
宝塚ファンとサッカーファンには共通点が多いのだった
兄と弟がいるのだけれど、二人ともサッカー観戦が好きで、僕を含めた兄弟3人だけで構成されているLINEは、サッカーの試合があるたびに悲喜こもごもなメッセージが届き、チームのあれやこれやを兄と弟で語りだすとちょっと見ない間に未読メッセージが70件とかになり、お互いの応援しているチームが直接対戦しようものなら、こいつら一生口きかないんじゃないかな、と思うほどの険悪さを時たま見せる。それでも応援するのがサッカーと言うものらしい。
最近まで僕はサッカーには興味がないのでそれを眺めつつ、「まったく馬鹿だなぁ」と呆れた表情を見せていたのだけれど、最近ちょっと事情が変わった。
きっかけは、僕が宝塚歌劇団にドはまりしたことだった。
(神々しさすら漂う宝塚大劇場)
宝塚歌劇団と聴いて「全く知らない」という人はあまりいないと思うのだけれど、ザックリ解説させていただくと(なぜなら語りだすと長くなるから)、兵庫県宝塚市を拠点とする、全員女性で構成されている劇団で、女性が男性の役をやる「男役」と、女性が女性の役をやる(なんか変な書き方だな)「娘役」で構成されている。
純粋なミュージカルもやれば、音楽に合わせてかっこいいダンスをみせるショーもある。超!エキサイティング!な団体である。
(ちなみに今宝塚大劇場でやっているのは宙組公演「アナスタシア」。マジでよかったです。)
初めて宝塚を見たのは2年くらい前で、初めて見た時にそのエンターテインメントの暴力に僕は屈服した。ダウンしたところにマウントを取られて「これでもか!これでもか!」と素晴らしいショーを叩きつけてくる宝塚の超エンターテインメント体験に、身も心も骨抜きにされてしまったのである。
それ以来僕は宝塚歌劇大好きマンとして、宝塚友の会に入会し、チケットの選考抽選には何口も応募し、推しを見つけ、劇場に足しげく足を運び…と、宝塚が生活の中心とまではいかないまでも、確実に一部を担うようになった。男のファンは少ない。けれどそんなの関係ない。だって好きだから。
そうするとですね、それまであれほど「馬鹿だなぁ」と思っていたサッカー馬鹿の兄弟たちと、不思議に話が合ったりすることが増えてきたのですね。
というわけで今回は、サッカーと宝塚の不思議な共通点について話したいと思います。もしかしたらサッカーだけにとどまらず、スポーツ全体の話かもしれないけれど、とりあえずサッカーで。
共通点について
長くなるので、まずは共通点をこちらにまとめました。
①「ひいきにしているチームがある」
サッカーならJ1をはじめとした各チームや、J2、中には海外のリーグのチームを応援している人もいるだろう。自分の地元のチームだからとか、好きな選手がいるからとか、マスコットが可愛いとか、スポンサーが自分の勤めている企業だからとか、応援の理由はいろいろだ。
一方の宝塚歌劇団は、「花・雪・月・星・宙」の五つの組(さらにはこれに専科という存在もある)に分かれていて、宝塚なら全部スキィ!と言いつつも、なんだかんだ「この組の公演だけは絶対チケット取らなきゃ…」となってしまうひいきの組が出来上がってしまう。応援の理由も様々で「トップがかっこいい」「演技がうまい」「歌が上手い」などなど。
②ひいきにしている人がいる
ひいきにしているチームの中でも、特に応援している人がいると試合にしても観劇にしても面白さはさらに際立つ。「あの選手のドリブル姿、何度見てもほれぼれするぜ!」とサッカーファンが口にするのと同じくらい、宝塚ファンも「〇〇さんがキレッキレのダンスをする姿は何度見てもほれぼれしちゃう!」と口にしている。
サッカー選手が成長していくのを微笑ましく見守るように、宝塚ファンも、推しのスターの変遷を見守る。前より少しでも目立つだけでうれしいし、きっちりとした役名をもらった日には飛び上がるほどうれしい。そしてその人がトップスター(その組での公演で必ず主役になる人)になろうものなら、多分財布のひもが消滅するくらいのお金が羽ばたいていくことになる。でも後悔はない。
③移籍がある
サッカー選手が別のチームに移籍するように、宝塚にも「組替え」というシステムがあり、「ついこの間まで花組だったあの人が今度は月組へ・・・!」と言うようなことがある。
なぜ、どのような意図で組替えをするのかについては様々な憶測が飛び交い、Twitterはその情報で荒れ狂う。組替えは悲しいけれど栄転の可能性もあったりして「とうとうあの人がトップになるのでは…!」と思ったりすると無駄にドキドキする。
④遠征する。
サッカーだと、ホーム&アウェーがあるので、対戦チームのホームの試合を見に行くとなると、いつもとは違うスタジアムに試合を見にかないといけない。普段東京のチームを応援している人が、対戦相手が大阪をホームにしているチームだったりすると、大阪まで遠征する必要が生じる。
一方、宝塚歌劇は基本的に「宝塚大劇場」と「東京宝塚劇場」の二つをホームにして公演を行っているが、年に一回くらいの割合で全国公演を行う。
