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酒・肴・甘味を制するのは国産レモンだ

★広島で出会つた檸檬の思ひ出

上のように書くと文学チックだ。
そもそものきっかけで言うと、数年前に広島に旅行に行った時にさかのぼる。

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 (広島の思い出の写真を集約させたもの。実際の厳島神社の鳥居は修理中だった)

 厳島神社の参道をぶらぶらとしていると、「国産レモンのジンソーダ」が売っていた。
 僕はジントニックが好きで、夏のクソ暑い時のお風呂上りにボンベイサファイアで作るジントニックを飲むことをささやかな人生の幸せとして額縁に飾りたくなるくらいの人間なのだけれど、ジンソーダについては「なんか味気ないよね~」くらいの気持ちで飲んでいなかった。

 けれど今は旅行中であり、広島と言えばカープとカキとレモンである(多分)。よしよし、飲んでみようではないかとなり、500円くらいを払ってそのレモン入りのジンソーダを飲んだ。

 これが、すさまじく美味かったのですね。 

 レモンの酸味がとがっているのにコクのようなものがあって、ジンソーダの苦みにぴったり。

 これは何杯でも飲めてしまうのでは…と思っていたのだけれど、当時はまだ食べ歩きが全然許される世の中。歩きながら飲んでいたのでそのお店は遠ざかり、僕はそのままフェリーに乗って厳島を後にしたのだった。

★レモンがあればいいってもんじゃない

 それほどまでに美味しかったので、僕の中でジンレモンソーダの地位は一気に高まった。

 けれど、広島と同じようなジンレモンソーダを楽しむためには、国産のレモンであることが重要であり(海外からのレモンだと皮の部分にワックスとかが塗ってあって、体に悪いらしい)、国産のレモンを買おうとすると中々に躊躇するお値段だった。

 あぁ、さよならあの時のジンレモンソーダ、と僕は涙をのみながら、缶入りのレモンチューハイなどでその時の気持ちをごまかしていた。

 そして数年たって現在。

 コロナ禍によって旅行というものはできなくなった。

 それでも人間というものはしぶといもので、だったら家で楽しめることを探せばいいじゃない、というわけで僕はネットで美味しそうなものを見つけては取り寄せるということをしていた。

 そんな中、産地直送を売りにしているサイトで、レモン農家が困っているというお知らせと共に、国産のレモンが販売されていた。

 https://www.tabechoku.com/products/48289

(僕が頼んだものと少し違いますが農家さんは同じです)

 確かに国内旅行が少なくなり、飲食店も開店時間が少なくなってしまえば、レモンのような柑橘系は、消費量が俄然少なくなるだろう。

 販売しているのは広島の農家さんで、もしかしたらあの時僕に感動を与えてくれたレモンを作ってくれた農家さんかもしれない。
 2キロがどれくらいの量かはわからないけれど、近くのスーパーで国産レモンを買うよりかは断然安い。
 というわけで僕は迷うことなく購入を選択し、レモンが届くのを待った。

 数日後、レモンが届いた。

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 きれいで可愛いレモンがゴロゴロ入っている!
 そしてここから僕のレモン三昧な毎日が始まるのであった。

★レモン三昧1 ジンレモンソーダ

 まずはまずは!と言わんばかりにレモンを輪切りにし、さっそくジンレモンソーダを作る。
 なんせこちとら2キロもレモンを持っているレモン富豪だ。豪勢にいこう!
レモン半分を輪切りにし、グラスに入れた後、残りのレモン半分を思いっきり絞って果汁を注ぎ、そこにジンとソーダを1:4くらいの割合で注ぐ。(ここら辺の分量はお好みで)
 すりこ木のようなものでグラスの中のレモンを少し潰しておくのも忘れずに。

 飲もう!と思って二分くらいで、ジンソーダがあっという間に完成する。

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 ぐびりと一口。

 ああ、美味い。
 同時に「これこれ!これだよ!」と僕の中の思い出回路がスタンディングオベーションしている。

 レモンの爽やかな酸味と、ジンとレモンの皮の苦み、そしてそれをさらにはじけさせるソーダのシュワシュワ感。最強の一言かもしれない。

 あっという間に飲んだ後にグラス残るレモンの輪切り。ここに再びジンとソーダをそそいだら、これまた美味しいジンレモンソーダが飲めたので、コスパも抜群である。

 シンプルで美味しいって一番すごいことだと思うのだけれど、それをあっさりとやってのける国産レモンおそるべしである。

★レモン三昧2 塩レモンからのレモンソース

 そんなレモン三昧の日常を始めた頃、テレビで私の好きな料理研究家の方が、塩レモンサワーを作っており、そのもととなる塩レモンのレシピを後悔していた。
「レモン自体がおつまみになるんですよねぇ」と柔らかな京都弁で話すその人の話を聞きながら、さっそく自分のレモン三昧な日々にこのレシピもお出迎えしたのは言うまでもない。

 といっても、塩レモンのレシピは簡単で、レモンの輪切りに、その重さの10パーセントの塩を入れて混ぜるだけ。

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(思い立ったらすぐできる)

 というわけでこれまた十分も経たずに作れた。塩レモン。
「後は常温で三日くらい放置すればいいんですよ~」ということだったので三日待ち、さっそくということで塩レモンサワーを作った。

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(少し白濁してるのがレモンサワーっぽい)

 のだけれど。これがはっきり言えば「塩レモンサワーの素」としては失敗だった。10パーセントと思いつつ分量を間違えたのか、塩レモンの発酵が上手くいかなかったのか、とにかくしょっぱいのだ。

 これでは「塩レモンサワー」というよりかは、「塩サワーレモン風味」と言った感じ。
 我慢して飲めなくはないけど、あのジンレモンソーダのことを考えると、これはちょっと…とならざるを得ない。

 けれども塩レモンはまだまだ残っている。捨てるのはもったいない、でも美味しくない…

 うーむ、と思っている時。先ほどの料理研究家の「レモン自体がおつまみになるんですよ~」という言葉を思い出した。

そうか、ならばこれを食べ物にしてしまえばいいのだ。

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というわけで、塩レモンも細かく刻み、玉ねぎのみじん切りと合わせ、オリーブオイルを少々。食べるレモンソースを完成させた。

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これを、鶏肉のソテーに合わせてパクリ。

これは美味い!美味いぞ!!

