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作る、食う、生きる――雑で楽な自炊への道。その④たまごを、信じるな。

 前々回(その② 「料理」を覚える、三工程)では料理を三つの行程、【切断】【加熱】【調味】に分けることを
 前回(その③ 「料理」を覚えるとは何か?……俺たちは雰囲気で料理をやっている!はそれぞれの行程で出来ることを組み合わせることで「料理」が完成する、という話をしました。
 
 さて料理を覚える、できるようになるためにはその三工程で「できること」を増やしていくことが必要です。とはいえいきなり全部を一気にやっていくのは……できなくはないです、というか普通はそうする。けれども今回は「楽&雑」に料理を身に着けることが目標なので、どこか一行程に絞って集中的に「できること」を増やしていきます。
 
 となるとここは【調味】からでしょう!
 
 【切断】つまり食材の処理や【加熱】焼く煮る揚げるを身に着けても、同じ味が続くと飽きます。けれど同じ材料同じ調理でも味が違えば食べれてしまう。それこそ前回の話に出てきた「牛肉ジャガイモにんじん玉ねぎを煮た料理」からビーフシチューと肉じゃがが生まれたように、です。
 
 あと【切断】は【加熱】を覚えた後の方が理解しやすい、みたいな部分もあるので。
 
 で、実際に調理に入る前に一つだけコツ、というか最短ルートを通るための方法を覚えてください。 

・同じものを2週間以内に3回作る

 です!!
 
 これは料理ビギナーから新しいレシピを身につけたい中級一歩前までには非常に有効な手立てでありがなら、どの料理指南書や解説でも恐ろしくて書けない言えないことです。なぜなら料理が好きな人は、豊潤で自由で奥深い料理の世界を知って貰いたいっ!と思っています(私もそうです)。だから「こんなのもあるよ!」「こういうこともできるよ!」「あんなものだってつくれちゃう!」をやりたい、超やりたい。
 もちろんそれでも最終的には料理を覚えることはできます。ただ前々回も言ったように、料理の上手さとは反復練習と試行錯誤の回数に直結しています。だから最短ルートで料理を覚えるには「繰り返し同じものを作る」のがもっとも近道なのです。
 
 私もまったく新しいレシピを身につけるときには大抵「二日続けて同じものを作る」→「翌週もう一回作る」という、短期集中で学習するようにしています。
 そもそも初めて作る料理は調理手順も完成形も(そりゃあかなりの部分は予想がつきますが)曖昧です。だから手探り状態で調理する1回目は「失敗前提」ぐらいの勢いでいい、めっちゃ時間かかったり何か色々入れ忘れたり味がボンヤリしていたり……ここでは必要最低限の手順と完成品の正確なイメージを自分の中に刻み込むのが目的です。
 2回目はさすがに最初より手際も良くなる。時間にして半分以下で仕上がるし、手順と完成品が接続できているので「抜かしたらいけない行程」「リカバーが効く失敗」「ストレスの無い順序」が理解できる。これで概ねその料理に対して基本形が身につく。
 3回目で料理を完全に自分のものにしつつ、好みの味に調整する。
 期間をあけずにトライすることで技術も手順もコツも掴みやすくなります、これが例えば半年に一回思い出したように作っているだけでは「ああ、確か前も同じような失敗したなぁ……」という結果になることがほとんどです。そうなるとやる気も削がれるし、なにより「その料理はおいしくない」という先入観に捕らわれることになります。失敗はなるべく早く、同じことをやり直して失敗の心理的印象を払拭すべし。舞城王太郎の『熊の場所』を読め!
 
 この手法は家族がいる方だと難しいでしょう、一度台所に立てば家族全員分の食事を作る事になるでしょうし、そうなると2日続けて同じものを出せば多少の文句も出る。だからこれは「いまから自炊をはじめよう」という、誰からも期待されずに自分が作ったものを自分だけが食べる、という環境にいる人でないとできないことです。
 だからこそ超ショートカットで料理を身につける、この荒っぽい手法を取れるのですよ!
 