(大劇場のロビーの大階段。毎回テンション上がります。)
宝塚大劇場と東京宝塚劇場でやる公演は同じ(ただし同じ組がやるので当然時期がずれる)だが、全国公演のものは劇場公演のものとは別になるので、見たいとなればそれぞれの場所へ遠征する必要が生じる。
全国公演ではその場所のご当地ネタが劇中にセリフや小道具に入ったりするので、どの場所に遠征するかもかなりポイントになる。個人的には千葉公演が熱い。
⑤選手年鑑(のようなもの)がある
サッカーでは選手年鑑と言うものが存在し、分厚いカタログのような本に、各チームの選手が顔写真とともに紹介され、名前や誕生日と一緒に、好きな食べ物とかちょっとしたコメントなんかが入っている。
これは、宝塚にもある。「宝塚おとめ」という本がそれで、毎年出版されている。
(コロナの影響なのか今年はなかなか手に入らなかった)
宝塚おとめでは、各組所属のスターたちが顔写真とともに紹介され、好きな食べ物や今までやった舞台で思い出に残る役などの質問に応えている。
はっきり言って毎年ほぼ内容は変わらない。「芸名の由来」など、一度決めたらほぼ永遠に変わらない質問内容などもあるし、質問の内容もまぁ、ほとんど毎年同じなのである。
けれど、「キャッ!あの人今年は去年より写真のサイズがでかい!」とか「あの人がトップに就任されてからはじめての『おとめ』…!」と言う理由でなんだかんだ毎年購入してしまう。
⑥オールスター戦がある
サッカーでは年に一回オールスター戦がかつてあったし、野球ではいまでもある。いつもは敵対しているチーム同士がこの日は2つのチームに分かれて試合をするのだけれど、トップオブトップな選手たちが揃う試合なので、見ていて豪華な、夢のある試合である。
そしてこれがまた宝塚にもあるのですね。
宝塚では毎年「タカラヅカスペシャル!」という公演が年末に行われる。
(去年のポスター。今年はやるのだろうか…泣)
この時には、全5組のうちの4組のトップスタープラス、専科のトップスター(後述するレジェンド、轟悠さん)が同じ舞台に集結し、トークあり、歌ありのすさまじく豪華なショーが行われる。右見てもトップ。左見てもトップ。前を見てもトップ。もちろん一緒に出演する人も2番手や娘役トップ(トップスターと必ずペアを組む女役の中でのトップ)ばかりなので、とにかく豪華。
正直、このチケットが手に入ったら来年の分の運まで使い果たしたことになると思う。
⑦レジェンドがいる。
日本サッカー界のレジェンドと言ったら、もはや三浦知良ことキングカズ以外にいないだろう。Jリーグ発足時からトップとして降臨し続け、50歳を超えた今でも現役で出場する、日本サッカー界の至宝である。
宝塚にもレジェンドがいる。専科トップの「轟悠」さんだ。
「専科」というのは、宝塚の5組とは別に存在するチームのことで、一人ずつがスペシャリストとして色んな組の公演に出演し、スターたちには出せない熟練された魅力を発揮する。
その専科でトップに輝いているのが轟悠さんなのだが、この轟悠さん、年齢は宝塚においてはかなり上の方なのだけれど(何歳なのか調べるのは野暮だと思うので調べない)、とにかくカッコよさがすごい。
宝塚歌劇は、一か月に一回くらい「あぁそうだ、この人たちは皆女性なのだ」と思い出さないとそのことを忘れてしまうくらい、かっこいい男装の女性が多いのだけれど、轟悠さんはそれをきっと〇十年くらいずっとキープし続けている。雑誌ではじめてみた時は「え?かっこよすぎない?」と思わず目が点になった。
そんじょそこらの男性が永遠に勝てないくらいカッコいい。まさに宝塚界のレジェンドなのだ。
おわりに
ひいきがあったり、遠征があったり、選手年鑑があったり、レジェンドがいたり。
宝塚歌劇とサッカー、そしてそれぞれのファンには、多くの共通点があることがお分かりいただけたのではないかと思う。
実際、宝塚ファンになってからと言うものの、兄弟と異様に話が合うようになった。彼らの喜びも悲しみも、「あぁ、それって宝塚で言う〇〇のことか…」と、わかるようになってしまったのである。
実はほかにも「専門チャンネルがある」「ひいきに特化したグッズがある」「毎月買っちゃう雑誌がある」「スポーツ紙を見るようになる(毎週必ず宝塚についてページをもつ新聞がある)」など様々な共通点があるのだけれど、すでに原稿用紙10枚くらい書いているので、これ以上は流石に割愛したい。
じゃあ。
じゃあ逆にですよ。
宝塚とサッカーの最大の違いは何なのだろうか?
そう聞かれたら僕は真っ先にこう答える。
「宝塚には、勝ちしかない」と。
スポーツを見に行くと勝ち負けがあるが、宝塚歌劇を見に行くと、いつだって感動があるので、勝ちしかない。
兄弟がサッカーについて熱く激論を交わしているのを最近は微笑ましく思えるのは、きっとそのおかげな気もする。ありがとう、宝塚歌劇…!
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