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超短編/用心

用心深い会社員のリーフ氏は、出張の際通る駅の情報も当然と言わんばかりに調べ尽くしていた。

「どうやらあの駅はスリの被害が多いらしい、今の時代はかなり減ったと思ったがまだいたのか。用心しなければ。」

その日、財布をチャック付きの鞄にいれ、取っ手を強く握り締めながら彼は駅に入った。この日のためにボディガードを二人雇ったし、財布には高性能の発信機がついている。外そうとすると通知がいくのだ。しかし万全の体制だとしても油断は禁物である。集中力を切らさず、素早く駅を通り抜けとうとする。今の彼の対応力なら例えライオンが襲ってきたとて冷静であっただろう。  その時である、彼の左肩にドンと衝撃が走った。二人の屈強な体がリーフ氏の壁になり瞬時に右側に体を動かし、背中に鞄を隠した。財布が無事か確認しようと思ったが、ぶつかってきたのが杖をつき、おぼつかない足取りのおばあさんと気付くと、あまりに薄情な気がしたので、彼はおばあさんに謝ったのち、駅を後にした。

「何事もなさそうでよかった。財布はこの通り何事もなかったし、人助けもできたからな。まぁ、財布の中身が空になるほど対策したから当然というものだろう。」

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