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大切なのは「私たちは何屋なのか?」ということ(1/2) Challenger’s IDEA

本連載 “Challenger’s IDEA” は、各業界でチャレンジされている方をゲストとしてお迎えし、今後のブランドの在り方をディスカッションしながら、「チャレンジを続ける人たちの思想をシェアするスペース」です。

今回はクリエイティブ・ストラテジストの工藤拓真さん(株式会社電通)と、「戦略」についてディスカッションしました。

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工藤拓真:電通 クリエイティブ・ストラテジスト(以下:工藤🎧)
井上真吾:スペースマーケット COO 井上真吾(以下:井上🍔)
長谷部祐樹:スペースマーケット ビジネス開発担当 (以下:長谷部🎾)

■はじめに

長谷部🎾:最初に工藤さんの自己紹介をお願いします。事業や担当されている業務などお伺いできればと。

工藤🎧:よろしくお願いいたします。今は電通という会社で、プランニング全般、クリエイティブワークを担当しています。

テレビCMはこうやって作りますよだとか、テレビCMを打つときにこんなメッセージがいいんじゃないんでしょうか、というような広告に関する業務が半分。
もう半分の業務は、「広告で積み重ねたスキルを広告の外側にもっていくこと」で、マーケティング予算の中で、広告ではないアプローチを考えています。新しいアイデア、新しい事業をクライアントさんと一緒に創るんです。

例えば、世の中に何か新しいものとして見せたいなら、ただ新しい表現のテレビCMを作るのではなく、メディアと組んだ新しい情報発信をしたほうがいいよね、と、NewsPicksさんと一緒に映像の事業を始めたりしています。

いわゆるクリエイティブディレクターという肩書で働くと、どうしても広告の仕事ですよね?と見られるので、ちょっと違う呼び方のほうが便利だなと思い。「クリエイティブ・ストラテジスト」という肩書で、今はいろんなお仕事をやらせていただいています。

■クリエイティブ・ストラテジストの役割

長谷部🎾:ありがとうございます。ストラテジストとは、戦略の専門家ということですよね?

工藤🎧:そうですね。

長谷部🎾:「戦略」って一見するとすごい広義じゃないですか。工藤さんが考える「戦略」ってどういうものなんでしょうか。

工藤🎧:はい、まさに今日のお話にもつながるかもしれないんですけど、
いわゆる経営戦略論というと、大上段の経営戦略があって、そこから事業戦略っていう、カスケードがずーっと下に下りていって、最後の下の下でテレビCMなどの表現戦略というような構造に基本的にはなっていますよね。

カスケードダウン.001

確かにカスケードに落とすとこうなんだけど、
いろんな会社さんと議論させていただくと、実は下の部分が上の大決定をひっくり返すみたいなことが、多々起こることがあって。
なので、戦略があってその下に戦術があるという見方は、僕はしていないです。

僕らって基本的には外の人間で、いろんな会社さんの様々なフェーズでの悩みごとに関して相談をいただき、その場に出ていくんですね。
その際に、どのレイヤーでもジャイアントキリングじゃないんですけど、上の部分をひっくり返し得る戦略とか、企てというものを立てられるんじゃないんですかね?、と考えてご一緒させていただいてます。

戦略というと、どうしても大上段の中長期的な、それこそ多少の揺らぎはあっても絶対にぶれちゃいけないもの、「変わってはならぬものである」っていうような振りかざしを、経営戦略という文脈ではされがちなんです。
 
でも、「明日、飯を食っていけない、どうしよう」ってなった時に、「明後日はこうあるんだ!」みたいな先のことを言っていてもしょうがないわけで。

「明日はどうやってウサギを捕りましょうか」みたいなことを一緒に考えるというのも戦略の一つだよね、という解釈をして、お話しさせていただいています。

長谷部🎾:確かにそういうことって起きますよね。

井上さんは、スペースマーケットにおいてCOO(最高執行責任者)というポジションで、まさに戦略と戦術みたいなものを指揮する役割。今のお話を聞いていかがですか?

