#8 正しい依存のすゝめ 2023/05/07
研究紹介
以前、自立に関する話をさせていただきました。続いて、今回は依存についてお話ししましょう。今回紹介するのは、2000年に発表されたD.Carrさんの論文『Marital quality and psychological adjustment to widowhood among older adults: a longitudinal analysis.』です。この研究では、60歳以上で結婚している2532人を対象に、片方の配偶者が亡くなった後、依存度によって不安が強まるのか、または精神的に立ち直るのかを調査しています。
この研究では、亡くなった配偶者に強く依存していた人は、その後の不安レベルが高まり、依存していなかった人は不安が低くなることがわかりました。また、亡くなった方との関係に問題があった場合、その思い続ける強さは低くなりました。一方で、夫婦間の親密さが高く、亡くなった方への依存度が高いと報告された人は、その思いの強さが高くなりました。また、配偶者から金銭的な支援や何らかの支援を受けていた人は、特に女性の方が不安の強さが高かったという結果も出ました。この結果からも分かるように、亡くなった相手に精神的・金銭的・社会的に依存していた人は、その不安や思いの強さが高くなる傾向がありました。
自立と依存のバランス
前回の記事では自立が大事だと書きました。よしよろしかったら読んで下さい。依存という言葉にはマイナスなイメージがあるため、自立を求める時代になっています。しかし、私は自立と依存のバランスが大事だと考えています。
自立については仏教の言葉で「自灯明」という表現があります。お釈迦様が亡くなられる前に、弟子のアーナンダが「あなたが亡くなられたら、どうやって生きていけばいいのでしょうか」と聞いた時、お釈迦様は「自らを拠り所とし、法を拠り所とせよ」とおっしゃられたといいます。「自らを拠り所とし」は、「自灯明」の語源となっています。自灯明とは、自分で親や他人を頼りとせずに生きていく、という意味の言葉です。自分自身をともしびとして、先の見えない暗闇のような人生を自分の光で照らして歩いていくように、ということです。もし、自分以外の誰かをともしびとして誰かに前を照らしてもらっていたら、その誰かがいなくなり、明かりが消えたとき、人は真っ暗の中をさまようことになってしまいます。それは生き方としてとても危険です。だから、自分の中の光を持って生きていくように、というのがお釈迦様のお言葉です。
幸せの鍵
確かに自立は大事なことだと思います。現代では、「自立しなさい」や「自立したい」という意見が増えています。自立すれば、不安をあまり感じずに、心を動揺させずに生きていくことができます。しかし、依存という言葉にはマイナスなイメージがありますが、人間は究極的に社会性のある生き物です。人生を幸せにするのには良好な人間関係が大切です。
そして、人間自体は非常に弱い生き物であり、自分自身で一人の力で生きていくことはほぼ不可能です。例えば、私たちが服を着て食事を摂ることができるのも、誰かが作ってくれたり、育てたり、運んだり、スーパーで売られたりするからです。私たちが使っている食器やテーブルも、自分で作ったわけではなく、誰かが作ったものを購入しています。どのような生活の面でも、一人だけで生きていくことは非常に困難です。それは、生きるためや生活するためだけでなく、幸せになるためにも同様です。一人で生きていくことは難しいため、やはり互いに依存し合う関係も大切になってきます。
ラビ・ヒレルさんの格言
私が好きな言葉に、ラビ・ヒレルさんの格言があります。「私が私自身のために存在していなければ誰が私のために存在してくれるのか。しかし、私が私のためだけに存在しているのなら私は何だろうか。もし、今でないならばいつのときがあろうか。」本当にかっこいい言葉ですね。私が私自身のために存在しなければ誰が私のために存在してくれるのか、ということですから、自分のために生きなければなりません。自己啓発書のコーナーには、「自分のために生きなさい」とか「自分自身を大事にしてください」といった本がたくさんありますね。確かにそうで、自分のために存在することが大事だということです。しかし、ラビ・ヒレルさんは続けて、「私が私のためだけに存在しているのなら、私は何だろうか」と言っています。基本的に他人がいなければ、自分が何者なのかわからなくなってしまいます。自分自身で自問自答しながら生きていくことは大事ですが、自分だけで考えていくと、自分が何者なのかわからなくなってしまうというのがラビ・ヒレルさんの考えです。まったくもってその通りだと思います。だから、先ほどお話ししたように、自立と依存のバランスが大事だということなんですね。
ご縁の大切さ~諸法無我の見方から~
これは依存という言葉を「ご縁」という言葉に置き換えることができると思います。ご縁とは、人間関係のつながりのことですね。私たちはよく、「縁起がいい」とか「運がいい」と言いますよね。この考え方は、この世のあらゆる物事には必ず原因と結果があるとし、物事がそれだけで存在することはないという意味です。原因があるからすべての現象は存在し、その存在が原因となって次の結果がもたらされます。仏教に「諸法無我」という言葉があります。諸法無我(しょほうむが)は、仏教における重要な概念であり、四法印のひとつです。四法印(しほういん)は、一般的には三法印(諸行無常、諸法無我、涅槃寂静)として知られている仏教の基本的な教えを、さらに一つの法印を加えたものです。諸法無我とはすべての存在は固定的な自己や本質を持っていないという概念です。相互依存と変化する現象によって成り立っているという考えです。自分自身を表すものというのは、ほとんどありません。例えば、しんぼうを表す言葉を探しましょう。しんぼうはトヨタの車に乗っています。トヨタの車に乗っている人はたくさんいますよね。そして、私は眼鏡をかけていますが、眼鏡をかけている人もたくさんいます。また、医者であることも、他にたくさんいますよね。結局、どんなに考えても本当に自分自身を表す言葉というのは存在しないのです。
