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名前のない木 13章


「母視点2」

クヌギの木からは、母屋の玄関の方が近いでしょ?
そこで引き戸の玄関の扉を開けようとしたら鍵が閉めてあった。
チャイムを鳴らしたら、おばあちゃんが玄関の鍵を開けてくれて。
その場で早口で現状を説明したら、おばあちゃんは更に険しい表情になって、「おじいちゃんを呼んできます」と居間の方に戻っていったの。

おじいちゃんがすぐに玄関にきて、私をチラッと見ただけで無言で靴を履いて、そのまま外に一人で出て行ったのよ。
おじいちゃんについていくべきかどうか悩んでたら、おとうさんとおばあちゃんもドタバタと音を立てながら、玄関に来て。
すぐに向かいましょう、となってくぬぎの木へ3人で向かったわ。

到着すると、おじいちゃんが横になって硬直しているあなたの顔を覗き込むように腰を屈めていたのが見えた。更に近づいてみたら、あなたの瞼を指で開いて、懐中電灯を当てて瞳孔のチェックをしてた。

「反応はしてるから、一度母屋に運ぶぞ。
 母さんは先に戻って布団を用意してくれ」

とおじいちゃんが声掛けをして、祖母以外の3人でなるべく揺らさないように、持ち上げて運んだのよ。

母屋の玄関についたら、そこに祖母が用意した布団が敷いてあった。
その上にあなたをゆっくりと置いた。呼吸はしているが目を覚まさないのよ。

「救急車、呼びましょう」

と、おばあちゃんが玄関に置いてある黒電話に手を伸ばしたので、運んできた私たち3人も、その電話の方に顔を向けたのよね。

その直後、お父さんが「うわっ」と聞いたこともない声を出したのよ。

・全員が声を上げた父を見た
・父が凝視する先は、床に敷いた布団に横になってるあなただった
・私含めて足許で布団の上で横になってるあなたに視線を移した

一直線に硬直していたはずのあなたの上半身だけが起き上がってたの。

全員が一斉に驚いたわ。
あなたの顔がちょうど覗けるところに私は立ってたんだけど、
目を静かに開いていって、そのまま大きく見開いて喋り出した。

「もう降ろしてあげたから大丈夫、もう降ろしてあげたから心配ない」
「でも、、、降ろしてあげたけど順番は大事」
「順番は大事」

それからは「順番は大事」って繰り返すのよ。その場にいた全員が、
”いよいよ頭を打ったんだろう、これはまずい”って思ったはずだった。

なのにお父さんだけは違っていたのよ。

「順番は大事」って言葉に異常に反応して眉間に皺を寄せて、顔がひきつっていく。

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