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山本太郎さんのこと

 もう25年も前になる。山本太郎さんにインタビューしたことがある。といっても、むろんメロリンQではない。ホラ、昔よく三流実話誌の二色刷りの口絵なんかにあったでしょ、五木●ろしが小柳ル●子の乳揉んでたりするイラスト。山本太郎さんは、あの芸能人似顔絵ヌードの元祖にして第一人者なのだ。
 待ち合わせの喫茶店に、黒づくめにベレー帽を被った、”いかにも”のいでたちの老紳士が現れた。名刺の住所は、確か荒川区、下町である。僕も下谷の産なので、なんとなく波長が合った。むろん、山本さんのほうがずっと年配なのだが。そのたたずまいは、イラストレーターというよりも絵師という呼び方がぴったりくる。
「ボクの絵ってみんな笑い顔でしょ。これが特徴なんだ」
 そういえば、山本さんの似顔絵ヌードは、小泉●日子にしても斎藤●貴にしてもみんなにっこりと笑っていて、これが独特のユーモアを醸している。もし、これが作ったアへ顔だったら、とたんに画面が汚らしくなってしまうだろう。
 中学を卒業するとさる著名な日本画家の下で修業し、やがて挿絵画家として一本立ち。気が付くとあぶな絵の注文を多く受けるようになってきた。これが江口本業界との機縁になったという。そして、冗談で描いた似顔絵ヌードがバカ受けして、その世界のパイオニアになった。
 整い過ぎた美人顔よりも、ちょっとアクセントのある顔の方が似せやすいと、これは似顔絵を描くイラストレーターに共通した意見だ。
 お会いしたのはちょうど秋口だった。これから、羽子板市用の羽子板の下絵を描く仕事で忙しくなるんだと笑って、山本さんは雑踏の中に消えていった。山本太郎さんと会ったのは、その一度きりだった。
 御年を考えれば、もしご存命でも現役は引退されているだろう。
 MACがあれば、素人でもアイコラ写真が作れる現代の目から見て、山本さんの仕事はどう映るだろうか。はっきりいえば、両者はまったく別物である。
 江口の世界から、こういった職人技が消えていくのは、やはり寂しいことだ。

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