マガジンのカバー画像

ものがたり

12
運営しているクリエイター

2020年5月の記事一覧

黎明謄

黎明謄

あらぬ場所に私はいる。

そこは井戸の中かも知れないし、とんかちで叩かれた頭の中かも知れないし、からくり人形の中かもしれない。

鼠取りに一部を取られたから、四肢の残りを以て動く。

葬儀場からは狼煙が上がって、嫌に咽ぶものだ。

「向こう岸」と記された立て板は墨が滲み、経年の劣化が著しい。

「ここ、ここに居るんだ。」

喉元を響かせる老人の声が頭上から降ってくる。

何か用か、と言い掛けて止め

もっとみる