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安心中毒者 (ショートショート)

 人は誰だって常に何かの不安を感じている。 それは漠然と広がっていることもあるし、来週のプレゼンだとか、新しい人間関係だとか、具体的でわかりやすいこともある。  私もいま、不安感に駆られている。それも、理由のわからない、訳のわからない不安なのだ。不安の理由が明確であれば、原因たる問題をを解決したり、緩和したりできる。しかし、行き場のないこの恐怖と焦燥感はどうしようもないのである。なぜなら、未来は不確定だからだ。不確定だから、なにが起こってもおかしくない。何が起こるかわから

    • 超短編/ふとんがふっとんだ

      午前五時、今日は風が強い。最初の客は早朝出勤のビジネスマンだ。 タクシー運転手の一日はなかなか忙しい。会社員、病院に向かう人々。乗るお客様は多種多様なのだ。私もこの仕事を十四年ほど続けてきたがなかなか楽しませてもらっている。 日も沈み、運転手は会社に戻っていた。夜とはいえ、人通りが多い道なので車はそこそこ走っている。運転手はぼんやりと今日の客のことを思い返しながらハンドルを握っていた。その時、街頭がふっと消えた。目の前を走っていたトラックもふっと消えた。それだけではない。

      • 超短編/飽き性な神

        神は全地全能である。創造神にして破壊神、つまり全ての生命を創ることも、壊すことも自由である。私は天使の中で一番下の立場であるから、神の行った偉業を一つも漏らさず記録することを任せられた。あのような尊いお方から命じらたので誠に光栄である。 神は、今日あたらしい世界を創られた。しばらくその世界を眺めていたが、すぐに飽きてしまい、一つの星に生命を創ることにした。 神はまず小さな生命を創ってみたが、あまりにも小さかったので植物というものを創られた。神は水をやったり花を摘んだりして

        • 依頼

          郷田氏は朗らかな笑顔が特徴の心優しい人だ。駅前のカフェのオーナーで、近くの住民のほとんどと顔見知りであった。しかし彼はの誰にも明かしていないもう一つの仕事があったのだ。その仕事をするため彼は小鳥がさえずる早朝にカフェへと向かった。ドアを開けると、まだ開店時刻より3時間も前というのに椅子にはおしゃれな黒いジャケットを着た二人組が座っている。 「また、新しい仕事が来たと連絡があったからきてみたが初めて見る顔だね。」 二つのブラックコーヒーを注ぎながら郷田氏は言う。すると、黒い

        安心中毒者 (ショートショート)

          超短編/用心

          用心深い会社員のリーフ氏は、出張の際通る駅の情報も当然と言わんばかりに調べ尽くしていた。 「どうやらあの駅はスリの被害が多いらしい、今の時代はかなり減ったと思ったがまだいたのか。用心しなければ。」 その日、財布をチャック付きの鞄にいれ、取っ手を強く握り締めながら彼は駅に入った。この日のためにボディガードを二人雇ったし、財布には高性能の発信機がついている。外そうとすると通知がいくのだ。しかし万全の体制だとしても油断は禁物である。集中力を切らさず、素早く駅を通り抜けとうとする

          超短編/用心

          理想の家

          「ご覧ください。この深紅の絨毯。豪華なシャンデリア。階段を登って2階に行くと、数々の名画と、四十畳を超える部屋の数々。高級ホテルじゃあありませんよ。 でも最初から金持ちだったわけではございません。私は子供の頃から身長が小さいと馬鹿にされ、友達なんで一人もいませんでした。家は貧しく、食べるだけで精一杯の毎日。映画のように特に群を抜いた才能があるわけでもないので生きるためにに努力を惜しみませんでしたよ。しかし今となっては過去のことです。努力を認められ、昇進を続けて、今では大企業の

          理想の家

          No.94

          看守から差し出された固形食料をかじりながら男はこの研究施設からの脱獄を考えていた。 「このままここにいてもモルモットにされて死ぬだけだ。計画を実行に移すそう」 男はそう意気込むと、昼の血液検査の際、看守のポケットから鍵を抜き取った。 「これで入り口から出ることはできるが、部屋にいないことがわかったらすぐにまた捕まってしまうな。」 男は夜、自分の部屋の鍵を開けると、研究所の一室に忍び込み、隅にある緑色のタンクの前にたった。 「これでクローンを作り出せるんだな…」 そ