 鶏肉のから揚げにレモン賭けるくらいだから、鶏肉とレモンは相性がいい(のだと思う)。そこに玉ねぎのわずかな辛みが加わり塩レモンの塩気が全ての味を引き立てる。

 塩レモンの皮の苦みが気になるので次回からは皮をそごうと思うけれど、これは起死回生の一手としては大成功だった。
 
 世の中にはレモン鍋というものもあるくらいだから、これを鍋に入れても美味しいのかもしれない。塩レモン、料理への夢が広がる一手だった。

★レモン三昧3 レモンサワーの素

 レモンを購入した頃、丁度僕は大好きな雑誌である「料理通信」の占いをほめたたえる記事を書いていて、料理通信を見返すことが多かった。

 そうすると、料理の神様は微笑んでくださるのですな、手作りレモンサワーの素の作り方が書いてあったのだ。
 気になる方は料理通信を購入していただきたいのでレシピはここで書くのは控えるが、簡単に言えばレモン・砂糖・ジンを使うというもので、一か月後が飲み頃ということらしいので時間はかかるけれど、作ること自体は簡単である。

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 というわけでさっそく作成。

一か月。仕事でギャーとなってる時も、私生活でイェーイとなってる時も、レモンサワーの素は美味しくなるためにたゆまぬ努力を続けてくれていた。

 そして一か月後。ついにレモンサワーの素が完成。
 さっそく飲んでみる。

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 ジンにレモンの、文字通り「レモンイエロー」がうつり、何とも綺麗なレモンサワーが出来上がった。

 個人的に「砂糖を入れると甘ったるくなるんじゃなかろうか…」という心配があったのだけれど、そんなことはなく、レモンの酸味と苦みの間にほのかな甘さが加わることで、ジンレモンソーダとはまた違うおいしさを提供してくれる。

 夜とかにほっとしたいときに飲むとすごく体と精神によさそう。
 流石は料理通信、見事なレシピ。改めて休刊になってしまったのが残念で残念でたまらない

★レモン三昧4 クマのパディントンに導かれて初めてケーキを作る。

 ジンレモンソーダを作っては飲み
 塩レモンを作り
 レモンサワーの素を作る

 それだけのことをしても、レモンはまだまだ残っている。

 全部ジンレモンソーダにしてももちろんいいのだけれど、何か他に楽しいことはないだろうか、と思っていると、意外なところからそのヒントは出てきた。

 何となくフォローしている「クマのパディントン」の公式アカウント(英語)がある日こんなツイートをしたのである。

 「Drizzle cake」ってなんだ?と思って調べてみると、シロップをかけたケーキのことで、マーマレード大好きで世界的に知られているパディントン君はオレンジでこのシロップケーキを作るよ、と言っているらしい。
 で、そのレシピを調べてたら、あったんですよ。

 Lemon drizzle cakeが!

 僕は料理は普段からするけど、お菓子作りはしない。
 けれど、甘いスポンジにレモンのシロップがしみ込んだケーキは何とも魅力的であり、手元にはそれをさらに美味しくさせてくれるであろう、レモンがゴロゴロしてるのである。

 作るしかない!

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 というわけで材料を用意し(レモンサワーの素を作るときに余った砂糖が役立ったのはポイントが高い)

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 切って

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 まぜて

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 まぜて

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まぜて

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 焼く!そこにレモンの果汁と砂糖だけで作ったシロップをびしゃーん!

 レモン滴るケーキ(Lemon Drizzle Cake)の完成である。
 すぐに食べるのではなく、シロップが染み渡るのを待ってから食べる。

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 レモンの皮を刻んで入れるのだけれど、これが何ともコリコリとした食感で、柔らかいだけで終わってしまいそうなケーキの食感に楽しいアクセントを加えている。皮に火が通るせいなのか苦みがほとんどない。 

 そして、レモンシロップが染み渡ったケーキのなんとも爽やかで美味しいことよ。これを朝食に食べるだけで、その日一日、自分の周りに爽やかな風が吹きそうなくらいだ。

 初めてのお菓子作りがこんなに成功でいいの?というくらい大成功なケーキが出来上がった。妻にも好評で、毎朝食べてくれていたのが個人的に何よりうれしかった。

★そしてレモン三昧は続く。

 2キロのレモンというのはすごいもので、これだけ作ってもまだ手元にはレモンが数個残っている状態なのである。

 残りはジンレモンソーダで在りし日の旅行を思い出しながら飲むつもりでいるけれど、料理が好きな人、お酒が好きな人であればあるほど、レモンが大量にある生活というのは、日常に素敵な彩を加えてくれるものなのかもしれない。

 酒から料理から甘味まで。レモン万能説がどうして今まで言われなかったのか謎なくらい、レモン三昧な日々は楽しい。

 そして。

 ものすごくこの一年で使われ、もはや安っぽい言葉にもなりがちなのだけれど、
 コロナでまだまだ日本の農家さんが困っている中、こういう風に、自分でできる何かをすることっていうのも大事なんじゃないかと思った今日この頃。

 とりあえず僕はまたレモンを注文する気満々でいる。

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