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疑問文でもプライバシー侵害?企業・取締役の発信者情報開示請求(一部認容)


ポイント

 今回は、原告である取締役(X1)と会社(X2社)について、インターネット上の掲示板上で匿名投稿者からネガティブな投稿が行われたのに対し、X1らがアクセスプロバイダである被告に対し、発信者情報開示請求を行い、請求が一部認容された事案(東京地裁平成30年6月29日平30(ワ)5456号・平30(ワ)5504号)です。

 X1を原告とする第1事件では、名誉権、プライバシー権の侵害等が争われ、東京地裁は、原告の容貌(美容整形)に関する当該投稿については、それ以前の整形に関する投稿を受けた感想に過ぎず名誉棄損に当たらないとしたものの、私生活(離婚)の投稿に関しては、プライバシー権を違法に侵害するものであることは明らかであると判断しました。

 また、X2社を原告とする第2事件では、ブラック企業であるとの会社及び会社幹部の評判に関する投稿について名誉棄損に当たると判断しました。

 本判決のポイントは、以下の点となります。

・「整形」に関する投稿は、それ以前にも整形だとの投稿が行われている場合、単なる感想とされ、名誉棄損が成立しない場合がある。

・疑問形での投稿であっても、不特定又は多数の一般人において信憑性の高い情報であると受けとめる場合は、事実の摘示に該当する。

・会社が労働基準法その他の法令遵守違反行為を行っているブラック企業である旨の印象を与える投稿は、表現方法次第で企業に対する名誉棄損となる。

1.事実関係と争点

 原告の女性X1は、一般・産業廃棄物の処理、各種リサイクル処理を行っている株式会社X2社の取締役であり、同社社長Aの姉です。

 インターネット上の掲示板の「株式会社X2」と題するスレッドにおいて、匿名者からX1個人の容貌(整形である)や私生活について(離婚をした)の投稿がなされや、X2社についても法令違反がなされているブラック企業であるとの投稿がなされました。そこで、X1は、名誉権プライバシー権の侵害等を主張し、また、X2社は、名誉権侵害を主張して、投稿者に対する損害賠償請求権を行使するために、アクセスプロバイダに対して、プロバイダ責任制限法4条1項による発信者情報開示請求を行った事件です。

 なお、プロバイダ責任制限法(※令和6年(2024)改正法で情報流通プラットフォーム対処法[略称「情プラ法」]に名称変更)の令和3(2021)年改正前の事件であり、改正前の法令が適用されています。

2.本件投稿の内容(抜粋)

 問題となった投稿内容は大きく3つに分けられます。

■第1事件
投稿1
①「A社長の姉はアンドロイドなんですね。整形とか知らなかったから普通に美人だと思ってました」
②「旦那さんとも別れたと聞きましたが本当なんですか?

投稿2
③「やっぱり整形なんか……高校卒業してから整形かぁ……噂はホンマじゃったんか」

■第2事件
④「給料悪い残業つかんブラック企業なのにそこで働くとか奴隷じゃん」
⑤「ワースト1位のブラック企業って噂ですよ~」
⑥「噂じゃ社長の知らないとこでNo.2 が問題をおこして会社が悲惨になってるとかって噂ですよ~」

3. 法的論点・判示

 この事案では、以下の3点について「権利侵害の明白性」の成否が争われました。東京地裁は、以下の(1)の整形の点については権利侵害を認めなかったものの、(2)(3)の離婚・ブラック企業である点について権利侵害を認め、発信者情報の開示を一部認容しました。

(1)X1の容貌・整形に関する投稿(①③)は、名誉棄損に当たるのか

 東京地裁は、判例(最判昭和31年7月20日 民集第10巻8号1059頁)に従い、社会的評価を低下させる表現と言えるかどうかについては、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであるとの前提に立ちました。

 そして、①「社長の姉はアンドロイドなんですね。」、③「やっぱり整形なんか…」との一連の投稿について、それ以前にAが整形手術をしたとの投稿があることを前提に、①③の「投稿を読んだ受け手としての感想を述べるにすぎない」としました。

