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【対談インタビュー】withコロナで私たちはどのように学生スポーツを発展させていけるのか

新型コロナウイルス感染防止のために、様々なスポーツが活動自粛・縮小を強いられています。学生スポーツも例外でなく、多くの関係者が今までどおりの活動ができない状態になっており、資金繰りの難化や、パフォーマンスやチーム力の低下など、様々な問題が起きています。

今回は、大阪体育大学教授・藤本淳也さんと、JLA(一般社団法人日本ラクロス協会)理事・安西渉さんをゲストに迎え、JLAのクラウドファンディングの事例を伺いながら「withコロナの状況でどのように学生スポーツを発展させていけるのか」ということを話し合いました。


20130719藤本先生写真

大阪体育大学 藤本淳也教授(専門はスポーツマーケティング)。関西の学生アスリートや部活動を支援する組織「一般社団法人大学スポーツコンソーシアムKANSAI(KCAA)」で副会長を務める。KCAAでは「大学生への新型コロナウイルス感染症拡大の影響調査報告」をWebで公開し、コロナ禍における学生アスリートの課題や不安を可視化した。


安西プロフィール写真②_20200501 (1)

JLA安西理事(CSO/最高戦略責任者)。東京大学入学後ラクロスを始め、大学卒業後はクラブチームで12年間プレー。現在は千葉大学ラクロス部でコーチを務める。2018年6月に理事に就任し、2020年3月からCSO。4月17日からクラウドファンディングサービス「READYFOR」でプロジェクトを開始し、1200万円以上の支援を集めた。


見えてきた学生スポーツの課題

ーーまずは、現状の学生スポーツの課題からお話できればと思います。藤本さんは大学生にコロナ禍における意識調査をされました。明らかになったデータで、印象に残っている部分はありますか?

藤本さん:
想定していた以上に学生の感染に対する不安感が大きいことですね。さらに、それらの不安の対象は漠然としたものではなく、例えば電車、駅、トイレ、大学の教室など具体化されたものでした。「部活動の練習中や、部室、ロッカールームなどの共有スペースで、感染の不安がある」といった回答が集まっています。調査を開始した4月初旬の時点ではもう、学生たちも感染に対して不安があり、それを意識した上で行動していたことがわかりました。


ーー安西さんは千葉大学のラクロス部でコーチをされていますが、選手のモチベーションの変化は感じられますか?練習や大会が中止になり活動ができないことで、競技へのモチベーションが低下しているのでは、と思っているのですが。

安西さん:
私が教えている学生達に関してはモチベーションの低下は見られないですね。主将がリードしながら、各々が切り替えて、チーム全体で今できることは何だろうかという雰囲気になっています。

選手同士のコミュニケーションがオンラインになった分、以前よりも意図的に顔を合わす機会をチームで作るようにしています。毎日最低5分、メンバー同士がオンラインでコミュニケーションを取り合っています。

藤本さん:
安西さんのように、いい指導者がいるチームは大丈夫なんですよ。大阪体育大学でもほとんどの運動部の指導者が、部員数が100人、200人の部活動でも、毎日体調をチェックしたり、選手同士がコミュニケーションをとっています。一方で、どちらかというと学生が運営主体の部活動やサークルは、モチベーションを維持することに苦労しているかもしれません。

安西さん:
そうですね。ラクロスは必ずチームに資格を持った指導者がいることもあり、何かしら効果的な手を打ってモチベーションを維持できているのだと思います。

普段、選手は勝つために努力しています。しかし、今の状況では勝利の代替とはいかないまでも、勝つことのさらに奥にある何かをモチベーションとしている学生もいます。例えば、最大限勝つための努力をしつつ、それを「ラクロスの未来に何か残す」ことにつなげて考えたりしています。


支援することで愛着が高まる

ーークラウドファンディングの支援は、まさに「ラクロスの未来に何か残そう」としている行動が可視化されましたね?

