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【Disc Review】#3 日本のロックバンドのフロンティアは17作目でさらに進化する-“ひみつスタジオ” / スピッツ

自分の中で「神アルバムの法則」があって、それはアルバム冒頭3曲が「神のメドレー」となっていれば、それは漏れなく「神アルバム」だ。
(「逆もまた真なり」ではないのは申し添えておく。)スピッツの3年半ぶりのアルバム“ひみつスタジオ”も漏れなくそうだった。いや、わかってたけど。

心掴まれる幕開けの3曲の流れと、心温まる曲が続く前半

優しいミドルテンポのナンバー“i-O(修理のうた)”で幕開けたかと思ったら、パンクテイスト ゴリゴリのナンバー“跳べ”で一気に心とテンションを鷲掴みに持っていかれる。
そしてキャッチーなイントロが魅力的な“大好物”に繫がっていくこの流れを聴けば完璧。

しっかりと“大好物”で出来たミドルテンポの流れを受け継ぎ、“美しい鰭” “さびしくなかった”と心が温かくなるナンバーが続く。
コスパ・タイパなんて言ってどんどんテンポ感の速い曲が流行るこの時代で、ここまでしっくりと自然に耳に入ってくる心地良い曲ばかりを作れてしまうのは、スピッツだからこそ作れるものだろう。

メンバー全員が歌い音楽を楽しむ姿全開にする新たな挑戦とスピッツらしさの共存

続いてどストレートなギターロックナンバー“オバケのロックバンド”ではメンバー全員がボーカルに。聴いてるだけでメンバーみんなが楽しく音楽をしているのだろうというのがありありと伝わってくる。
スピッツらしいリズムがアコギの“手毬”で正統路線を挟みつつ、“未来未来”はちょっとシティポップぽいギターかと思ったら、んん!?急にチャイナなコーラスが。この不協和音的な組み合わせも成り立たせるんだから、もう参りました。

“紫の夜を越えて”から入っていく終盤は、綺麗なギターのアルペジオを中心としたシンプルでストレートな音構成の曲が並ぶ。このシンプル・ストレートなロックがたまらなく好きだ。
可愛らしく温かい雰囲気の“Sandie”の歌いだしで「初めて君に出会った時から 僕の心は桃のようなカタチのまんまだよ」なんて恋心を表現できるのはマサムネさんでしかできないよ。
”ときめきpart1“の「スピッツだ…」という安心感、タイトルの通り賛歌の雰囲気のバックコーラスにギターのアルペジオが実に美しい“賛歌”で心が洗われていくよう。
最後はこのアルバムに込めた思いが歌われてるのか、またライブで盛り上がりそうなギターロックナンバー“めぐりめぐって”でクロージング。

個人的にはストレートなギターロックを全開にした前作“見っけ”もトップクラスに好きなのだが、今作は彩りも挑戦も彼ら自身が音楽の楽しむ姿も付け加えた、さらに進化したロックナンバーの数々だった。
16作もアルバムを作ってきてて、どれも「スピッツ」であり、日本のロックの(中心ではなく)フロンティアであり続けてきた彼らの17作目は、そのフロンティアをさらに前に進める傑作だと感じた。


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