix}固&固&…\\有&有&…\\ベ&ベ&…\\ク&ク&…\\ト&ト&…\\ル&ル&…\end{pmatrix}}$$

 (※ここで行列$${P}$$について補足します。行列は横縦に数字が並んだものですが、ベクトルの塊にも見えると思います。例として縦ベクトルを2つ用意します。$${\begin{pmatrix}1\\2\end{pmatrix},\begin{pmatrix}3\\4\end{pmatrix}}$$この2つをくっつけると、$${\begin{pmatrix}1&3\\2&4\end{pmatrix}}$$という行列になります。すなわち、行列は縦ベクトルを横に並べたものといえます。なので行列$${P=\begin{pmatrix}固&固&…\\有&有&…\\ベ&ベ&…\\ク&ク&…\\ト&ト&…\\ル&ル&…\end{pmatrix}}$$という一見見るとおかしな表記をするのです。※)

固有値の求め方

 さて、実際に固有値を求めていきましょう。今から少し式変形をします。
$${λ\vec{x}=A\vec{x}    {\Longleftrightarrow}    λ\vec{x}-A\vec{x}=\vec{0} (※①)   {\Longleftrightarrow}    λE\vec{x}-A\vec{x}=\vec{0}   (※②){\Longleftrightarrow}     (λE-A)\vec{x}=\vec{0}  (※③) {\Longleftrightarrow}  λE-A=\vec{0}  (※④)}$$

  • ※①:右辺を左辺に移行

  • ※②:$${\vec{x}=E\vec{x}}$$より。$${E}$$は単位行列で、積をとっても変化がない行列。数字の世界でいう1みたいなもの。

  • ※③:$${\vec{x}$$が共通因数とみて、くくる。

  • ※④:$${\vec{x}=\vec{0}}$$にはならない(小見出し固有値と固有ベクトルから参照)ことから、0になるのは$${(λE-A)}$$の方。

上記のことから$${λE-A=\vec{0}}$$となりました。
 実は、ある行列が $${\vec{0}}$$になるときは、その行列式の値が0になるという関係があります。つまり$${λE-A=\vec{0}}$$ならば、$${|λE-A|=0}$$になるのです。(理由はチョーむずいので割愛します。)
 この事実から固有値$${λ}$$が求まります

実際に計算してみよう(固有値)

 実際に$${A=\begin{pmatrix}1&-2\\3&-4\end{pmatrix}}$$として、固有値を求めていきましょう。まず、$${λE-A=\vec{0}}$$ならば、$${|λE-A|=0}$$になるのでした。
 まず、$${λE-A=0}$$を確認しましょう。行列の足し算引き算は覚えているでしょうか。
$${λE-A=λ\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}-\begin{pmatrix}1&-2\\3&-4\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}λ&0\\0&λ\end{pmatrix}-\begin{pmatrix}1&-2\\3&-4\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}λ-1&0-(-2)\\0-3&λ-(-4)\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}λ-1&2\\-3&λ+4\end{pmatrix}=\vec{0}}$$
 これの行列式が0になるのでした。なので、
$${\begin{vmatrix}λ-1&2\\-3&λ+4\end{vmatrix}=(λ-1)(λ+4)-(2×-3)=(λ^{2}+3λ-4)+6=λ^{2}-3λ+2=(λ+1)(λ+2)=0}$$
 したがって$${λ=-1,-2}$$になりました。何が起きたんだと思うかもしれませんが、このように固有値は機械的に求まります。

固有ベクトルの求め方

 まず、固有値は$${λ\vec{x}=A\vec{x}}$$を$${(λE-A)\vec{x}=\vec{0}}$$いろいろと変形させていきました。この$${(λE-A)}$$はある数ではなく行列なので、仮に$${(λE-A)=B}$$とすると、$${B\vec{x}=\vec{0}}$$となります。 $${B\vec{x}=\vec{0}}$$は以前どこかで見たことがあるのでないでしょうか。そうです、簡約化の時に出てきたあれです。
 いまから求めていく固有ベクトルは、$${\vec{x}}$$なので$${B\vec{x}=\vec{0}}$$を簡約化すると$${\vec{x}}$$が求まるのです。

