#5 医師としてどう生きるか~凸凹Dr回遊記~ 2023/04/16
はじめに
私は発達障害のグレーゾーンでASDとADHDの特性を持ち、二次性のHSPの性質をもって成長してきました。詳細は以下のリンクから読むことができるので、興味のある方は読んでください。私は医師16年目の総合診療医で緩和ケアを専門としています。医師の仕事は多岐に渡っていますが、その一つ一つと私との相性を紐解いていきましょう。
総合診療医とは、聞き慣れない用語かもしれませんので少し説明させてください。総合診療医は、患者の年齢や性別に関係なく、あらゆる種類の健康上の問題に対処し、適切な診断、治療、予防策を提供します。総合診療医は、以下のような役割を果たします。
初期診断と治療:患者が抱える健康上の問題に対して初期診断を行い、適切な治療を開始します。この段階では、病気や症状の重症度や原因を特定し、最善の治療法を選択することが重要です。
継続的なケア:患者の健康状態を長期的に追跡し、状況が変化した場合に適切な対応を行います。これには、慢性病の管理や薬物療法の調整、健康状態の変化に対応するためのフォローアップが含まれます。
専門医への紹介:患者の病状が専門的な知識や技術が必要な場合、適切な専門医への紹介を行います。これにより、患者は必要な専門的な治療や手術を受けることができます。
予防医学:患者が健康な生活を送るための予防策やライフスタイルの指導を行います。これには、定期的な健康診断やワクチン接種、健康的な食事や運動の推奨などが含まれます。
情報の調整:患者が受けるさまざまな医療サービスの情報を調整します。これには、専門医からの報告や検査結果の管理、他の医療提供者との連携などが含まれます。
また、コミュニケーション能力や問題解決能力、チームワークなどのスキルも重要です。患者との信頼関係を築くことで、患者の健康に対する理解や関心を高め、より良い治療結果を達成することができます。
私の特性と仕事の相性
そのような役割を持つ総合診療医は外来診療が主戦場となります。しかし、ASDのこだわりの強さ、ADHDの多動性から外来診療はとても苦手です。じっと座っていられず、2~3人、患者さんを診たら、診察室から出て、医局でコーヒーを飲んだり、外に散歩したりしないと、次の診察ができません。患者さんはたくさん待っておられますから、「すぐに戻ってきます」と気まずい雰囲気で行動することになります。そんな状況でも、次々と患者さんを診ることができればいいのですが、私のASD気質で、こだわりが強いため、自分のルーティンを変えることが難しいです。例えば、明らかに風邪と思う患者さんでも、主訴、現病歴、既往歴、生活歴、家族歴などの、それらの情報をすべて聞かないと次に進めません。そのため外来診療に非常に時間がかかってしまいます。新しい患者さんがこられた場合は1時間ほどかかってしまいます。私が1日の外来で診られる患者さんは25人程度です。朝9時から夜9時まで診続けて(途中何度も中座して)、ようやっとその数です。前の日は予約患者さんのすべてを予習して、カルテをほとんど書き上げている状態にして、その数です。みなさんはピンとこないと思いますが、一般的な内科の医師は40人以上診ていると思います。若い時から、その遅さに上司から呼び出されて怒られていました。私が診られないと、隣の外来の医師が診ないといけなくなります。私が20人、隣の外来では60人診ていることになり、そりゃクレームが来ますよね。この問題にはずっと悩み続け、結局うつ病になり倒れるまで苦しむことになりました。
田舎の医師になりたかった私は当初外科医になろうと思っていました。田舎で必要とされるのは外科処置だと感じていたからです。しかし、外科医は独り立ちできるのが10年目以降と聞いて、それは待てない、早く田舎に行きたいと思って、総合診療医の道を歩むこととしました。その経緯もあって、手術は結構好きでした。性質的にも立って動き続けることができるのは合っていました。しかし、HSPの気質を強く反映している私は、手術のあと、自分がしたことがすべて正しかったのかどうか、患者さんは悪くなっていないかどうか気になり、ずっと病院に泊まっていました。そのため体力的にはとてもきつかったのです。また外科医は朝早いです。9時に手術が始まるため、6時には業務を開始する必要があります。