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平時における社内体制の構築~ビッグモーターの保険金不正請求を受けて~

文責:スパークル法律事務所

(※本記事は、2023年7月27日配信のスパークル法律事務所ニュースvol.10の内容です。)

社内体制はどのように構築するのが良いか

 中古車販売大手の株式会社ビッグモーターが自動車保険金を不正に水増し請求していたことが判明し、連日大きく報道されています。2023年7月25日、ビッグモーターは本件について記者会見を行い、その場で創業者である社長及び副社長が辞任を表明する事態に至りました。不正請求の手口は、社員が顧客から預かった車両を意図的に傷つけて損傷範囲を広げ、保険会社に過大な修理費に基づく保険金を請求する等、消費者にとっても非常に衝撃的な内容であり、本件の事態は、今後の会社の事業にも大きな悪影響を与えるものと予想されます。

 本記事では、本件の概要について説明するとともに、このような事態を回避するにはどうするのが良いか、平時における対応策に関する若干の提案について記載します。


1.ビッグモーターの件の概要

 ビッグモーターが設置した特別調査委員会によって作成された調査報告書 では、不正請求が行われた原因として、コーポレートガバナンスの機能不全コンプライアンス意識の鈍麻に加えて、不祥事を防ぎ、業務を適正に遂行していくための社内体制、すなわち、リスクマネジメントを実効的に行える内部統制体制が整っていなかったことが挙げられています。同時に、過大な営業ノルマ、降格処分の頻発といった企業文化の問題や、法定の取締役会の不開催などの問題も指摘されています。

 ビッグモーターの元社長は記者会見において不正請求の事実を知らなかったと強調しましたが、リスク発生時の説明として説得的なものとはいえません。仮に元社長が本当に知らなかったとしても、経営陣には体制整備の責任があり、それのみで責任が否定されるわけではないからです。経営陣は適時に適切な情報を取得できる体制を築いていたかが問われます。一部の社員の問題と責任転嫁することは、会社トップの無責任体質を露呈するものでもあり、今後の社内における再発防止の意欲を削ぐものにもなりかねません。

 企業のコンプライアンス意識の欠如が招いた近時の事例としては、かんぽ生命等による不適切な保険販売事例や、近畿日本ツーリストが新型コロナウイルス関連事業などを受託した自治体に対し人件費などを過大請求した事例などが挙げられます。これらの不正により、かんぽ生命等は金融庁から3か月の業務停止命令を受け、近畿日本ツーリストは警察による家宅捜索を受けたうえ、社員が逮捕されるという事態に至るなど、いずれも重大な結果が発生しました。

2.社内体制が発生原因とされる場合の危機対応の難しさ

 個別的な不正であっても、その原因が会社の管理体制の不備にあるとされる場合、不正を行った個人の問題ではなく、会社全体の問題であるとの評価を受けることとなります。そして、発覚時において会社は事案の解明、第三者委員会の設置、報道等への対処、取引先・株主への説明、再発防止策の策定等、多くのことに同時に取り掛かる必要が生じます。業法上求められる内部管理体制が不十分であるという場合は、たとえ当該行為が業法上の行為でなかったとしても規制機関への対応が重要となります。さらに当該事業以外についても消費者や取引先企業において不買運動が起きたりするなど、会社のビジネス全般への大きな影響が急激に生じる可能性もあります。極めて限られた時間軸の中で同時並行的に難易度の高い対応を求められ、一つの対応の失敗がすぐさま全体に及び、そこから抜け出せない負のスパイラルが発生するのです。

3.危機発生前にできることは何か

 それでは、不正行為の発生を防止するための平時の社内体制の整備をどうすればいいでしょうか。いわゆる3線ディフェンスの考え方に則った事業部門、間接部門、内部監査部門の連携や機能整理、監査役等も含めたレポーティングラインの整備、内部通報制度の活用促進のための施策など、各社でも日々取り組まれているものと思います。しかし、その運用をどの程度どのように行うかは、それぞれの会社での既存の社内体制、行っているビジネスの状況及び活用できる現実的なリソースを踏まえた判断になるため、大変難しく、実際には後回しにもなりがちです。また、一度判断すればいいというものではなく継続的に見返す必要もあります。

 現状に課題感を抱えている企業が今できることとして、まず、この種の問題の多くは、「社内の常識」がいつの間にか「社会の常識」からズレてしまっていることに由来しているため、「社内の常識」を疑うことからスタートしてみるのが有用です。一般的な法令遵守に関する研修に加えて、「社内の常識」と「社会の常識」の差異を把握し、顧客保護等の基本原則の遵守へとつなげるとともに、規程の整備・運用に関するマインド醸成、社内の雰囲気づくり等を行っていくという順序で考えてみてもいいかと思います。

 「社内の常識」の問題点のあぶり出しのための方策としては、危機発生前の平時においても専門的知識を有する社外のリソースを利用し、社内の体制づくりの現場に実働部隊として外部の声や知見を入れ、議論をし、その中で気づきを得ていくということも考えられます。危機発生前にそのコストをかけることに躊躇しがちですが、事案発生後に第三者委員会を設置する等して事案の解明を行い、改善策を社会的プレッシャーの中で設定、実行していくことに比べると、会社の負担は格段に少なく、むしろこちらこそとるべき負担だとも考えられます。

4.さいごに

 当事務所のネットワークには、リスク管理のプロフェッショナルが揃っております。リスク管理に関するお悩み事項についても、遠慮なくお問い合わせください。

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