実際に計算してみよう!(固有ベクトル)

 また$${A=\begin{pmatrix}1&-2\\3&-4\end{pmatrix}}$$として、$${λ=-1,-2}$$のときの固有ベクトルを求めていきます。
 $${(λE-A)=B}$$としたときの$${B\vec{x}=\vec{0}}$$を当てはめていきましょう。
 まず、$${B=(λE-A)}$$の部分は固有値で求めたように、
$${B=(λE-A)=λ\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}-\begin{pmatrix}1&-2\\3&-4\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}λ-1&2\\-3&λ+4\end{pmatrix}}$$となります。

ここで$${B\vec{x}=\vec{0}}$$を求めたいのですが、$${λ}$$が$${-1,-2}$$の2つあるので、ここは普通に場合分けをしていきます。

λ=-1のとき

$${B=\begin{pmatrix}(-1)-1&2\\-3&(-1)+4\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-2&2\\-3&3\end{pmatrix}}$$
このときに$${B\vec{x}=\begin{pmatrix}-2&2\\-3&3\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}}$$となります。では簡約化して$${\vec{x}}$$を求めましょう!
(連立一次方程式を簡約化で解くときと同様に$${\vec{x}=\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}}$$とここでは考えます。)
$${\left( \begin{array}{cc|c}-2&2&0\\-3&3&0\end{array}\right)}$$$${\sim\left(\begin{array}{cc|c}-2-(-3)&2-(3)&0-0\\-3&3&0\end{array}\right)\sim}$$$${\left( \begin{array}{cc|c}1&-1&0\\-3+3&3-3&0+0\end{array} \right)\sim\left( \begin{array}{cc|c}1&-1&0\\0&0&0\end{array}\right)\Longleftrightarrow\begin{pmatrix}1&-1\\0&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\0\end{pmatrix}}$$
$${\begin{pmatrix}1&-1\\0&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\0\end{pmatrix}\Longleftrightarrow}$$$${x-y=0}$$

この$${x-y=0}$$を不定一次方程式とみると、$${x=c,y=c(cは任意定数)}$$と書けます。これを$${x,y}$$のベクトルとしてみると、$${\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}c\\c\end{pmatrix}=c\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}}$$
 この任意定数$${c}$$を除いたベクトル$${\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}}$$こそが、我々が求めたい固有ベクトルになるのです! 

λ=-2のとき

ここまで長かったですが、いま固有ベクトルの1つを求めました。もう1つあるのを忘れていませんか?$${λ=-2}$$のときは
$${B=\begin{pmatrix}λ-1&2\\-3&λ+4\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}(-2)-1&2\\-3&(-2)+4\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-3&2\\-3&2\end{pmatrix}}$$ 
$${\left( \begin{array}{cc|c}-3&2&0\\-3&2&0\end{array}\right)}$$$${\sim\left(\begin{array}{cc|c}-3&3&0\\-3-(-3)&2-(2)&0-0\end{array}\right)\sim}$$$${\left( \begin{array}{cc|c}-3&2&0\\0&0&0\end{array} \right)\sim\Longleftrightarrow\begin{pmatrix}-3&2\\0&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\0\end{pmatrix}\Longleftrightarrow}$$$${-3x+2y=0}$$
このとき$${x=2c,y=3c(cは任意定数)}$$となるので、
$${\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}2c\\3c\end{pmatrix}=c\begin{pmatrix}2\\3\end{pmatrix}}$$となり、2つ目の固有値ベクトルは$${\begin{pmatrix}2\\3\end{pmatrix}}$$となりました。

(余談1)ほんとにλx=Axになるの?

