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ぼくだって、世界の中心で愛を叫びたい

『読んでいない本について堂々と語る方法』という本があります。

当然ながら僕はこの本を読んでいません。僕がこの本から学んだことは(あるいは学んでいないことは)、読んでいない本について堂々と語る方法なのですから、その方法を当のこの本に適用してみます。というのは、おそらく使い古されたネタでしょうから、次の本に移ります。

次の本は『『罪と罰』を読まない』です。

この本は『読んでいない本について堂々と語る方法』に基づいて、ドストエフスキーの『罪と罰』を読んだことのない4人の作家が『罪と罰』について語る、という内容の本です。というのが本当かどうか僕にはわかりません。なぜなら僕はこの本も読んだことがないからです。というのは半分嘘です。なぜなら僕はこの本の冒頭を少し読んだことがあるからです。『読んでいない本について堂々と語る方法』に基づいているかどうかはわかりませんが、ドストエフスキーの『罪と罰』を読んだことのない4人の作家が『罪と罰』について語る、という内容までは本当です。多分。

さて、ここまで何をしてきたかを振り返ってみましょう。ズバリ一言で表現するなら、ペダンティックです。ペダンティックとは何か。ペダンティックとは衒学的です。衒学的とは何か。衒学的とは〈ペダンティックとは衒学的〉と言うことです。

はあ、種明かしをしましょう。「ペダンティック」の日本語が「衒学的」であり、「衒学的」とは〈学問・知識をひけらかす様〉のことです。これを念頭に入れて、一個前の段落をコピーアンドペーストしてみましょう。

ペダンティックとは何か。ペダンティックとは衒学的です。衒学的とは何か。衒学的とは〈ペダンティックとは衒学的〉と言うことです。

もうやめましょう。ここまでで僕が何がしたかったかと言うと、本題に入りたくないがための照れ隠しです。

本題です。『世界の中心で愛を叫んだけもの』という本があります。

昨年亡くなったアメリカのSF作家ハーラン・エリスンの書いた短編小説集です。日本では『世界の中心で、愛を叫ぶ』という片山恭一さんの書いた恋愛小説と、それを原作としたドラマが有名ですが、一応『世界の中心で愛を叫んだけもの』の方が先です。引用したのかどうか詳しいところは知りません。アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の最終話タイトル「世界の中心でアイを叫んだけもの」は『世界の中心で愛を叫んだけもの』より後、『世界の中心で、愛を叫ぶ』より前、だそうです。

はあ、また照れ隠しにペダンティックをしてしまいました。しかもほとんどウィキペディアの情報です。

それで僕が言いたいのはつまりこういうことです。
僕は『世界の中心で愛を叫んだけもの』を読んだことがありません。

ただ、読んだことは無いけれども、『『罪と罰』を読まない』のように、『世界の中心で愛を叫んだけもの』というタイトルから妄想を膨らませて、一つの詩(的な何か)を書いてみます。きっと読み終わった頃には、僕がここまで用意周到に照れ隠しをしてきた理由がわかるはずです。コイツ気取ってるな、と思うはずですから。

では、はじまり、はじまり。


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「世界の中心で愛を叫んだけもの」


世界の中心ってどこだろう
ぼくはそれを探しに旅に出る

旅に出てから随分経った
それは東京じゃなかったみたいだ
ニューヨークでも、ロンドンでも、パリでも、北京でもなかった
モスクワでもないし、デリーでもなかった

ぼくは世界の中心へ行って愛を叫ぶんだ
ぼくは世界の中心を探す
あれ、そもそも、ぼくの世界はどこだ
ここはどこだ

君のいない世界なんて、ぼくの生きたい世界じゃないよ
愛ってなんだよ
周りはみんな忘れろって言うんだ
そうするのが、君のためであり、ぼくのためでもあるんだって
そんなことわかってるよ
哀しみを乗り越えて、新品の幸せを掴まなくちゃいけないんだ
それが常識で、良いことで、人として正しいことなんだ

でも、
でも、
でも、
でも、

だったら、ぼくは、けもの、でいい
人間としてそれが正しくないなら、ぼくは、けものとして叫ぶよ

世界に嫌われたって、ぼくは愛を叫び続ける
ぼくの愛が世界を壊す

わかってる
それが無謀なことくらい
ぼくの叫びが騒音にすらならないことくらい
雨にすらかき消されるほどひ弱なんだろうな
そしてぼくの叫びは、世界に静かに殺されるんだろう

でもそれでいいんだ
正しくなくていい
殺されてもいい
誰にも気づかれなくていい

そうか、ここが世界の中心だったのか

ぼくは世界に殺される
そして幸せになるんだ

愛の残響が遠くでかすかに鳴っている
ねえ
これでよかったよね

またぼくは前に進むよ




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『世界の中心で、愛を叫ぶ』にも『新世紀エヴァンゲリオン』にも、それから、〈世界の中心で愛を叫んだけもの〉という言葉を聞くたびにいつも頭に響き渡る、山崎まさよしさんの『One more time,One more chance』にも影響を受けているかもしれません。
引用したり、特別意識的に書いたわけではありませんが、付言しておきます。

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