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音楽を味わう贅沢な時間 - 奇妙礼太郎 Billboard Live OSAKA -

 昨年、齢26にして初めてビルボードへ足を踏み入れた。その時も奇妙礼太郎を観に行った。友人とふたりで、「大人の空間やなぁ、緊張するなぁ」とこそこそ話しながら。公演が終わったあとはお互い夢見心地で、ふわふわした足取りで帰路に着いた。そのことを昨日のように思い出す。本当に、忘れがたい経験だったのだ。

 ふだん私が音楽を聴きに行く会場は、おおよそがオールスタンディングのライブハウスだ。大音量の音を浴びながら身体を揺らしたり、踊ったり、周りともみくちゃになったりしてたのしむ。座席指定のホールライブですらほとんどない。年に数度あれば多い方だ。だから私にとって、ビルボードのような「テーブル席でごはんやお酒をたのしみながら音楽も味わえるという空間」というのは、「音楽を聴く」という行為の中ではもっとも贅沢なものなのである。

 もう20代も半ばをすぎた働く女なのだ、年に1度くらいこういう機会があっても良いだろう。ということで4月にチケットを取った。ちょうどライブの翌週(わ、もう今週だ)に誕生日を迎えることもあったので、「自分誕プレ」ということにした。あの時の自分、本当にありがとう。最高のプレゼントだったよ。

 6/13の奇妙礼太郎バンドは、もうすっかりおなじみの5人組。奇妙礼太郎(Vo)、潮田雄一(Gt)、村田シゲ(Ba)、松浦大樹(Dr)、中込陽大(Key)である。全員色気のある大人の男性なのだけれど、みんな時々少年の部分が顔を覗かせる。そこがとても魅力的だ。いいな、と思う。うつくしいな、とも。

 この日のセットリストは、オリジナル曲の中に色とりどりのカバー曲が満載。なんでも、バンドメンバーみんなで持ち寄って決めたんだとか。奇妙さんの「歌」で、メンバーたちの「演奏」で、その曲たちはオリジナルとはまた違う照らされ方をする。おなじみの有名な曲でも、「あれ、こんな表情あったんだ!」と、知らなかった顔がひょこっと覗くのである。すごいことだ。

奇妙礼太郎 Billboard Live OSAKA 2nd(第2部)セットリスト
1.決戦は金曜日(DREAMS COME TRUE)
2.エロい関係
3.穴
4.Bring It On Home To Me(Sam Cooke)
5.Rock Your Baby(George McCrae)
6.明るい窓(池間由布子)
7.中2丁目
8.ピアノメン
9.行くあてなし(有山じゅんじ)
10.More Music
en1 銀河鉄道999(ゴダイゴ)
en2.心の瞳(坂本九)

 しょっぱなの“決戦は金曜日”にはおどろいた。奇妙さんがドリカムを歌っている! しかもめちゃくちゃ似合っている! 松田聖子やユーミンなど、女性曲も多くカバーしている彼。あぁ、なんでも似合うんだな、というか、なんでも似合わせちゃうんだな、と思い、自分で腑に落ちる。“穴”では中込さんことゴメスさんの弾くピアノにもたれかかったり、軽やかな足取りでステージ中を歩き回ったりする。ライブというより「ショウ」を観にきたような心地だ。

ちなみに同じバンドメンバーで去年演奏した“穴”のライブ映像がこちら。

 そしてSam Cookeの“Bring It On Home To Me”。おばあさんに買ってもらった黄色のカセットウォークマンで、中学の頃、通学中によく聴いていたそうだ。地元の最寄駅の話をするから余計に情景が浮かんでしまい、学生服姿で歩く奇妙さんの姿まで想像してしまった(隣の駅に何度か降り立ったことがある(笑))。この曲はこれまでも弾き語りやインスタライブで度々歌っていたので、きっと彼の中でかなり特別なんだろう。

 この日のセットリストの中で、私がいちばん掴まれてしまったのが、アンコール2曲目の“心の瞳”だった。私たち世代(私は1992年生まれ)は、きっと中学生の頃に学校で歌ったんじゃないだろうか。私も例に漏れず中2で習い、転校する直前の学年対抗合唱コンクールで歌った記憶がある。なので、ずっと合唱曲なんだと思っていたけれど、調べたら坂本九の曲だった。

たとえ あしたが 少しずつ見えてきても
それは生きてきた 人生があるだけさ
いつか若さを失しても 心だけは
決して変わらない 絆で結ばれてる 
(心の瞳)

 あの時から「いい曲だなぁ」と思っていたのだけれど、この日の刺さり具合は尋常じゃなかった。あぁ、この曲、大人になってからの方が響くんやなぁ、としみじみ。奇妙さんの沁みる歌声とエモーショナルな感情を呼び起こすバンドサウンドが絶妙に絡み合って、私の心に揺さぶりをかけてきたのだった。

 そういえば、どこかのMCで奇妙さんが言ったことがすごく印象に残っている。

「僕はステージで演奏する側だけど、そちら側にいるみなさんと、ひとつのライブをつくりあげている感じがとても好きで。だから、こういう仕事をしています」。

 歌いながら、踊ったり駆け回ったり、寝転んだり飛び跳ねたりとどこまでものびのびと自由な奇妙さん。こちら側が彼の煽りに応えると、「頼もしいですよ! みなさん!」と嬉しそうに笑っていたのは、あぁなるほどそういうことだったのか。

 演者側と観客側と、お互いが共鳴しあって生まれる熱量。その暖かさで会場が一体になる気持ちよさ。とてもわかる。本編最後の数曲は、奇妙礼太郎バンドの魔法にかかっちゃって、ビルボードなのにみんなスタンディングでこぶしを突き上げていたもんなぁ。みんな我を忘れて、子どものような無垢な瞳でステージを見つめていたものなぁ。とかいう私も、たぶんめちゃくちゃ笑顔で手をあげていたと思う。「たのしい〜!」ってひとりで言っちゃってたもの。バンドメンバーも互いの音を重ねるたびに好奇心で濡れた目で見つめあっていて、あぁ、バンドっていいなぁ! と心の底がうれしさで震えた。こういう「生」の瞬間を見たくて私はバンドを観に行っているのだ、と思う。

 ライブが終わった後も、この日の夜のことをなんども噛み締め、味わい、反芻した。耳も心も身体も、自分の中のすべてが暖かかった。音楽を聴いて、ライブを観て「しあわせだ」と思えるしあわせを、胸に抱きながら帰路についた。「あぁ、明日有休取っといてよかったぁ。余韻で仕事どころじゃないわ」と思いながら。こうしてまた私はひとつ、奇妙さんにメロメロになったのでした。



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