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一番難しいイノベーション

私は昔からそうでしたが、今後もわざわざ難しいチャレンジを選ぶであろうと思われるので、今回のブログでは、私が今一番難しいと感じるタイプのイノベーションについて頭の整理をしていこうと思います。イノベーションの専門家として起業家育成、起業家コミュニティ運営、コワーキングネットワーク構築・運営など10年近くやってきて、様々なイノベーションに関わる事ができて来た訳ですが、やはり何度起こしても難しいタイプのイノベーションがあります。

一番分かりやすいイノベーション

テック系のスタートアップは、私にとって、一番わかりやすく、そして簡単にイノベーションが起きる領域だと思っています。ただ、起業の苦しみや、他の分野のスタートアップ(例えばソーシャルイノベーション系)と比べて失敗率も高いので、起業そのものが簡単というわけでは無いです。テック系はスケールし易く大体の場合、結果(アウトカム)が分かりやすいため、比較的多くの人の理解を得やすいです。

その新サービスや技術の理解者が多いということは、より早く、より大規模な行動変容が起こせるわけで、イノベーションに繋がりやすいと、考える訳です。その真逆には、結果(アウトカム)や、サービス/商品の概要が分かりにくく、ある程度の理解力が必要となるような、イノベーションにはなかなか繋がらないタイプの業界があります。世の中には、その難しさを理解しながらも果敢に難しい選択を取り、イノベーションが起きるかどうかわからないままつき進む人達がいます。私の仲間たちはそういった人達が多いようです。

負の連鎖を解きほぐすイノベーション

ソーシャルイノベーションと言われるかなりぼんやりと括られているイノベーションのタイプの中には、さらにもっと細かく、課題別に、いくつかのサブタイプがあるかと思います。今私が一番難しいイノベーションだと感じているのは、ソーシャルイノベーションの中でも社会的な負の連鎖を解きほぐすタイプのイノベーションです。具体例でいうと、いじめの問題はそれの典型かと思います。

いじめはシステム的な課題の典型

いじめ問題は典型的なシステム的な課題だと思います。いじめが発生するのもシステム的な理由があり、解決するのもシステム的な解決法が必要な訳です。いじめ問題には我々が絶対にハマってはいけない罠もあります。いじめには特定の「加害者」と「被害者」がいて、いじめ問題をその2点だけの議論にしてしまう、という傾向がそれです。被害者はいじめによって苦痛を受け、精神的にも肉体的にもダメージを受けていく訳ですが、そこには負の連鎖があり、被害者の周りにも被害者と同等な、またはそれ以上の負担が伝達する事がほとんどです。

加害者も同じです。いじめが単独で発生したケースは見た事がありません。見て見ぬ振りをするのはいじめの加担ですし、加害者の多くはその昔、被害者でもあったケースも多いです。いじめのケースで良く見かけるのは、いじめが当たり前になっている事で、加害者も被害者もそしてその周りの人達にも、いじめの存在に気づけなくなっている事です。いじめに鈍感になった、というよりも、私流の理解では、都会の騒音、汚染、人権侵害などは時間が経つにつれ気にならなくなる、のと同じかと思っています。気にしない事によってそれぞれの生活が少し快適になるという事もある様です。

加害者を排他しない

いじめに必ず発生するのが人権侵害ですが、これも曖昧なケースが多いですし、人によって、場合によって、何が人権侵害かは変わります。そしてこの問題をもっと難しくするのが、最終的な加害者にどこまで説明責任を取らせるのか、です。加害者をいじめの環境から取り除いたとしてもその加害者は別の環境でいじめを起こす可能性が高いです。ではその加害者をいじめが発生した環境に留まらせるのかというと、それも周りが納得しない。汚染土壌と同じ問題でどこかに持っていけば済む問題では無いです。

すごく地味なイノベーション

負の連鎖を解きほぐせる様なイノベーションは本当に起こしにくいです。だから、私はもちろん、私の仲間たちも諦めないのだと思います。負の連鎖を解きほぐす方法はあります。それは地味な作業で、決してメディアに好まれるような、グランプリを取れるようなイノベーションでは無いです。負の連鎖を解きほぐすには、まず何より最初に認知が必要です。そして、もちろんこの認知を得るステップが一番難しいですし、時間がかかります。いじめられた人にはそのいじめがその人にどの様な影響を及ぼしていて、自分の周りにどの様な影響を及ぼして来たのか。いじめを見て見ぬ振りした人たちは、その行為が自分にとって、被害者にとって加害者にとってどの様な影響を与えたのか。こういった事実を慎重に丁寧に解きほぐしていく場も必要ですし、とにかく時間がかかる訳なので、解きほぐしの途中でまたいじめが発生してしまった時に何をすべきかの共通認識も必要です。

いじめを無くす事がイノベーションでは無い

私は、こう思います。我々人間は常にいじめに遭っており、そして誰かをいじめています。なので、私が起こそうとしているイノベーションはいじめを無くすというものではありません。私が起こそうとしているイノベーションは、いじめとどう付き合うか、になります。チームで、またはグループで作業をしていると、確率的にそこにはいじめが発生します。負の連鎖は一人の行動だけでは発生しないので、連鎖反応を起こしそうな出来事が発生した場合、その出来事を周りが認識できる仕組みが必要です。いじめをしてしまった人も含め、それがいじめの負の連鎖の一部である可能性が高いことを明瞭にしていく事ができるだけでも、たとえ数パーセントであっても負の連鎖が発生する可能性が減ります。

私がいじめの負の連鎖を解きほぐす際にどうしても必要なのが仲間と勇気です。もしいじめに気づく自信がない人がいたら、その人は、いじめに気づける人をサポートできると良いと思います。いじめはなくなると思わない方が良いです。怯える事なく、冷静に対応する事ができるかどうか、だけだと思います。交通事故が起こす負の連鎖も同じですし、災害が起こす負の連鎖も同じと考えます。

一番難しいイノベーションは一番学びも多い

私はいじめ問題の様な一番難易度の高いイノベーションに挑む人たちを心から尊敬します。私は彼らに勇気付けられ、自分でも一つずつ難しいイノベーションに取り組んで行ける訳です。一番難しいイノベーションに取り組むには今まで学んできたイノベーションの起こし方を全て思い出しながら取り組むしか無いので、実は一番学びが多いイノベーションでもあります。

画像提供 | Header Image from: http://sbrownehr.com/step-out-of-line/step-out-of-line/


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