 そのため、投稿を閲覧した一般人において①③の投稿により「元の形状がわからなくなる程度まで整形をした人物である」と認識するとは考えにくいため、社会的評価を低下させる表現とは言えないと判断しました。

(同様に、整形手術をしたと摘示するだけで社会的評価が低下しないとの判断を示したものとして以下の記事も参照)

(2)X1の私生活(離婚)に関する投稿(②)は、プライバシー権侵害に当たるか

 まず、X1の離婚に関する投稿(②)は、質問の形式を採っていることから、被告は疑問を呈しているだけで「離婚した事実を摘示したものとはいえない。」のではないかとの点が問題になりました。

 この点、裁判所は、当該投稿のように表現方法として伝聞内容の紹介及び質問の形式を採る場合であっても、不特定又は多数の一般人においてそれを信憑性の高い情報と受けとめる場合は事実の摘示にあたるとしました。その際に、続く投稿において「……実家のゴミ屋で働き始めたって聞いたけどやっぱり離婚したんだ ザマ」などと……原告X1が離婚したものと受けとめられている点も考慮されました。

 プライバシー権侵害の有無については、 事実を公表されない法的利益と、 事実を公表する正当理由(意義)について検討しています

 離婚した事実は私生活上の事柄であり、その開示は私生活の平穏が害されるのではないかとの心理的な不安を抱くものであることから、離婚した事実を摘示することは、X1が他人に知られたくない私的事項をみだりに公表するものとして、X1のプライバシー権を侵害する行為に当たるとしています。また、X1は、一般私人であることからX1の離婚は「社会一般の正当な関心事であるとはいえず……発信者において……X1の離婚について投稿する正当な理由があったとは考えられない」と判断しています。

 このように、プライバシー権侵害については、 本件事実を公表されない法的利益と、 本件事実を公表する理由(意義)比較衡量により判断されることが多いです。

(過去の懲戒免職処分の投稿についてプライバシー権侵害を認めなかった事例として以下の記事も参照)

(3)X2社の評判に関する投稿(④~⑥など)は名誉棄損に当たるのか

 第2事件については、各投稿により、これを閲覧した一般人において、X2社が労働基準法その他の法令遵守違反行為を行っており、取引先や就職先として適当ではないのではないかとの印象を与えるものであり、原告会社の社会的評価を低下させる表現であるとしました。また、その表現方法に鑑みると、発信者らが専ら公益目的に基づき第2事件各投稿をしていたとは考えられず、違法性阻却事由の存在はうかがわれないとしました。

 この際、会社幹部が法令を遵守せず会社を毀損している旨の投稿(⑥)について、むしろX2社は被害者であり、被害・迷惑を被っているなどといった印象を抱くにすぎないのではないかが問題となりました。しかし、裁判所は、これらの投稿について、X2は幹部が問題を起こしている企業であり、取引先や就職先として適当ではないとの印象を与えるとして、X2の社会的評価を低下させるものと認定しました。

(法人への名誉棄損の成立については、詳しくは、以下の記事を参照)

さいごに

 インターネットやSNSを上手に活用するためには、トラブルの類型を知っておくことが重要です。

 今回の事案のように、形式的には疑問文である場合であっても、一般人の観点で原告会社の社会的評価が低下しており、権利侵害があるとされる場合があります。

 この様な裁判所の認定の方向性を理解し、企業や関係者に対するネガティブな投稿がなされた場合に、どのような投稿であれば権利侵害となるのかを把握しておくことは、企業の広報・営業戦略上も重要となります。

 もっとも、実際にインターネット上で権利侵害の事象が生じた場合、権利侵害についての判断は、各事案の事実に基づき認定は容易ではありません。そのため、その様な事案が発生した際には対応方法も含めて弁護士に専門的・総合的な助言を得るのが望ましいと考えられます。


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