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女子アスリート健康相談室Vol.3 女性特有の課題を知ろう

近年、女性特有の課題が取り上げられることが多くなってきました。みなさんも女性の身体について正しい知識を身につけ、より素敵なハンドボールライフを送りませんか? 弊誌『スポーツイベント・ハンドボール』2019年12月号から20年6月号まで連載していた婦人科スポーツドクターの高尾美穂先生による「女子アスリート健康相談室」を全文公開します。第3回目は、女性特有の課題について。
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高尾先生プロフ

女性特有の課題とは

第1回では、女性の身体の特徴について、第2回では、生理の仕組みについて学んできました。3回目を迎える今回は、私たち婦人科医が「女性特有の課題」という表現をよく使っている生理周期にかかわる問題を具体的に見ていきましょう。

前回お伝えしたとおり、生理にまつわるアスリートの問題は大きく2つに分かれます。生理が来ないことと、生理が来るけれども、その生理について困っているということです。この2つの問題は分けて考える必要があります。ハンドボールのような体重制限のないスポーツでは、1つ目の生理があまり来ませんという人は少ないので、この連載では、2つ目の問題点に焦点を絞ってお話ししていきます。

コンディションの変化から抱えている課題を知ろう

生理が順調に来る女性アスリートに対し「調子がいい時期はいつですか?」と質問すると、多くが「一番調子がいい」と答えるのが、生理直後、または、生理後です。じつに7割くらいの人が、この時期は調子がいいと感じているようです。しかし、生理中と答える人もいれば、どの時期でも関係ないという人もいるので、自分がどの時期が調子がいいのかを知ることから始めましょう。前回お伝えした基礎体温の記録の仕方も踏まえながら、自分の1ヵ月の生理周期を眺めてみて、調子がいい時、悪い時を把握することが、まずはとても大事です。

次に「調子が悪い時期はいつですか?」と聞いてみると、生理中と回答する人と、生理前と答える人の2つのグループに分かれます。生理中に調子が悪いと感じる理由の多くは、月経困難症と言って、世の中では生理痛と呼ばれているものです。もう1つの生理前に起こる調子の悪さは、月経前症候群(PMS)と言われる症状をさします。アスリートに限ると、4分の3くらいの人が、生理前に、なんらかのイマイチさを感じると答えています。

このことからわかるように、かなりの女性が、生理周期によって体調の変化があり、治療の有無にかかわらず、どこかしらの時期に、なにかしら調子が悪いなと感じているのです。

生理前に調子が悪いのが月経前症候群(PMS)

生理前に調子が悪いという人の特徴は、生理前だけが調子が悪いということ。なので、生理が来てしまえば、調子はよくなります。

また、身体がむくむ、食欲が増える、おなかが痛いといったような身体の不調と、気分が落ち込む、イライラする、感情のアップダウンが激しいといったメンタルの不調の2つに分かれるのもPMSの特徴の1つです。

身体的な不調は比較的自覚しやすいものですが、メンタル的な不調は、生理が来て初めて「あ! 生理前だったんだ。だからイライラしていたのか!」と、気がつく場合もあります。

PMSは個人差が大きく、症状が出るのは生理の3〜10日前と言われています。生理が来ても改善しない場合は、PMS以外の原因がある可能性がありますが、生理が来たら調子がよくなるという人の場合には、一度婦人科に相談してみることをおすすめします。

生理中に調子が悪いのが月経困難症

例えば、生理中に学校や部活の練習を「1日休みたくなっちゃうな」と思うくらい生理が重いよという人は、その時点で月経困難症と言えます。生理は病気ではありませんが、生理痛が重い状態は病気ですので、まずは婦人科に相談しにいってほしいと思います。

では、月経困難症で来院した患者さんに対して、婦人科でなにをするかというと、病気の有無によって分けて考える必要があるため、まずエコー(超音波)検査をします。

病気があって生理が重い場合は器質性月経困難症と呼ばれ、その代表が、子宮内膜症や子宮筋腫と呼ばれる疾患が原因となっている場合です。こういった病気は生理が来るたびに少しずつ悪化していくので、検査で診断がついた場合には、その原因疾患の治療をします。治療によって病気自体も進行せず、毎月の生理も軽くなります。

逆に、病気がない機能性月経困難症の場合、なぜ生理が重くなってしまうのでしょうか。それは、子宮に原因があります。

子宮というのは、マヨネーズのチューブのようなイメージです。チューブから中身を出す時に、出口が大きく開いていないと、なかなか出てこないですよね。そうすると、中身を出すために、チューブを強く握りつぶさなければいけなくなります。

中身が出ていくタイミングの時に、出口が開く準備ができていない。つまり、子宮が未熟な若い年代に月経困難症が多いというわけなんです。それはちょうど成長期のアスリートの年代にも当てはまります。

子宮(=チューブ)を握りつぶす力というのは、出ていきたい内膜(=中身)が生み出す力です。これはプロスタグランジンと呼ばれる物質によって引き起こされる現象で、この物質の働きのために、私たちはお腹が痛いと感じるわけです。

痛み止めは早く飲まないと効かないと言われますが、その理由は、プロスタグランジンが作られる過程をブロックするのが痛み止めの役割だからです。

しかし、「早く飲んでください」と言っても、なかなか早くという感覚が伝わらないものです。なので、私は「次の生理が始まったら、チラっとでも出血が見られたらすぐ飲んで」と話します。このタイミングであれば、たいてい、プロスタグランジンが作られるより前にブロックすることができるので、少しは楽に過ごせるのではないかと思います。

15才未満の場合は小児という扱いになるので、痛み止めについても、本来はきちんと病院でお医者さんに相談して処方してもらうのが望ましいです。ただ、すでに身長、体重が成人に近しいところまで成長している場合、15才の何ヵ月か手前でも、お母さんが普段使っているような痛み止めを使用しても大きな問題はないと、一般的には考えられています。

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【図】生理周期と女性特有の課題が起こる時期

パフォーマンス向上のためなにがベストかを考えよう

トップアスリートも9割を超える人が、生理痛に対しては痛み止めを使っています。

痛み止めはドーピングチェックに引っかからないし、使いすぎると効かなくなってしまうということは心配する必要はないので、自分の生活の質(Quality of Life, QOL)を上げることを一番に考えて、正しく使ってもらえたらと思います。

そして、アスリートにとってQOLを上げるということは、パフォーマンスの質や集中力を上げることに直結します。ですので、その部分をきちんと理解して「自分がこうしたいから、この方法を選ぶ」という考え方をしっかり自分の中で確立させることが大事です。

だから、まずは生理周期を眺めて、自分の調子のいい時を知ること。その時期は集中して試合や練習に臨むことができるはずなので、試合の日がこの時期に来たらいいなという考え方すらできるのです。

そして、調子が悪いのはいつなのかと考えて、生理中なら原因はなにかを探してみてください。病気があればその治療をして、改善していきましょう。

ただ、一般的に病気が発見されるのは30代以降の人たちが大半で、アスリートと呼ばれる人たちは機能性月経困難症の方が多いです。しかし、あくまでも月経困難症。なので、そこは胸を張ってという言い方はおかしいですが、もう生理が重いけれど我慢するという時代ではないということは、みなさんに知ってもらいたいと思っています。対策方法はありますから!

次回は、女性特有の課題を解決するために、具体的な対策の1つである「ピル」について、詳しくお伝えしていきます。

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