 さて、ここから何を作るかという話をしていきま……の前にお米は炊くのは忘れていませんね?大丈夫ですね?
 
 料理をほとんどしたことが無い、という人が「まず何を作るか」。これは実際かなり厄介な問題です。とはいえ世間一般のイメージとしては「目玉焼き」辺りが思い浮かぶのではないでしょうか?料理がまったくできないことを説明するとき「たまごも焼けない」とか言うように、卵を使った料理――目玉焼き、玉子焼き、オムレツ、ゆで卵――というのは「簡単で初心者向き」というイメージがあります。
 だがそうではない!!!
 個人的に「たまご料理からはじめる」ことが、一定数の将来有望なコックの芽を摘んでいると思っています!
 
 別に「オムレツというのは実に奥が深くてね……」などというクソスノッブ仕草をしたいわけではなくてですね、目玉焼きも玉子焼きもオムレツもゆで卵も数回作れば身につく簡単な料理です。ですが、2点大きな落とし穴があります。
 一点目は「数回作れば」の部分。これら「たまご料理」の1回目は「必ず失敗します」! 断言しますよ、「必ず失敗します」。
 二点目はスキルツリーが独特、という部分。
 
 それは卵という素材の異常な挙動に由来します。
 まず生の状態では液体に近いゲル状をしていて、さらに白身と黄身では粘性が異なります。個体のように掴めない物体が、別の性質を持っている2パーツにもかかわらず分離が困難。つまり一度の操作で2つのマテリアルに対応しなければいけません。
 さらに過熱したときの見せる熱変成タンパク質として動きです。ざっくり言えば、タンパク質には加熱することで変化し、温度が下がっても元には戻らないという性質。だからこそ我々は「料理」ができるわけですが、その不可逆性はつまり「やり直せない」ことを意味しています。
 これが豚肉だったりすれば、焼く前と後では色も違うし固さも違うけれど、その姿は(特にシルエットだけを考えれば)ほとんど変化していません。しかし卵ぉ!お前は何なんだ?最初は液状なのに熱を通すと個体になる、しかもその変化速度が早い!熱したフライパンに溶いた卵をジュゥと流し込めば、おおよそ2~3分で固まってしまう!
 もちろん素早く完成するのは基本的に良いことです、がそれは慣れた人の話。
 きれいに整った玉子焼きを作るとしましょう。フライパンに溶き卵を流し込んだ状態ではまだ液体で形成できません、しかし焼き上がるころには熱変成を起こしており形が変形しなくなっている……つまり「固まりはじめ」から「固まりきる前」の短い時間に、卵の加熱変化を見極めながら適切な形に整え、その上で中までしっかり火を通す。という行為が必要なのです。
 そんなこと……そんなこといきなりできるかよ!! ゆで卵ってなんだよ!殻に入った物体の変成過程を半熟で湯から上げるとか超能力者でもなければ無理だろ! 少し水を入れて蓋して蒸し焼きぃ!?そんなこと想像つくかっ!
 ……まぁ数回作ればそこらへんは身につきます。でも1回目は「必ず失敗する」。あのねぇ初心者は褒めて育てるの!絶対最初は上手くいかないことをやらせて「よし、次もがんばるぞい!」って思えるか?あぁん!?
 
 その上で、数回の練習の後オムレツが上手に焼けるようになったとしましょう。
 そこから先が無い!
 前回書いたように「料理のスキルとは発展と複合ができる」というものですが、たまご料理には発展先が少ない!「たまご料理」という特殊素材を運用するスキルは上がっても、他の素材に援用できる部分がマジで無い!
 実際「たまご料理」は深淵に繋がっていて、そこをマスターするなら一回の人生では時間が足りないくらいですが、ちゃうねん、こっちはタマゴグランドマスターになりたいんじゃなくて日々の生活をやりこなす自炊能力を求めとるんよ?
 ただ「たまご料理」の複合スキルとしての能力はハンパ無いです(とはいえこれは「卵の代わりができる素材がほぼ無い」という特殊素材であるがゆえの立ち位置なんですけどね!)。だから「たまご料理」スキルをちょっと身につければ、作れる料理のレパートリーが爆発的に増加します。だからどこかのタイミングで軽くたまご料理を履修することは有効ですが、絶対最初にやることじゃあねぇよ!もっと発展性のあることから始める、べし!
 
