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はじめての線形代数part2 ~Aⁿを求めよう!(逆行列編)


前回までのおさらい(Aⁿの求め方)

  1. $${A}$$をどうにかしてなんかすごい行列にする。

  2. なんかすごい行列をn乗する

  3. 2をどうにかして$${A^n}$$に戻す。

単位行列

 唐突ですが読者の皆さんは単位行列$${E}$$または$${I}$$をご存じでしょうか(本記事では$${E}$$を採用します。)
 前回の例のどうにかする方法を早く教えてくれとお思いになっているかもしれませんが、どうかグッと堪えて単位行列について理解を深めてもらいたいです。

単語を確認しよう

  • 対角行列・・・正方行列において、左上から右下に向かう対角線上にある成分以外はすべて0になる行列

  • 単位行列$${E}$$・・・対角行列の対角成分がすべて1の行列

  • 例(対角行列):$${\begin{pmatrix}2&0\\0&3\end{pmatrix}}$$,$${\begin{pmatrix}1&0&0\\0&2&0\\0&0&3\end{pmatrix}}$$,$${\begin{pmatrix}a&0&0&0\\0&b&0&0\\0&0&c&0\\0&0&0&d\end{pmatrix}}$$

  • 例(単位行列$${E}$$):$${\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}}$$,$${\begin{pmatrix}1&0&0\\0&1&0\\0&0&1\end{pmatrix}}$$,$${\begin{pmatrix}1&0&0&0\\0&1&0&0\\0&0&1&0\\0&0&0&1\end{pmatrix}}$$

 この単位行列の凄いところは数字の1のように積をとっても変化が起きないところです。
 $${1×a=a×1=a}$$のように、$${EA=AE=A}$$となるのです。試しに、$${A=\begin{pmatrix}1&-2\\3&-4\end{pmatrix}}$$として$${EA=AE=A}$$となるか確かめてみましょう。$${EA=\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&-2\\3&-4\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1+0&-2+0\\0+3&0-4\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&-2\\3&-4\end{pmatrix}=A}$$
$${AE=\begin{pmatrix}1&-2\\3&-4\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1+0&0-2\\3+0&0-4\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&-2\\3&-4\end{pmatrix}=A}$$
なんと! 成り立ちました。

Aⁿの求め方??

 単位行列を知るとある計算ができます
$${行列A,P,Qについて、PQ=Eが成り立つとする。このとき(QAP)^n=(QAP)(QAP)…(QAP)=QA(PQ)A…(PQ)AP=QAEA…EAP=QA^{n}Pとなる。}$$のです!
(行列には交換法則がないので$${(QAP)^n\neq{Q^n}{A^n}{P^n}}$$です、注意ポイントです!)
これって我々が求めたい$${A^n}$$に似ていませんか?そうです!これが前回のどうにかする方法なのです!

 なので$${A^n}$$の求め方を更新します。

  1. $${A}$$をどうにかして対角行列$${QAP}$$にする。

  2. $${QAP}$$をn乗する

  3. $${(OAP)^n}$$どうにかして$${A^n}$$に戻す。

どうでしょうか、目標に少し進みました。ただし、問題点が2つあります。

問題点

  • $${PQ=E}$$にするにはどうするのか

  • $${QAP}$$が対角行列になるにはどうするのか

この2つが前回同様、線形代数の基礎的な技術であり、醍醐味であります。今回含め3記事で上の問題を、2記事で下の問題を、合計あと5記事で問題を解決してみせます!

