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山本清流の傑作ショートショート⑤『UFOを目撃する』

 2020年9月8日、午後7時ごろ、会社員の平島亮吾さん(24)が高台にある実家に帰宅し、自室の窓から、目下にひろがる森林を見たときだった。森林の上方――50メートルほど離れた上空に、円盤型の謎の飛行物体を目撃した。

「よく映画に出てくるようなUFOの形でした」と亮吾さん。亮吾さんの話を聞いて駆けつけた亮吾さんの両親も、その謎の飛行物体を目撃した。亮吾さんはスマホのカメラで録画しようとしたが、カメラには映らなかった。

 その物体は、亮吾さんと亮吾さんの両親が見守る中で、前後左右の微調整をするように僅かに動いていた。「あの中に入っている宇宙人が操縦しているのでは」と亮吾さんは考えた。

 やがて微調整を終えたのか、謎の飛行物体はゆっくりと垂直に下降していった。一本の木の真上まで下りてくると、静止した。円盤型の下部から4本の腕のようなものが伸び、木の林冠をつかんだ。そのまま上昇を始め、つかんだ木を地面から引き抜いていった。木を持ちあげたまま上昇していったが、途中で、どすん、と木が落下した。

 激しい音が立ったが、近隣には亮吾さん宅しかなかった。亮吾さんとその両親以外に目撃したものはいない。

 謎の飛行物体は、その後、ふたたび前後左右の微調整を始めた。調整が整ったのか、ゆっくりと下降していった。地面から引き抜かれて横になった木を4本の腕でつかみ、上昇を始めた。途中で、また、木は落下した。

 謎の飛行物体は、同じことを繰りかえした。午後7時半ごろには、諦めたのか、木を放置したまま、夜空の向こうに飛んでいった。

「UFOキャッチーが下手そうでした」と亮吾さんは語る。

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