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一週遅れの映画評:『サンクスギビング』田舎は殺人鬼に狭すぎる。

※注意※
作品内容に従い、過激な文面になっている部分がございます。
普段はこういった注意事項を挙げてはおりませんが、
年始からの諸々でそういった言動等を読みたくない/避けたい方は、
お気持ちが落ち着いてからお読みいただくことをお勧めいたします。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かして配信で喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『サンクスギビング』です。

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 わりとハッキリ言ってしまうと「見てるときの面白さと、後から思い出したときの面白さ」がちょっと違ってくる作品でした。そういった点で、こうやって「1週間寝かせて話しますよ~」っていう私のスタイルと相性が悪いっていうねw いや、面白くないって話ではないんですよ?
 
 ざっくりあらすじ。
 アメリカの田舎にある街が舞台で、そこではサンクスギビングつまり感謝祭が街の成り立ちに深く関わった偉人の記念日でもあることから、めちゃくちゃ盛大に祝われるんですよ。
で、街で一番大きいショッピングセンターでは感謝祭セールの「先着100名にワッフルメーカープレゼント!」とかやってて、それが生地を挟んでコンロにかけるだけの、直火ホットサンドメーカーみたいなどうでもいい感じのやつなんだけど。クソ田舎だから、もう尋常じゃないくら人が集まっちゃってるわけw
 主人公はそのショッピングセンターオーナーの娘で、友達のアメフト部員とかギャルとか、かなりいい感じの野球部エースと一緒に遊んでるんだけど、そのアメフト……まぁいわゆるジョックスだわね。そいつが「最近他校のヤツとケンカしてスマホ壊れた」とか言ってて、新しいスマホを買いに行くんですよ。
 もちろんスマホなんて気の利いたものが売ってるのは件のショッピングセンターぐらいで、なのに入り口はワッフルメーカー狙いで開店を待つ群衆でごった返している。だから主人公はオーナー娘権限で裏口から開店前に入ってスマホを買おうとするわけです。
だけど狭い街だから外の開店待ちをしてる中に、他校のケンカ相手がいて。そいつが「おい! アイラもう店にいるぞ!!」って騒ぎ出す、結果群衆がドアをブチ破って入店。ほとんど暴動みたいな混乱の中で、踏みつけられる人、奪い取ろうとしたワッフルメーカーで頭をカチ割られる人、ショッピングカートとショッピングカートの間に挟まれて押し潰される人……最終的に数名の死者まで出てしまう。
 その「サンクスギビングの惨劇」から1年。再びやってきた感謝祭で、ショッピングセンターは性懲りもなく「サンクスギビングセール」をやろうとし、店の前には「惨劇を忘れるな」っていうプラカードを持ったデモ隊がいる。
 そんな混乱した街で、殺人鬼が動きだす……。
 
 という感じで、序盤からショッピングセンター内でぐちゃぐちゃに踏みつぶされる人とか、カートに挟まれた後にタイヤに髪の毛が絡まって頭皮ごと引きちぎれたりっていうシーンが展開されるわけですよ!
これがすごい良くて、こういうスラッシャー映画はファーストキルつまり最初の犠牲者が出るまでちょっと退屈だったり、あるいは冒頭に犠牲者を一人出してから物語を開始させてセカンドキルまで間延びすることが往々にしてあるわけですよ。だけど今回は最初から複数の犠牲者が発生する! しかも一応「事故」の側面があるわけだから、「なんか最初の殺人が一番派手だったね」みたいな悲しいことにもならないのですよ。事故でこのキル演出なら、殺人鬼が暴れ出したらもっと凄いのが見れるじゃん! って期待できる。

