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一週遅れの映画評:『陰陽師0』惜しいぐらいが丁度いい?

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かして配信で喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『陰陽師0』です。

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 映像としてはめちゃくちゃ良かったんです。個人的にはCGバリバリの特撮映画として『ゴジラ-1.0』よりも凄かったよ、と言えるぐらいには。
 で、肝心のお話なんですけど……うーん、そんな面白くないって言うか。「あれ? ここってもっと面白くできるんじゃない?」ってところまで踏み込まないという感じだったのね。ただこの作品ってたぶんすごく見やすい軽めのエンターテイメントを目指して作られているのように思うの。だから「ん~そういった面ではここで止めるのが正解なのかもなぁ」って納得はある作品でしたね。
 それが作中での用語にあらわれていて、陰陽師が使う「呪」をざっくりと人の意識や思い込みを利用した暗示で「催眠術みたいなものだ」って説明するわけですよ。他にも「人の無意識は繋がってる」って言い出したり(それも集合無意識って言葉を出さずに)して。それなのに衣装や小道具とかにはちゃんとこだわって作ってある
 これって見ている人が余計なところで引っかかったり、躓いたりしないようにしてるんじゃないかな? と。さっきの「催眠術」あたりはわざわざナレーションで「当時の言葉だとわかりにくいから、現代風に意訳してお届けする」とか注釈いれてたりしてて、それなりに配慮もされてる。っていうかその直前まで「当時の言葉と喋り方」を(ほんの数分だけで)繰り出していたりして、だからこの作品「ガチでやることもできるけど、娯楽としていいところで止めておくね」って意志が見て取れるんですよね。
 
 で、あらすじ。
 安倍晴明がまだ陰陽師になる前、育成機関である「陰陽寮」で学生(がくしょう)をやっていた時代。その寮にいる首席の学生が殺されてしまった。その犯人を見つけた者に学生代表の地位を与えるって話になる、学生から陰陽師になるには代表になっていることが大前提なので一同色めき立つわけです。
 だけど安倍晴明は地位とかに興味がなく、ただめちゃくちゃ優秀な学生ではあるし、ある事件を契機に知り合った若い貴族との関係もあって渋々犯人捜査に繰り出すことになる。だけどなんやかんやで晴明は犯人に仕立て上げられてしまう、そしてその背後には恐ろしい計画があったのだった……みたいな感じで。
 
 それで割と序盤から陰陽師が使う一番強い毒として「蟲毒」が出てくる。私なんかは漫画『童乱』で蟲毒を知ったクチなんですけどwざっくり言うと壺の中に色んな毒虫とか蛇なんかを閉じ込めて殺し合いをさせる、そこで最後の一匹になったやつが超強い毒になってるっていう呪術。
 でねさっきのあらすじ通り、晴明は犯人として捉えられてしまうけどガッツと腕力でそこから逃げ出す。そしたら今度は「晴明を捕まえた者を学生代表にする!」ってことになり、みんなが目の色を変えて晴明を追うわけですよ。そして当然のように気づく「学生代表になるには他の学生が邪魔じゃない?」って
だから晴明を追う傍ら、学生同士の殺し合いがはじまってしまう。
 実は晴明が逃げ出したところからでっかい催眠術の中に全員が取り込まれていて、学生たちは術の中でお互いの無意識で繋がってイメージの中で殺し合いをしていたことが判明するわけですよ。つまり「蟲毒」を毒虫じゃあなくて学生たちで行っていた
 
 そういうメインのストーリーの横で、帝(天皇)と貴族、そして陰陽師の関係が語られていて。陰陽師の最高に高い地位っていうのが帝に付く陰陽師で、現在そこは空席になっているんです。とはいってもこのころの身分制度では陰陽師の地位なんてめちゃくちゃ低い。御簾の奥に帝がいて、そこから1段下がったところに貴族が座っていて、そこと話す陰陽師は屋敷の外の地面に座っている……そういう格差があるよー、って話がされているんです。
 で今の陰陽師トップにいる陰陽頭って役職の人が、それを心の中では苦々しく思っている様子が描かれるのね。
 
 さて、学生たちを材料に蟲毒をやろうとした陰陽頭は何を考えていたか。
 それは彼の占いによって安倍晴明が将来、最強の陰陽師になることが予見できた。だから計略にハメて晴明を亡き者にしつつ、ついでに蟲毒によって高まった陰陽パワーを自分のものにするためだったのだ! ていう展開に私は「惜しいなぁ!」って思ってしまったんですよ。
 
 だってですよ。貴族と陰陽師の間には圧倒的な地位の差がある、そして蟲毒によってスーパー陰陽師を作ることができる。とくれば「貴族との格差をひっくり返せるような陰陽師を作り出す」みたいな話になる感じするじゃない。
 その計画を知った晴明が陰陽頭を倒しても「そうだ、それでいい。私じゃなくてお前でも、誰でもいいのだ。それで陰陽師が認められるようになれば!」みたいな、だって私たちは「安倍晴明」っていう超スゴイ陰陽師のことを当然だけど知っているわけで。そうやって将来的に認められることが確定している歴史の始点を見れば、本当は晴明が許せなかった男の思惑通りになっていたのだ……っていうちょっとビターなオチのほうがなんか現代っぽいじゃない。
 しかも「呪い」って意味で陰陽術とも繋がって、絶対面白いのになぁって思ったのよ。
 
 ただまぁこれって「二次創作って楽しいよね」って話でしかないのと、夢枕獏の『陰陽師』シリーズ前日譚としてこの作品があるわけで、そういった点からしてみてもまぁ今の形になることは理解できる。
 そしてなにより最初に言ったエンターテイメントとして、「別に後味悪いオチなんかにしなくていーじゃん!」っていう意志が確実にあることは読み取れたから、私はそれなりに納得はしています。
 
 しっかりと当時の力関係に翻弄された悲恋があったり、孤独に生きてきた晴明が「友情」というものに目覚めたり、その友人が「自分はどんな辛いことや苦しいこと理不尽に見舞われても、笛を吹いてる間はだけは全部忘れられる」という趣味人として見せる面がわりと感動的だったりしたので、全体的にはそれなりに見れる作品だったと思いました。
 少なくとも『ゴジラ-1.0』のCG含めた特撮が超楽しかった人なら、見て損は無いと言い切れるぐらいには。

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 次回は『ゴジラxコング 新たなる帝国』評を予定しております……これってゴジラ攻めコング受けってこと? リバはない?

 この話をした配信はこちらの16分ぐらいからです。


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