私は、生きづらい人生を歩んできていて、本当に学校に行きたくなかったのです。だから、10代のことは朝5時まで起きていて、朝日が出てくると仕方なく寝て、学校に行き、授業中はずっと寝ているといった学校生活を送っていました。そうしなければ、授業の途中から出て行きたくなるのですが、小学校の時みたく出ていくことができず、とても苦しかったからです。ADHD自体が、睡眠障害が起こりやすいこと、時間管理が苦手なこと、朝の集中力が低いこと、さまざなタスクにより衝動性が惹起されることといった、朝のルーティンワークが苦手なことも朝が弱いことにも原因があると思われます。やはり外科医になるのは難しかったですね。
次に検査についてです。医師は何かしらの得意分野を持っていることが多く、私は心臓のエコー検査でした。田舎で医療をしたかったのですが、最初は都会で修行を積まないといけないと考え、総合病院で研修を続けました。当時、総合診療医になる教育プログラムはなく、内科の研修プログラムに入っていました。当時の内科の部長に、しんぼうはどこの科で研修をしたいかを聞かれ、緩和医療に興味のあった私は呼吸器内科での研修を希望しました。しかし、内科部長は循環器科の医師が足らないのだけどどうかなとの一点張り。数回、呼吸器内科での研修をしたいと粘ってみましたが、6ヶ月ごとにローテーションをして、いろいろな科を研修してはどうかという提案にのり、循環器内科での研修が始まりました。その後、数年間循環器内科として働くことになります。大人って怖いですね。そんなことがあって、心臓のエコーが得意になったのです。その後のエピソードとして、田舎の病院で働くことになるのですが、そこでは呼吸器内科の先生はおられて、循環器内科の医師はいなかったので、その病院で重宝されることになりました。人生万事塞翁が馬、人生ってうまくできてますね。
結局、一番私がハマったのは救急外来でした。救急外来は常にバタバタしていて、急変したーと言いながらスタッフは走り回っています。私にとって、そのような状況がとても合っていました。体を動かしながら働けるので、救急外来がとても楽しかったです。またこだわりが少なく診療できたのも、私にとっては楽でした。総合診療の外来は、初期診断と治療、継続的なケアが必要とされるケースがほとんどであり、多くの情報の中から取捨選択をして、その診療の方向性を組み立てます。救急外来の目的は端的に言うと命を救うことです。患者さんが亡くなってしまう疾患がないかをチェックするということが大事なので、情報が限られているのです。情報が少なくてすむことは私にとってかなり負担が軽減されることでした。そして、救急外来は医師の中では不人気です。厚生労働省の医師・歯科医師・薬剤師統計では、医療従事に従事する全医師数31万1963人中、救急医は3590人で、その割合は1.2%です。慢性的な人手不足の救急外来なのですが、私は居心地がよいため、時間があれば救急外来にいました。そのような若手医師は珍しかったためか、指導医たちから重宝されました。貴重な症例や経験の積めるような手技がある時は、連絡があり一緒に経験させていただきました。安全かつ安心な環境で経験を積むことができました。その経験とスキルは田舎の病院に赴任した際に開花することなり、その後の医師生活を助けてくれています。精神的・体力的にはきつかったかもしれませんが、若かったのと、また外来よりは遥かにいいという思いもあり、指導医たちから「しんぼうまたおるんか、助かるわー」と言って、ちやほやしていただけたのもエネルギーとなりました。
今日の研究紹介
ここで論文を紹介させてください。Church, Allan Hさんが1997年に発表された「Managerial self-awareness in high-performing individuals in organizations.」です。この研究では、組織内で高いパフォーマンスを発揮している個人が、自分の得手不得手について理解し、自己評価が正確であることが明らかにされました。Churchは、360度フィードバック評価法を用いて、複数の組織におけるマネージャーの自己認識を調査しました。360度フィードバック評価法は、自己評価、上司や部下からの評価、同僚からの評価など、さまざまな視点からの評価を取り入れる方法です。研究では、高いパフォーマンスを示すマネージャーは、他者からの評価と自己評価の一致度が高いことが分かりました。これは、彼らが自分の得手不得手を理解しており、自己評価が正確であることを示しています。この研究の結果は、自己認識が効果的な自己管理や職場での成功に役立つことを示唆しています。高い自己認識を持つマネージャーは、自分の強みを活かし、弱みを克服するための適切な戦略を立てることができるとされています。このような自己認識はまた、自己改善や適切なキャリア選択にも役立つとった研究でした。