 今の計算は、行列の足し算引き算、簡約化、行列式など今までの知識をフル活用してきたので、難しいと感じる部分も多かったと思います。
 今行った計算で$${λ=-1,-2}$$と$${\vec{x}=\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix},\begin{pmatrix}2\\3\end{pmatrix}}$$を求めましたが、本当に$${λ\vec{x}=A\vec{x}}$$に代入したら成立するかを確認しましょう。($${A=\begin{pmatrix}1&-2\\3&-4\end{pmatrix}}$$のとき)
 $${λ=-1,\vec{x}=\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}}$$のとき、
左辺は
$${λ\vec{x}=(-1)\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-1\\-1\end{pmatrix}}$$
右辺は$${A\vec{x}=\begin{pmatrix}1&-2\\3&-4\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1×1+(-2)×1\\3×1+(-4)×1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-1\\-1\end{pmatrix}}$$となり、右辺と左辺が一致しました!では、もう片方の方はどうでしょうか
 $${λ=-2,\vec{x}=\begin{pmatrix}2\\3\end{pmatrix}}$$のとき、
左辺は
$${λ\vec{x}=(-2)\begin{pmatrix}2\\3\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-4\\-6\end{pmatrix}}$$
右辺は$${A\vec{x}=\begin{pmatrix}1&-2\\3&-4\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1×2+(-2)×3\\3×2+(-4)×3\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-4\\-6\end{pmatrix}}$$となり、右辺と左辺が一致しました!

(余談2)対角行列になる理由

$${P=(\vec{a},\vec{b},...)=\vec{x}とする。また、λを行列Aに対する固有値とする。\\(\vec{a},\vec{b}などは固有値ベクトルで、\vec{x}は固有値ベクトルの束のように見立て、1つのベクトルを意味する。)\\P^{-1}AP=\begin{pmatrix}λ&0&0\\0&λ&0\\0&0&λ\end{pmatrix}\\AP=P\begin{pmatrix}λ&0&0\\0&λ&0\\0&0&λ\end{pmatrix}\\A(\vec{a},\vec{b},...)=(\vec{a},\vec{b},...)\begin{pmatrix}λ&0&0\\0&λ&0\\0&0&λ\end{pmatrix}\\A(\vec{a},\vec{b},...)=(λ\vec{a},λ\vec{b},λ...)\\A\vec{x}=λ\vec{x}}$$
なんと、$${P^{-1}AP}$$が$${A\vec{x}=λ\vec{x}}$$の式へと変形されました。この式変形の逆を辿ることで、証明されるのです。

おわりに

 冒頭で説明した、「いろいろと式変形することによって$${P^{-1}AP}$$が登場すると同時に、実は固有値λ固有ベクトルがこんな姿になって現れます。
 $${P^{-1}AP=\begin{pmatrix}λ&0&・・0\\0&λ&・・0\\ :\\0&・・・&λ\end{pmatrix},P=\begin{pmatrix}固&固&…\\有&有&…\\ベ&ベ&…\\ク&ク&…\\ト&ト&…\\ル&ル&…\end{pmatrix}}$$  」

というところについて確認します。
 先程の例題で確認した固有値ベクトルは、$${\vec{x}=\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix},\begin{pmatrix}2\\3\end{pmatrix}}$$でした。
 では行列$${P}$$はどうなるのかというと、$${P=\begin{pmatrix}1&2\\1&3\end{pmatrix}}$$となります。
 これで、やっと行列$${A^n}$$を求めることが可能になります!次回はいよいよ行列$${A^n}$$を計算していきます!著者自身、今回の範囲が一番難しいと思います。最後まで見ていただきありがとうございます!

問題

追記です、練習問題をつくりました!
解答はこちらから!はじめての線形代数 練習問題5

基本問題

$${問1:以下の行列Aについて次の問いに答えよ。\\A = \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 3 & 0 \end{pmatrix}\\1.固有値を求めよ。\\2.固有ベクトルλ_1,λ_2を求めよ。}$$

$${問2:以下の行列Bについて次の問いに答えよ。\\A = \begin{pmatrix} 2 & -1 \\ -1 & 2 \end{pmatrix}\\1.固有値を求めよ。\\2.固有ベクトルλ_1,λ_2を求めよ。}$$

応用問題

$${問3\\次の行列について以下の問に答えよ\\C=\begin{pmatrix} 4 & 1 & 2 \\ 1 & 4 & -1 \\ 2 & -1 & 4 \end{pmatrix}\\1.固有値を求めよ。\\2.固有ベクトルを求めよ。}$$


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