          短編/発明

          「ふむ、こんな時間に何のようだ?」 D博士はノックでガタガタいってるドアを開けた。 「おお、Sさんか。こんな夜分にどういったご用件で?」 「D博士。あなたは昔、時間についての研究をしていたとお聞きしたことがありましたので、この新しい発明品を見ていただきたいのです」 S博士が取り出したのは携帯電話ぐらいの黒い機械だった。 「ふむ。これは一体なんですか?携帯電話のように見えますけど」 「これは時間を戻す装置です。半径三メートルの空間を通常の時間の流れとは逆の方向に時

          短編/発明

          短編/未来

          J国家機密研究機関はある問題に頭を悩ませていた。 彼らは人類悲願のタイム・マシンを作り上げ、未来の世界に行くというプロジェクトを遂行させていたが、未来に送り込んだ全ての研究員が誰一人として元の時代に帰らないからである。  「タイム・マシンの欠陥だ、未来の地球は滅んでいる、などと騒ぐ輩もいるが、たかだか10年後の未来なのにそのような事態になっているとは考えにくい。 そこで再び調査チームを組んだが、くれぐれも無理はしないようにな。うまくいけば実験を重ねて五年後ぐらいには発表でき

          短編/未来

          短編/心配

          Eは、私生活に他人が侵入してくるのが嫌いであった。友達や家族でさえも一定の距離をおき、いつも一人が好きだった。 彼は他人が自分のことを気にするのは自分を困らせるためだと考えていて、周囲もだんだん彼に話しかけるのをやめていった。 「私ももう30歳になった。大人になってからという者ずっとこの薬の研究に励んできたがついに完成したぞ」 彼が開発したのは人の性格を優しくする薬であった。 「この薬を売って儲けることもできなくないが、その前に一つ効果を試してやろう。 この研究に貯めた

          短編/心配

          短編/落ちていく者

          「さぁ行くぞ!」 真下には幻想的な淡いブルーが広がり、肌寒くピリピリとする空気の中、次々と仲間が飛び降りてゆく。 幾度となく見た光景だ。 「僕も…行こう」 強い力に引き寄せられるように、僕たちは落ちてゆく。抗うことなどせず、ただただ真っ直ぐ落ちてゆく。  その時、急に風が吹き抜けた。 先に降りていた奴らはピシピシと壁に打ち付けられていく。 僕の体も砕け散って一瞬空中に舞った。  今日はザーザーと雨が降っている。

          短編/落ちていく者

          短編/植物

          B探検隊はアマゾンの奥地へと新しい動植物を発見すべく、調査に出ていた。 「隊長。もうすぐ日が暮れるのでここをキャンプにしましょう。」 隊員の1人がそう言い、B探検隊はアマゾンの鬱蒼とした緑につかった中で一夜をすごすことになった。 「さて、次は私の番か」 隊長はゆっくりと体を起こし、見張りを交代した。首からぶら下げた鉄の水筒を喉を鳴らしてのみ、袖でヒゲについた水滴を拭いたところで彼は視界の端に写ったものを見逃さなかった 「ん?」 彼が見つけたのは、腰ぐらいの高さの植

          短編/植物

          短編/おしゃべり

          「よう。おはよう」 そいつは寝ている俺の前にずいっと顔を被せ、俺の顔を日陰にした。 「おはよう」                   慣れたように俺も返事を返すが、その声にはどこか力がこもっていない。 「何だ? やけに元気がねぇな。どうしたんだよ? 顔洗ってくるか? 「いやぁ昨日飯にありつけなくてね…… 全く、あいつら俺の分まで持っていきやがって!……しか

          短編/おしゃべり

          短編/感情のこもった絵

          「売れないなぁ。この間雑誌にも取り上げてもらって、自分でも上手いと思うのに。」 Aは絵がうまかった。小さい頃から様々な賞をとり、その写実的な絵は実物をそのまま紙の上に持ってきたようだった。画家になったAはなぜか絵が売れないので困っていた。軽くため息をつくと、いつものように絵を数枚トランクに詰め込み、隣町の古い画廊に持っていった。受付の女性は少し彼をみた後、 「今、上の階でKさまのオークションが開かれていますがよかったら覗いてみては?」 Aには、Kという学生時代からの知り

          短編/感情のこもった絵