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一週遅れの映画評:『東西ジャニーズjr. 僕らのサバイバルウォーズ』備えよ常に。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『東西ジャニーズjr. 僕らのサバイバルウォーズ』です。

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 『東西ジャニーズjr. 僕らのサバイバルウォーズ』ってタイトルから「あーこのぐらいの面白さかなぁ〜?」って想像して?想像してみた?できた?その面白さの2.2倍くらいは良かった!あのね、話の筋なんかは「お金がかかった学芸会」ぐらいなんですけど、それがね何かいいんですよ
 
 私は本来、古典的フェミニストではあるので「男女の差なんて誤差みたいな身体上のことだけで、何の違いもありゃしねぇんだよ。だから男とか女とかに立脚した言説なんてこれっぽちも意味が無い」という立場ではあるんですが、やっぱこういう作品を見ると「中学生くらいの男子集団でしか表すことできない概念がある」という気分になってしまうんですよね。
 子供っていうのはどうしたって狭い世界で生きてるわけですよ、だから基本バカだし思慮も浅い。だけど、だからこそ外側にある様々な価値観に左右されない関係性が構築できる部分もあって。大人だから打算だけで動いてる、とは思わないんですよ、こうやって毎週少なくない手間をかけて話してる私にそもそも打算なんてカケラも無いわけですしw ただ損得勘定と情緒の間でバランスを取ってその妥協点を探り探りやっていることも間違いない事実ではあるわけで、そこで外部との繋がりがまだ薄い子供はその妥協が情緒側に寄りやすい、たぶん子供たち本人は「自分たちはちゃんといろんなことを考えている! バカにすんなよババァ!」って思ってるんだろうけど(私も実際そう思っていたし)、でもやっぱ違うんだよね「寝ても体力が簡単に全回復しないから、早く寝よっと」レベルの話でw

 中学生ってそりゃ多少は外部のことも見えてはいるけど、やっぱり子供で。体は成長しつつあるけど精神とはアンバランス、しかも同年代で身体の発育度合いに個人差が大きくなりやすい時期だから、近い年齢でも見た目はてんでバラバラで。あと性ね、そろそろ精子が出せるようになって性愛への欲望が増してくるんだけど、それが不可分で自分の性対象だけへシンプルに欲望が向いていない、ヘテロな子でも同性とのじゃれ合いにどことなく性欲の発散が混じっていたり……あれ?これいま私の癖(へき)が出てるか?
 まぁとにかく、そういった曖昧な存在である男子中学生のホモソーシャルな集団。そこでしか表現しえないものってやっぱりあるんですよ。

 作品内では内部分裂して2つに分かれたボーイスカウトチームと、あと不良チームが登場するんですが、そこで諍いが起きる。そんで「何だテメェ、やんのかコラァ」「やってやんよオラァ」みたいなセリフのあとにダンスバトルがはじまるっていう。いやもう完全に『ウエスト・サイド物語』なんですけど、それが真っ昼間の公園で、しかも相手のダンスに合わせて一緒に踊るからめちゃくちゃ牧歌的でw 「何だお前ら仲いいな、オイ」って感じがすごいんですけど、これがさっき言ったじゃれ合いと性欲の発散が未分化な感じをすごく表していて。
 ジャニーズ、それもJr.って集団がこれまで描いてきたものとか歴史を考えると、その感じって絶対に意図的なものだと思うんです。その年代の子たちをずっと扱ってきたエンターテイメントのプロフェッショナルで、見てる人たちもそういった「無垢な性欲」としか言い表せないものを期待している。そういった中で繰り広げられる、どこか牧歌的なケンカ風のダンスバトルってマイルドなセックスの代替なんですよ。
 これもう少し年齢が上がると性欲に対してもっと自覚的になってしまうし、これより若くてもまだ精通してるか微妙になってくる(それこそ個人差の大きい年代なので)、だから「中学生くらいの男子集団でしか表すことのできない概念」が成立するわけよ。

 で、そこに学芸会みたいなお話が絡むことに妙な納得感があって。つまり難しいこと、複雑なことで彼らのストーリーや関係は転がらなくて、めちゃくちゃ単純で明快だからこそ無垢な性欲が無垢なままで駆動する。たぶん難しいお話を持ち込んでも、その魅力を減らしてしまうんです。ここで優先されるのは「お話が面白い」ことなんかではなく「彼らの魅力を存分にあらわすこと」であるわけで、そこに対して面白すぎる話はむしろ邪魔で、魅力を濁らせてしまうものになるんです。そこでその捻りがない物語を一点突破していく「友情、絆」という要素がね、実にシンプルに響いていて。「君らは、それでいい!」という納得ですべて許せちゃう。納得は全てに優先する(byジャイロ・ツェペリ)んです。
 そういった部分に対する興味深い面白さを加味していくと、見る前に思ってた2.2倍くらい良かった!という感想になるんですね、私は。

 あとこの作品、ボーイスカウト加入者が中心なんだけど……じつは私、子供の頃ガールスカウトに所属していたことがあって。活動の8割はガールスカウトだけでやってるんだけど、ときどきボーイスカウトの人たちと一緒になることあったのね。そんときにさぁ、あの男の子たちの「和気あいあいとイチャイチャしてる」姿がなんかすっごい楽しそうで仲良さそうで(いや別に私たちが不仲だったわけではないけど、明らかに「仲いい」の距離感が違うのよ!)、めっちゃくちゃ羨ましかったのよ。今にして思えばそれは性欲の目覚めが男の子に早く訪れているからだとわかるんだけど。
 だからそのときの感覚と重なって、すごい羨ま懐かし楽しい気分に浸れました。すごくよかった、うん、かなり良かった。

 あと最後にさり気なくスカウト特有の「三指の敬礼」。人差し指、中指、薬指だけを立てて、顔の横に出す……これはスカウトの「3つの誓い」をあらわす正式な敬礼のハンドサインなんだけど、それをやっていたのが元スカウトとして嬉しかったですね。

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 次回は『シャドウ・イン・クラウド』評を予定しております。

 この話をしたツイキャスはこちらの18分ぐらいからです。


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