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女子アスリート健康相談室Vol.1 女性の身体の特徴を知ろう

近年、女性特有の課題が取り上げられることが多くなってきました。みなさんも女性の身体について正しい知識を身につけ、より素敵なハンドボールライフを送りませんか? 弊誌『スポーツイベント・ハンドボール』2019年12月号から20年6月号まで連載していた婦人科スポーツドクターの高尾美穂先生による「女子アスリート健康相談室」を全文公開します。第1回目は、男性と女性の違いについて。

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大きな差が現れるのは第2次性徴以降から

みなさん初めまして。婦人科医の高尾美穂です。私はこれまで婦人科スポーツドクターとして、さまざまな女性トップアスリートをサポートしてきました。

今回から「女性スポーツにかかわる立場から見る女性特有の課題」について、みなさんにお話ししていきたいと思います。

まず、男女の違いから話を進めていきましょう。

生まれてすぐに外陰部(股)を見ればすぐにわかる男女の違いを第1次性徴、外陰部を見なくてもわかる男女の身体つきの違いが出てくる時期に起こる身体の変化を第2次性徴と呼びます。女子の場合、だいたい10〜12才くらいで第2次性徴を迎えるケースが多いです。

一番の大きな変化は、身長の伸びと体重の増加。この時期は、骨格がひと回り大きくなる大事な成長のピークにあたります。

男子は11㎝、女子は8㎝ほど身長が伸びる1年間があり、女子は成長のピークを迎えた約1年半後に初めての生理(初経)が来ることがわかっています。ちゃんと身体が成長しない限り、初経を迎えることはできません。

幼いころから1つの競技だけを続けている選手は、この成長のピークが抑えられてしまう可能性が少なからずあります。子どもにスポーツをさせている親御さんには知っておいていただきたい情報です。

初経は、卵巣からエストロゲン(注)が分泌されないと始まりません。この卵巣が働き始める第2次性徴の変化が、女性の人生においてはとても大事だと、まずは覚えておいてください。

ここまで性徴についてお話ししてきましたが、じつは第2次性徴前には、骨格や運動能力に有意な男女差はありません。身長、体重、走る能力、ボールを投げる能力、どれに関しても明らかな差はないのです。

骨格的にも、運動能力的にも男女差がめだち始めるのは、第2次性徴以降。男子は筋肉質に、女子は脂肪質に変わっていきます。このため、どうしても女子の場合は身のこなしが重くなりますが、それは女性特有の変化だと受け入れながら、競技を続けてほしいと思っています。

(注)エストロゲンとは、卵胞ホルモンとも言われる女性ホルモンのこと。月経においては子宮内膜を厚くする働きがある

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【表】第2次性徴における男女の身体の変化

身体的特徴から見る女性特有の課題とは

骨格的な違いとして有名なのは、骨盤の形状です。

女性の骨盤は、赤ちゃんが出ていける出口を持っていなくてはなりません。それゆえ、骨盤下口部分(骨盤底)が赤ちゃんの頭の形に合わせた、横長の楕円形をしています。

一方で、男性の骨格は下向きの三角形とか、ハート型と言われるように、赤ちゃんが出ていけないような小さな穴しか準備されていません。

実測では男性の骨盤の幅の方が広いのですが、女性の骨盤の幅は、女性の身体の中では幅の広い部分となるのです。

この違いが、ヒザの安定性に影響してきます。

人間の大腿骨は、骨盤から幅の狭いヒザに向かって斜めに存在している位置関係にあり、この角度のことをQアングルと呼びます。この角度が大きければ大きいほど、ヒザは横からの衝撃に対する抵抗力が弱くなり、安定性も悪くなります。

女性は骨盤の幅が相対的に男性よりも広いので、この角度もより広くなる傾向にあります。

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さらに、ヒザ周りの筋肉量は女性の方が少ないので、余計にヒザは女性がケガをしやすい場所と認識したいところです。

ヒザのケガというと、スポーツ選手に多いのが前十字じん帯(ACL)の損傷ですね。これは、大腿骨とヒザから下の骨をつなぐじん帯が切れる状態のことですが、だれかとぶつかって切れるというよりも、単独で起こすことの多いケガです。

走っていた方向と別の方向に切り返そうとした際、ヒザから下の骨は止まろうとしたけれど、ヒザから上の大腿骨は、止まれず前に滑っていきそうになる。その時にACLが切れてしまうケースが多いのです。

ACLを損傷した場合、まず手術が必要で、その後6ヵ月はリハビリ生活になります。なおかつ、10代でACL損傷をした選手の19%が現場復帰できておらず、女性は男性の8倍も多いというデータが存在します。

とくに、学生スポーツには期限があります。高校生であれば夏に引退と考えると、2年半の間にどれだけがんばれるか、ですよね。そう考えると練習のできない6ヵ月はとても痛い期間。単独でのケガならなおさら避けたいところです。それゆえ、サッカー協会が提唱するFIFA11+のように、各競技団体がACL損傷を予防する取り組みをしています。

試合や練習前のアップでは、筋肉を温める、心拍数を上げるといったベーシックな身体の準備に加えて、とくに女子の場合は、ACL損傷をしないための対策を行なうなど、男子とは違う視点でメニューに取り入れる必要があるのです。

このACLの例のように、今はアスリートのケガに男女差があるということが、ハッキリ言える時代です。女子は男子と同じことをしていれば最大限のパフォーマンスが出せるわけではないので、指導者の方にはこのことをとくに理解していただきたいです。

骨格的な違い以外にも注目してみると、男子に比べて女子は筋肉量が増えにくいということもあげられます。

タンパク同化ホルモンが少ないのがその一番の理由です。

では、どういった状態であれば、タンパク同化ホルモンが少ないながらもしっかり出せるのかというと、生理がある程度ちゃんと来ている人の方が、筋肉量が増えやすいことがわかっています。

そのため、生理が止まってしまうようなダイエットなどは避けましょう。生理がある=エストロゲンがある状態でタンパク同化ホルモンをしっかり分泌することで、筋肉量を増やしてパフォーマンスを上げるのが、一番理に適っています。身体が軽い方が動きやすいという考え方は合理的ではありません。

競技を続けるうえでは初経年令が大事

女性特有の課題において、女子アスリートに知ってほしいのは、初経が来てほしい年令についてです。15才までには初経があってほしい。その理由は、生理を起こすエストロゲンには、骨を強く保つ働きがあるからです。

スポーツを続けるということは、普通に生活をするよりも骨に相当な負荷がかかります。その動作をアスリートは毎日のように繰り返します。そう考えると、一般の人よりも骨は強くあってほしいですよね。

一般的には18才までにと言われていますが、運動を習慣にしている人は15才までに初経を迎えるのが望ましいことを1つ覚えておいてください。15才までに初経がないケースにおいては、16才前後で疲労骨折を起こすアスリートが多くいます。

15才までに生理が来ていなければ、一度婦人科に相談してください。

次回は、女性特有の現象である生理について詳しく解説していきます。

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