逆行列

逆行列とは

 初回では行列に割り算は存在しないと申しました。しかし、逆数に近いものは存在します。それが逆行列です。先にいうと行列$${A}$$に対して$${A^{-1}}$$と書きます。エーインバースと呼ばれます。また、$${AA^{-1}=E}$$となります。
 実数の世界では逆数とは掛けたら1になる数です。$${2}$$の逆数は$${frac{1,2}$$などです。$${frac{1,2}=2^{-1}$$とも書きますので、行列$${A}$$の逆行列は$${A^{-1}}$$と書きます。
 行列の世界ではそれが逆行列であり、掛けたら$${E}$$になる行列です。$${PQ=E}$$が成り立つとき、$${P}$$にとっての逆行列は$${Q}$$であり、$${Q}$$にとっての逆行列は$${P}$$です。つまり$${PQ=OP=E}$$です。
 $${P}$$の逆行列は$${P^{-1}}$$と書くので、これからは$${P^{-1}=Q}$$となります。したがって$${PP^{-1}=E}$$となります。

 あれ、行列には交換法則がないから$${PQ=OP}$$はおかしい!と思う方もいると思います。簡単な証明を下に書くので興味のある方は是非見てください。

$${証明:PQ=E,QR=Eとなる行列P,Q,Rを用意する。PQ=Eの両辺に右からRを掛けるとPQR=ER\Leftrightarrow{PE=ER}\Leftrightarrow{P=R}よりQR=QPとなるのでPQ=QP=Eとなる。}$$

逆行列の求め方

 逆行列には求め方が大きく分けて2つあります。

  • 簡約化を繰り返す

  • $${\dfrac{余因子行列}{行列式}}$$で計算する。

よくわからない単語が多いですが、どちらも大事な計算なので2つマスターしましょう。上の簡約化は、実は皆さん馴染みのある連立一次方程式と密接に関わりがあるので、今回はあと、連立一次方程式について記述します。

掃き出し法

行列の積を利用すると連立一次方程式が解きやすくなります。唐突ですが、ここで$${\begin{pmatrix}1&-2\\3&2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}}$$の積を考えていきましょう。それは$${\begin{pmatrix}x-2y\\3x+2y\end{pmatrix}}$$となります。このことから、行列は連立一次方程式を表現することができると分かります。

 ここで読者の皆様は連立一次方程式を解く方法として加減法と代入法以外の解法として掃き出し法をご存じでしょうか。これから紹介します。$${\begin{Bmatrix}x-2y=3\\3x+2y=1\end{Bmatrix}}$$を解いてみましょう。
 上段の式と下段の式を足して$${x}$$を求めたり(加減法)、上段の式を$${x=}$$の式に変形して下段に代入する(代入法)などの解き方を思い浮かべることでしょう。

 掃き出し法では、格段の式の文字数が1つになるように変形します。文字にするとややこしいですので、実際に見ていきましょう。

$${\begin{Bmatrix}x-2y=3\\3x+2y=1\end{Bmatrix}  \sim  \begin{Bmatrix}x-2y=3\\(3x+2y)-3(x-2y)=1-3×3\end{Bmatrix}       \\  \sim  \begin{Bmatrix}(x-2y)+2y=3+2×(-2)\\y=2\end{Bmatrix}  \sim  \begin{Bmatrix}x=1\\y=-2\end{Bmatrix}}$$

今の変形を言語化します。飛ばしていただいても構いません。(下段の式に上段の式の$${-3}$$倍を足しましょう。$${(3x+2y)-3(x-2y)=1-3×3}$$をします。下段が$${4y=-8}$$と$${y}$$のみの式になりました。すなわち$${y=-2}$$になりました。続いて上段の式に$${y=-2}$$の$${2}$$倍を加えます。$${(x-2y)+(2×y)=3+(-2)}$$をします。上段が$${x=1}$$となりました。)


簡約化

 さて、行列を利用すると連立一次方程式が解きやすくなると書きました。今見た掃き出し法を係数に着目することで行列に応用することができます。冒頭の例で見ていきましょう。$${\begin{Bmatrix}x-2x=3\\3x+2y=1\end{Bmatrix}}$$を $${\begin{pmatrix}1&-2\\3&2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}3\\1\end{pmatrix}}$$と考えます。

連立一次方程式「掃き出し法」で解きましたが、それを行列の世界では「簡約化」と呼称します。ここでは1つの行列の中に仕切りを設け左側に連立方程式の係数を、右側に方程式の解を並べます。簡約化の手順は以下の通りです。