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クラウドファンディングサイト「READYFOR」のプロジェクトページ

安西さん:
そうですね。ラクロスはプレーヤーの大半が大学から競技を始めるカレッジスポーツなので、新歓活動の成果はプレーヤー人口に直結します。自粛の影響で新歓活動ができなくなったとわかった3月の時点で、選手たちがすでに新歓活動をオンラインに切り替えようとして動いていました。オンラインで部活動の説明会をしたり、履修登録の相談会をやったり、大学生活全般に関するアドバイスするような、オンラインセミナーみたいなのをやったりとか結構していたんですよ。

ただ、オンラインの取り組みって、そもそもラクロスというスポーツを知っててくれないと絶対に接点がないので、そもそもラクロス知らない人にリーチできないなと思ったんですね。そこで、協会として何ができるのかと考えた時に、SNS広告を打つことにしました。その資金をクラウドファンディングで集めようと思ったんです。

ただ、私がやりたかったのは、単にお金を集めることではなくて、「ラクロスコミュニティ」をひとつにしたかったんです。ひとつの課題に対して方向性を共有して、「あっちに向かっていこうぜ」っていう一体感を作りたかったんですよね。そういう意味でクラウドファンディングを利用して、高いレベルで支援とコミュニティの一体化を実現できたのは良かったです。


ーーJLAのクラウドファンディングのサイトを見た時、藤本さんはどういった印象を持たれましたか?

藤本さん:
1200万円以上の寄付が集まっていたのは驚きました。正直、よく集まったなという印象です。マクロミルという調査会社がクラウドファンディングサイトの意識や実態の調査をまとめていたのですが、クラウドファンディングを閲覧したことがある人は16%、その中で実際にプロジェクトに支援したことがある人は6.6%なんです。それくらい寄付を集めるのは難しいんです。

こういう場合、マーケティングの観点からいうと、プロジェクトを立ち上げる時、ターゲティングが一番重要になります。つまり、そのプロジェクトは誰を狙っているのかということです。そういう意味では、安西さんが立ち上げたプロジェクトは、ラクロス関係者のアイデンティティを確実にくすぐっているはずなんですよ。また、クラウドファンディングで面白いのは、応援したい気持ちを持っている人が支援をするのですが、支援を通して応援したい気持ちが高まるということです。

これも先ほどの調査でデータとして可視化されていて、およそ9割の人がリターンされたもの・ことに「愛着がわいた」と回答しています。つまり、支援という行動を起こしたことによって、愛着が高まるんですよね。

これは、スポーツファンも一緒なんです。チームに強い愛着を持っていない人も、応援することで愛着が高まっていくんです。そういう意味では、JLAのクラウドファンディングは、プロジェクトによって、愛着心がくすぐられて、愛着を行動に移して、そしてさらに愛着が高まるというサイクル生み出すことができたことが成功の要因だと思っています。私としても興味深くて、授業のネタとしても、いい知恵を頂いたと思っています(笑)。

安西さん:
ありがとうございます(笑)。藤本さんが話されたとおり、クラウドファンディングのお金を集める機能というのは部分的なもので、その本質は善意の可視化だと思っています。プロジェクトサイトでは、支援者の名前や応援メッセージが並ぶので、支援した人の善意が強化されることに繋がっています。

必要なのは「助けてください」の
メッセージではない

ーー藤本さんがJLAのプロジェクトでは、支援者のアイデンティティをくすぐった何かが隠されていると推測されていましたが、実際のところ意識的に何かアクションしていたのでしょうか?

安西さん:
そうですね。実はプロジェクトの公開前からSNSを使ってラクロスコミュニティのアイデンティティを問いかけ続けていました。

まずは、協会HPで「全てのラクロス関係者のみなさまへ」というメッセージを発信しました。このメッセージでコミュニティに向けてトップから気持ちを伝えたんですね。

「歴史の若いJLAにとっては困難と逆境こそ一番力を発揮できる場所」
「フロンティア精神は昔からの仲間たちにも、新しい仲間たちにも宿っている」
「異なる個性をいかして力をあわせ、日本のラクロスをひとつに乗り越えていこう」

最後に、日本ラクロスの節目節目で使われてきた「Keep the fire burning」というキャッチフレーズをつけて。これをキャンペーンとして、SNSで毎日投稿してきました。そうすることで、「ラクロスコミュニティは一致団結して逆境を乗り越えていくんだ」いう気運を高めていきました。

JLAのインスタグラムの投稿

また、途中からコンセプトを変えて、「keep the futer of Lacross(ラクロスの未来を守ろう)」というキャンペーンを展開して、その後クラウドファンディングを始めたという流れです。