 それでね、この殺人鬼が何を目的としてるか? っていうのが最初の殺害から判明するわけです。体を上下に真っ二つにされて、ショッピングセンターの外看板に下半身だけ飾る、という方法で「このショッピングセンターに対する復讐」であることが示されるわけ。
 もちろんメインターゲットはショッピングセンターオーナーの娘である主人公、先に店内に入った友達グループ、オーナー自身なんですけど、それに留まらず「サンクスギビングの惨劇」で暴れていた中でも特に行いの酷かった客もサブターゲットになってるわけです。それに気づいた主人公は「消去された」と言って隠蔽されていた、監視カメラの映像を警察に提出するのですよ。復讐相手すべき相手を知ってるってことは、犯人がこのとき店内に居た可能性がめちゃくちゃ高いし、”次の犠牲者候補も探せる”わけだから。
 
 それで当然のように増える犠牲者たち。その殺害方法がですね、ちゃんとアイデアのある演出がされていてめちゃくちゃ面白いんですよ。例えば水を張ったシンクに髪を掴んでガボッと沈める、これは見てる方として「お、今回は窒息か。スタンダードでいいよね^^」って思うわけですよ。だけどそこから逃がしちゃって、どうするかというと冷凍庫のドアを開けてその内側にビタッと押し付ける。するとさっき被った水が凍ってドアに張り付き、身動きが取れなくなる! 斧を振りかぶる殺人鬼! みたいな感じで窒息キル+凍結キル+斧キルの複合技を繰り出してくる
 そういった手の込んでる方法を見せたかと思えば、別の場面ではいきなり丸太が車の背後から突き刺さって頭部粉砕! という唐突さで魅せてきたりするんです。各殺害方法も血とか内臓がちゃんと出てて、ゴア表現スプラッタ表現もしっかりされている容赦の無さが「手を抜かずに殺していきます!」って意志を感じて凄く良いんですよね。
そういった点ではジャンプスケアも、2~3回あるぐらいで。そこに頼っていないけど、ちゃんと効果的に扱われていて、とても丁寧にホラー作品として作られてると感じました。

 ということで、スラッシャー作品。特に殺戮シーンを鑑賞する映画として、かなり高水準でした。そういうのが好きな人は見て損は無いと思います。
 
 ただなぁ。殺害方法がバリエーションとアイデアに富んでて素晴らしいんだけど、その代わりまとまりが無いという欠点があって。「この殺人鬼だから、こう!」みたいな部分がちょっと弱い。「感謝祭」にちなんでスペシャルディナーの座席を被害者の名札を用意して殺害予告にしたりは面白いんだけど、そこで止まってる感じがある。
 ひとりは「七面鳥の丸焼き」に見立てたこんがりグリルキルwが行われて、それはいいのだけど……それなら他の被害者ももっと料理っぽく殺すとか(ただそれだとカニバリズムが混じってきちゃうけど)、あとはショッピングセンターで起きた事故に見立てて同じ死因で殺すとか、そういう「全体の殺害方法を貫く哲学」みたいのが欲しかったなぁと思いました。
 いや、これはさっきも言ったようにキルシーンにアイデアと情熱を感じたからこそ、「もっとだ! もっと思想を持って殺せるよ! がんばってこ! ファイト!!」というワガママなんですけどねw
 
 それとこれは功罪あるんですが、復讐の根底にあるものが「愛してる者が死んだから」なんですけど。それが不倫相手なんですよね。田舎にある狭い人間関係だからこそ、復讐相手がすぐ手の届くところにいる。だけどその相手は街の著名人で、のうのうと暮らしているのがどうしても視界に入ってきてしまう。
 そういった閉塞感と焦らされる憤り、だけど結局は不倫だし殺人だから動機も行動も肯定できない。狭い世界の中で(最初の暴動だって「ケンカ相手が同じショッピングセンターに来てしまう」という街の狭さが要因のひとつだし)生きていくことしかできない苦しさ、愚かさが描かれていて、とても良いんです。
 ただほら、殺人鬼には無限に殺戮へ万進して欲しいじゃないッスかぁw この設定と環境では「ゴール」が明白だから、なんかこう先が無くてちょっと寂しい……それも「所詮は狭い田舎の街で起きたこと」って感じがあって、悪くはないんですけどね。

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 次回は『BLOODY ESCAPE -地獄の逃走劇-』評を予定しております。

 この話をした配信はこちらの15分ぐらいからです。


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