感想
私の好きな本に「君たちはどう生きるか」があります。漫画版を持っているのですが、羽賀翔一さんによって描かれ、2017年に刊行されました。原作の小説「君たちはどう生きるか」は、吉野源三郎が1937年に発表した教育的な物語で、羽賀翔一が現代の読者に向けて親しみやすい形で再構築したものです。物語は、主人公が伯父さんから手紙を受け取るところから始まります。手紙には、「君たちはどう生きるか」という問いが書かれており、主人公に人生の意義や目的について考えるきっかけを与えます。主人公は友人や家族との出会いや別れを経験しながら、自分の価値観や信念を見つけていきます。本作では、自己犠牲、友情、勇気、愛情などの普遍的なテーマが取り上げられています。
その一節に
とあります。何十回声に出して読んだかという心に響いた一節です。ここで述べられているのは、自分の感情や真実の心に従って行動し、考えることの大切さです。「いつでも自分が本当に感じたことや、真実心を動かされたことから出発して、その意味を考えてゆくことだと思う」という部分では、自分の直感や感情に基づいて物事を考え、行動することが重要であると言っています。つまり、自分が感じたことや心が動かされたことを大切にし、その意味を理解しようとする姿勢が大切であると説いています。また、「君が何かしみじみと感じたり、心の底から思ったりしたことを、少しもゴマ化してはいけない」という部分では、自分の本当の感情や考えを偽ることなく、正直に向き合うことが重要であると強調しています。自分の心の声に耳を傾け、それを素直に受け入れることが、真実の自分と向き合うために必要な姿勢であると言えます。最後に、「どういう場合に、どういう事について、どんな感じを受けたか、それをよく考えてみるのだ」という部分では、自分がどのような状況や事柄に対してどのような感情や反応を示すのかを深く考えることが求められています。自己理解や自己成長のために、自分の感情や考えに対する理解を深めることが重要であると述べています。この一節は、自分自身をよく知り、真実の感情や考えに従って行動することの重要性を教えています。自己成長のために、自分の心に正直であることが大切だという教訓が込められています。
まとめ
医師になって成長する過程で、私には救急外来が最適な場所でありました。皆さんも、他の人と違う点を持っていることでしょう。そんな自分でメタ認知をしながら自己分析し、自分の得意な部分を活かすことができる仕事や職場を見つけることが重要だと思います。人と違って苦しんでいる部分も、実は自分にとって活かせるポイントになるかもしれません。私は幸運にもそのような場所に出会いましたが、いつも自分に語りかけ続けることが大事と思います。また自分の長所や短所を理解してくれる人と話すことも大切です。自分にとって当たり前のことでも、他人にはわからないことがあるので、積極的に話し合うことが重要でしょう。今は多くの職場で相談役がいると思いますので、自分の特徴をどう活かせるか相談してみてください。皆さんが生き生きと輝きながら、周りに大切に思われながら、働けることを祈っています。読んでいただきありがとうございました。
Reference
Church, A. H. (1997). Managerial self-awareness in high-performing individuals in organizations. Journal of Applied Psychology, 82(2), 281–292. https://doi.org/10.1037/0021-9010.82.2.281
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