ーー外から見ている限りでは、クラウドファンディングがスタートしてからコミュニティの熱量が高まったように見えたのですが、実際にはその逆でプロジェクト公開前からコミュニティの熱量を高めていたのですね。

安西さん:
はい。95%くらいは事前に完了していました。クラウドファンディングは初速で成果が決まると言っても過言ではないです。初速を最大化できるようにプロジェクト公開前の仕込みに時間をかけました。

また、当初プロジェクトの達成金額は200万円に設定していました。500万円でも良かったんですが、プロジェクトを初速の勢いのまま達成したいと思っていました。初日とかでプロジェクト達成すると、ラクロスコミュニティの人たちが「なんだ!俺たち、すごくないか?」「やっぱりラクロス、みんな愛しているんだ」と実感できるので。

もちろん、200万円を初日に達成する算段を立てていまして、プロジェクト公開前からオープン直後に支援してくれないかと個別に営業をかけていました。この時点で250万円分くらいは、初日に集まることが予想できていました。

藤本さん:
JLAの取り組みで秀逸だと思うのは、メッセージなんですよ。寄付を集めたり、支援を募るときによく使われるのが「助けてください」というメッセージなのですが、それだと自分たちの組織力の無さを露呈してしまうことにもなります。初めてクラウドファンディングなどに取り組む団体などが、陥りがちなんですよね。

JLAの事例は、「助けてください」ではなくて、未来に対する投資を呼びかけるメッセージが主体なんですよね。しかも、コロナへの不安とその影響が増大する中で、プロジェクト公開前からアイデンティティをくすぐる発信を始めていた。それが成功の大きなポイントになっていると思います。

メッセージを通して、「ラクロスって誰のもの?」「俺たちのものだろう」と問いかけ続けることで、コミュニティの帰属意識も高まり、結果として支援に繋がる。そして、支援したことでさらに帰属意識が高まる。やはり、クラウドファンディングのマーケティングで重要なのは、「誰のアイデンティティを、どのようにして、くすぐるのか」ということです。それを学ぶいい例をJLAが作ってくれたと思います。


withコロナで問われる組織文化

ーー他のスポーツ団体で今回のラクロスモデルを展開しようとした時に、ネックになりそうなポイントはありますかね?

藤本さん:
伝統的なスポーツ団体の多くは、このような実験的な取り組みを行うには意思決定に時間がかかってしまうと思います。前例のない事業や新しいチャレンジに二の足を踏んでしまうからです。

ただ、withコロナの状況はそれ自体が前例がない社会情勢なのですから、前例がないことでも実験的にチャレンジをしていく必要があると思います。危機的状況化はイノベーションを加速させます。イノベーションの創出にチャレンジする意思決定が速い組織とそうでない組織の差は、今後、より拡大していくのではないかと思っています。

安西さん:
JLAって、理事の平均年齢が45歳なんですね。比較的若いスポーツ団体なんですよ。理事をやっている人たちも、普段はビジネスマンであったり、マネージメントをしている方たちが多いので、経営的な観点で組織を運用していくことができています。今回のクラウドファンディングの取り組みも、最低限のリスクマネージメントだけして、すぐに「やってみようよ」というような雰囲気になりました。

JLAは2018年に一般社団法人化を行い、大胆な組織改革を行ったんです。可能な限りオープンなプロセスにするべく、第三者機関の諮問委員会ADB(=Advisory Board)とも相談し、公募も含めた多くの候補者の中から理事と監事をピックアップし、結果的に2/3の新しい理事監事が選任されました。

この組織改革の直後に協会内で、「どのようにラクロスの未来を創っていくか」という未来志向のディスカッションを重ねたので「何をやるべきか」の共通認識があるんです。これが迅速に意思決定ができる組織の下地になっていると思います。

withコロナの状況では、協会も変わらないといけない。例えば僕は、物理的なオフィスありきの協会運営を変えてしまっても良いと思っています。この自粛期間で、オンラインでオペレーションできることが分かったので。電話もやめてよいかも知れません。

ただ、なんとなく顔を合わせて空気を共有して、たわいもない話をするみたいな場所は、かならず確保しなければならないと思っています。それは、別にどこかのカフェとコラボレーションして、このカフェをJLA職員だったら100円引きで使わせてくれ、というのでも良いと思っています。大事なのは、共有できる空間を持っていることであって、オフィスがあることではありません。コロナの状況下で、どちらかというと攻めの姿勢で組織を変化させていくのが良いと思っています。