だから、たくさんの「縁」があってこその自分であり、その縁が全てなくなると自分というものが存在できなくなります。存在がわからなくなる、先ほどラビ・ヒレルさんの言葉通りです。つまり、完全に自立の方に行くと、それは人間としての生き方にうまく合わないことになります。結局、人間は究極的に社会的な生き物であり、幸福になるための要素として良好な人間関係が欠かせないという結論になります。だから、縁というものは、人間としての能力や精神的な存在において、幸福に向かっていくために依存やつながりが必要なのです。
結局のところ私は、バランスが大事と思います。このバランスについて、一緒に勉強していきたいなと思います。バランスが大事ですが、バランスは簡単には取れません。バランスを取るために、知恵を育て、自分を少しずつ整えていくことが大切と思います。そして、大切な人たちと一緒に成長していけたら、それが理想的な人間関係だと思います。
自律神経について
そんなことを言っている私ですが、私自身もまだまだで人に会うと過緊張します。交感神経が優位になり、脈が早くなり、動悸がして、手足が冷たくなります。自律神経は、人間の体内で無意識的に働いている神経系の一部で、内臓や血管、内分泌腺などの機能を自動的に制御しています。自律神経は、主に2つの部分からなる神経系で、それぞれ異なる働きを持っています。1つは交感神経です。交感神経は、主に活動や緊張状態の時に働く神経です。筋肉の収縮や心拍数の増加、血圧の上昇、瞳孔の拡大など、身体を覚醒状態にし、外部からの刺激に対応するための機能を促進します。ストレスや危険な状況がある時、交感神経は「fight or flight(闘うか逃げるか)」と呼ばれる反応を引き起こし、身体を戦いや逃走に備えます。もう1つは副交感神経です。副交感神経は、リラックスや休息の状態で働く神経で、身体の回復やエネルギーの蓄えに関与します。消化器官の働きを促進し、心拍数や血圧を下げ、筋肉の緊張を緩和するなど、身体をリラックスさせる機能を果たします。副交感神経は、「rest and digest(休息と消化)」と呼ばれる反応を引き起こします。自律神経は、これらの交感神経と副交感神経がバランスよく働くことで、身体の機能が適切に維持されることが重要です。ストレスや不規則な生活習慣、過労などによって自律神経のバランスが崩れると、不安や疲労感、消化器官の不調や免疫力の低下など、様々な健康問題が引き起こされることがあります。
人間は自然界の中ではとても弱い存在です。おそらくご先祖様はトラやクマに襲われて、命を落とすことがたびたびあったと思われます。だから逃げることが重要になりました。戦う力がなく、逃げることしかできなかった人間は、交感神経を働かせて、手足を冷たくし、心臓をバクバク鳴らして逃げるために血を使いました。しかし、現代では、クマやトラに襲われることはほとんどありませんが、人間関係や情報社会の中で交感神経が興奮してしまう状況はたくさんあります。怒りや不安もそうですね。特に私のような生きづらさを抱えている人は、交感神経が働く状況が多く、バランスが崩れ自律神経失調症になりがちです。
これから
私自身は、不安が強くて強迫神経症や不安神経症のような気質を持っており、常に脈が早いです。おそらく、24時間心電図では1日で12万回以上の心拍数が出るでしょう。心臓にもかなり負担をかけています。もしかしたら寿命が短くなるかもしれませんが、それも自分の生き方だと思っています。しかし、少しでも健康になる努力はしないといけないと思い、慈悲の瞑想を含めたマインドフルネスをおこなったり、お風呂にゆっくりつかったりしています。しかし、ADHD気質の私は、集中力が低く、長時間静かにしていることが難しいく、お風呂に長時間つかることが苦痛に感じられます。そこでの工夫はお風呂に持ち込めるKindleが私にとって有効でした。そして薬の力にも頼っています。βブロッカーという薬を服用して、脈と不整脈をコントロールしています。私はなるべく薬を減らしたいというスタンスの医師ですが、薬の有効性と即効性は信用しています。そして安全を担保しながら、心を整えて、少しずつ薬から離脱できたらいいなと思います。今日も読んでいただきありがとうございました。
Reference: D Carr, et al. Marital quality and psychological adjustment to widowhood among older adults: a longitudinal analysis. J Gerontol B Psychol Sci Soc Sci. 2000; Jul;55(4):S197-207. doi: 10.1093/geronb/55.4.s197.
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上記のお話に加え、慈悲の瞑想と今日の言葉を放送しています。
音声の方が聴きやすい方もおられると思いますので良かったら利用ください。
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