 さて話を戻して「何を作るか」ですが……
 「食事」の重要な役割に「健康を維持する」があります、というか本当はこれが一番の目標であるわけで。
 
 とはいえ細かく栄養を管理する必要は、とりあえずは無い。いや何らかの事情がある人は別だけど、まぁ平均的成人ならある程度整った食生活をしていれば、料理を覚えて栄養まで手が回るようになるまで体はもつから。大丈夫だから。
 
 で、その「ある程度整った食生活」とは何か?それは



野菜

 以上!
 
 一食でそれらをバランス良く食ってれば死なないから。大丈夫だから。
 
 米、というか炭水化物ですね。ごはんパンうどん等々、適切に食え。
 肉、というかタンパク質。食いすぎは良くないが、ちゃんと必要な量を食べるのが意外と難しいのがタンパク質。これは炭水化物の量を基準に「ごはんのおかずとして丁度寂しくない量」を食べる。とりあえずはそこから日々の暮らしの中で調整していく。筋トレを真面目にやってる人は多少気を使うべきだけど……まぁそこらへんは筋トレちゃんとやってるなら十分知識はあるでしょ。
 野菜、緑とか赤とか黄色とか草とか根っことか。これらを値段を抑えてしっかり食べれるのが自炊の利点とも言える。で、それをどのくらい食べればいいの?っていうと、大体1食で100~150gは食べよう(一日350g)!というのが一般的には言われています、まぁつまりそのぐらい食ってればまず死なない、と。
 
 ただね、料理まったくのビギナーにとってはそれ以前の話だったりするわけですよ。つまり「健康を維持する」の前に


お腹を壊さない

 っていうハードルが待ち構えているわけで。
 
豚肉とか鶏肉とか「よく焼け」って言われるけどどんくらい焼けば「よく焼け」になったかわかんねーよ!
ニンジンが食べれる柔らかさなるまで火を通すのはどのくらいかかんだよ!
 
 みたいな部分はあるわけですよ。あと「野菜100gとか言われてもイチイチ測ってらんねーよ!」みたいなこともある。


解決、しましょう。

 
 【調味】を身につけるのに使う食材を
チクワ
カット野菜(キャベツたまねぎニンジンが混じってるやつとか。個人的にモヤシはやや扱いが難しい野菜なので最初は避けたい)
冷凍野菜(ブロッコリー、アスパラガス、さやいんげんとか、これは単体でもミックスでもOK)
 に限定します!
 
 チクワは手で千切れば十分!包丁使っても適当なサイズでどうにでもなる。野菜は切れてる。
 そのままでも食べれるチクワは元より、加熱済みの冷凍野菜、生で食っても大丈夫な種類や切り方がされてるカット野菜なら、加熱にはそれほど悩む必要無し。
 カット野菜も冷凍野菜も一袋の分量が明記されてる(しかも一袋で200~250gのものが多い)ので、「これを半分で」とかやれば測らなくても大丈夫。
 
 お値段もチクワ5本入り100円とかなら1食で2.5本使って50円。野菜は半袋で100円前後。あとは米ぐらいなので一食で200円から250円……そのぐらいだと思えば「まぁ外で食うより安いし、こんなもんでもいいかな」ってならない?しかもそれが最低ラインで、ここからみるみる上昇曲線を描く成長をしていくと考えれば。
 
 まぁ、人によるか。
 
 ちょっと長くなった(ていうかタマゴに対して愚痴りすぎた)ので、今回はここまで。
 
 次回はチクワとカット野菜を使って【調味】を覚えていきます。
 あなたに「味付けスターターパック」を授けよう!


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