藤本さん:
素晴らしいですね。JLAが他の組織と決定的に違うのはマーケティング力ですね。安西さんみたいな人がいれば、どんな状況においても新たなマーケティングにチャレンジすることがJLAの「組織文化」となって発展を支えると思います。

このような組織文化の創造には、物事に実験的に、チャレンジとして取り組める環境が必要と思います。「お前ら頑張れ。失敗したら俺が責任取る」という人がいるか、いないかで、意思決定のスピートは大きく異なりますね。今の厳しい社会情勢は変革のタイミング出もあります。こういったビジネスマインドを持っていない組織は今後厳しくなっていくのではないでしょうか。

選手は自ら動いていく時代へ

ーーwithコロナでは、選手と組織はどのように変わっていくのでしょうか?

藤本さん:
組織が抱える選手が、これまで以上に自ら考えて動いていくようになっていくと思います。コロナの自粛期間で、選手は「今、自分に何ができるのか」を考える時間ができました。この時間で、自己管理の意識が強まったと思います。

例えば、チームとして練習を再開したタイミングで体力が落ちていれば、それはその選手の責任になります。なので、自主的にトレーニングしたり、体のケアをする必要性があります。すると、今まで受け身で練習していた選手が、自己責任感が強くなり前向きになってくる。これは長期的に見たときに、スポーツの発展に繋がると思っています。

安西さん:
選手の自己責任感の高まりは私も感じています。以前まで、JLAは代表選手のSNS上の活動はリスクがあるので控えなさいと言ってきました。それを切り替えて、クラウドファンディングのときには「日本のラクロスを支える為に自分で何かできるか考えて、それを表現して欲しい」と言ったんです。今、選手は自分が見られていることを自覚していて、正しい行動をとれば、それが未来に繋がるんだという行動マインドを持っています。

また協会としても、これからはノウハウや仕組みよりも、状況に合わせて柔軟で未来志向な行動マインドの方が重要になる、と考えています。

ですので、今回のクラウドファンディングだけでなく、JLAが色々チャレンジして得られたノウハウは全て惜しみなくオープンにお伝えしようと考えていますので、気軽に連絡してきてほしいです。他の競技団体の方と一緒に日本のスポーツシーンを盛り上げられると嬉しいです。

自粛期間中にラクロスの魅力を選手が
noteで発信し始めるようにもなった

また、私がそれらを学生に伝える前に、学生は自らすでに動いていて、すでにそういうマインドになっていましたね。5月16日(土)には学生が発起人となって、コロナの状況下で、チームとして個人としてどう向き合っていくべきかを討論する「学生ラクロスサミット」というのをZoomとYouTube Liveを組み合わせて開催していました。私がセミナー部分を担当させていただいたんですが、合計で500人ほどの学生が集まってそれぞれの悩みや不安を共有し、終了間際になっても参加者からの質問が途切れず、結局開催時間を2時間から3時間に延長することになりました。

第一回学生ラクロスサミットの様子


ーー自発的に学生も動いて、その変化に適応しようとしているんですね。

安西さん:
そうですね。ただ、その変化の適応は選手だけではなく、チーム、ファン、協会、それぞれに求められています。スポーツの価値を再定義するタイミングなんですよね。そもそも、なぜスポーツをするのか、なぜスポーツを見るのか、そういう原点から改めて再考するいい機会なんじゃないかなと。

そういう意味で、やはり組織のトップが出すメッセージが重要になってくると思います。スポーツの在り方そのものが問われているタイミングなので、少なくともトップの想いは共有しておくべきだと考えます。

藤本さん:
安西さんがおっしゃるように、トップのメッセージは非常に重要になっていますね。日本は様々な災害を乗り越えた国です。それを乗り越えてスポーツが社会と経済を元気にしてきたのも事実です。それが、このコロナの状況でも必ず来るんですよ。スポーツの力が日本を世界を元気づけるタイミングが。その時まで、選手、家族、友達、大学、コミュニティが前向いていけるようなメッセージをトップが出し続けることが必要だと思います。


ーーありがとうございました。



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