  • ある行の式の定数倍を別の行に足す。

  • 1つの行は同じ数で割ることができる。(以下の3から4つ目の変形、2行目より)

  • 最終的に単位行列にする。

 実際の手順は以下の通りです。なお、簡約化の変形は「$${\sim}$$」、連立方程式と行列の表現に変形するときに「$${\Leftrightarrow}$$」を用いています。
$${\begin{Bmatrix}x-2y=3\\3x+2y=1\end{Bmatrix}\Leftrightarrow\begin{pmatrix}1&-2\\3&2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}3\\1\end{pmatrix}\Leftrightarrow{\left(\begin{array}{cc|c}1&-2&3\\3&2&1\end{array}\right)}\sim\left(\begin{array}{cc|c}1&-2&3\\3-(3×1)&2-(3×(-2))&1-(3×3)\end{array}\right)\sim\left(\begin{array}{cc|c}1&-2&3\\0&8&-8\end{array}\right)\sim\left(\begin{array}{cc|c}1+(0×2)&-2+(1×2)&3+(-1×2)\\0&1&-1\end{array}\right)\sim\left(\begin{array}{cc|c}1&0&1\\0&1&-1\end{array}\right)\Leftrightarrow\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}\Leftrightarrow\begin{Bmatrix}x=1\\y=-1\end{Bmatrix}}$$

おわりに

$${A^n}$$を求める手順は以下のようになりました。

  1. $${A}$$をどうにかして対角行列$${P^{-1}AP}$$にする。

  2. $${P^{-1}AP}$$をn乗する

  3. $${(P^{-1}AP)^n}$$どうにかして$${A^n}$$に戻す。

 また、行列を使うと連立一次方程式が解けること、そして行列の簡約化は仕切りの右側を単位行列にすることをまとめました。次の回では単位行列にできない場合を記載していきます。
 最後まで閲覧していただきありがとうございました。

問題

追記:練習問題を作りました!ぜひ解いてください!こちらのページが答えとなっております。はじめての線形代数 練習問題2

基礎問題

$${問題1\begin{Bmatrix} 2x - y = 3 \\ 4x + y = 9 \end{Bmatrix}\\この連立方程式を行列の簡約化を\\用いて解を求めてください。}$$

$${問題2.\begin{Bmatrix} x + 6y = -9 \\ 3x + 2y = 5 \end{Bmatrix}\\この連立方程式を行列の簡約化を\\用いて解を求めてください。}$$

$${問題3\\\begin{Bmatrix} 3x - 2y = 7 \\ -4x + 3y = - 8 \end{Bmatrix}\\この連立方程式を行列の簡約化を\\用いて解を求めてください。}$$

$${問題4\\\begin{Bmatrix}3x - 2y = 4 \\6x + 2y = 12\end{Bmatrix}\\この連立方程式を行列の簡約化を\\用いて解を求めてください。}$$

応用問題

$${問題5:\\行列 C,逆行列 C^{-1} が次のように与えられています。\\C = \begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 5 \end{pmatrix},\quad C^{-1} = \begin{pmatrix} -5 & 2 \\ 3 & -1 \end{pmatrix}\\逆行列 C^{-1}を利用して、\\連立方程式\begin{Bmatrix} x + 2y = 5 \\ 3x + 5y = 11 \end{Bmatrix}の解を求めてください。}$$

$${問6:\\行列 D,E が次のように与えられています。\\D = \begin{pmatrix} 2 & 5 \\ 1 & 3 \end{pmatrix},E = \begin{pmatrix} 3 & -5 \\ -1 & 2 \end{pmatrix}\\積DE を計算し、結果を連立方程式\\\begin{Bmatrix} 2x + 5y = 2 \\ x + 3y = 2 \end{Bmatrix}に適用して解を求めてください。}$$

$${問7:\\を利用して解を求めてください。\\\begin{Bmatrix} x - y + z = 2 \\ -2x + 3y + z = 2 \\ 4x -2y + 8z = 18 \end{Bmatrix}}$$

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