対談イメージ.001

井上🍔:そこは僕も実は、結構悩んでいるというか、難しいなって思ってるところですね。

大上段の戦略というのはもちろん立てるんですけど、それから外れちゃ絶対に駄目っていうことはなくて、間違わないように補正していくのが、僕の役目なのかなと思ってます。

だから、メンバーが停滞しないように走り続けるモチベーションを保つことと、「そっちは山だよ」とか「そっちは川だよ」みたいな感じで、ある程度の道筋は立てた上でみんなで走れるようにする。そういうことが大事なんだなと。

ぶっちゃけ言うと、僕が「絶対にここだよ」と言っても、今の時代「本当にそうですか?」みたいなところもあると思うので。

やるべきタスクはカスケードされていくんですけど、戦略・戦術レベルになってくると、ゴールさえ達成できれば別にそのプロセスは何でもいいと思っています。

工藤🎧:本当そうですね。

■大切なのは“何屋”であるかを考えること

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長谷部🎾:大上段の戦略がひっくり返るようなことが起きるというのは、今の時代の変化が早いからなのか、それとも以前からそういうものなのかでいうと、どうなんでしょう。

工藤🎧:僕は江戸時代とかに働いたことがないので分かんないんですけど、、

一同:笑

工藤🎧:ただ少なくともこの20~30年でいうと、「ずっと変化が激しい時代です」とは言っています。

それこそ、とある会社さんの新卒採用のお手伝いで、いろいろお話を伺った時に、「2020年、今年は変革の時代である」みたいなVTRから始まる企業さんって、もう30回ぐらい同じことを言っていて、毎年変革してるやんっていう…笑

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というか生きていれば、そりゃ変わるよねっていう大前提があるじゃないですか。

確かに産業レベルで見たときに、Googleなどが生まれたことで激変したっていうタームはあると思うんです。俯瞰した目線で見ると、そういう変化の流れってまだ感じるかもしれない。

だけど、プロジェクトタームで見ると実は変化って常に起こっていて、昭和の高度経済成長期にはあまり変化が起こらなくて何とかなってきたのが、今になって激しくなったみたいなことではなくて、どのタームでも常に変化の激しさはあるんだと思います。

ただ、型がガッチリしていないことが多くなってはいますよね。

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今までだったら、リーダーが「山に登れ」って言って、ただどの山に登るかまで決めちゃうと独裁者になって、現場の面白みがなくなっちゃうから、「じゃあ富士山に行くか」「今日は高尾山でいいか」みたいなことは、チームで選んでるみたいなのが面白さだったと思います。

一方、今は、リーダーが「山に登れ」って言ってる中で、他を見たら「山なんかオワコンで海に行ってたほうがモテるんだよ」ってなってて、ウソでしょ?っていう(笑)。「井上さん、山に行けって言ってたじゃん」みたいにリーダーバッシングが起こったりする。

今までは「自動車産業だったらこう」って、ある程度は決まってたと思うんですよね。それが崩れちゃっている。それって、大変さでもある一方で新たな面白さでもあるのかなと思ってます。
 
僕は意思決定する人間ではないので、あくまで意思決定している人たちを見ていて思うことなんですけど、そういう時代感なのかもしれないなというのは、この5年ぐらいで強く感じてますね。

井上🍔:わかります。そういう時って、なぜ、何のためにそれをやるのといった「Why」がすごい大切ですよね。

モテるために山に行くんだったら、結果としてモテるってことがすごい大事じゃないですか。そこがブレないようにして何をするかを考えなきゃいけない。そうじゃないと結果が出てなくても「だって山に行けって言ってたじゃないですか〜 」ってなる。

「山に行くのはなぜか」をはっきりさせて、HowとWhatよりも「だからこっちに行く」という話をしていかないと、今の世の中はなかなか前には進めないなと、最近よく思いますね。

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工藤🎧:本当ですよね。

「Whyが大事だ」というと、割とエスタブリッシュメントというか、エリート層の言葉っぽくなって、届くところに限界が出ちゃうと思うんです。

だから、もうちょっと雑な言い方をしちゃうと、「俺ら何屋なんだっけ?」という話をするといいなと。

さっきお伝えしたみたいに、産業がカチッとしてないから各社がめっちゃ考えないといけないと思うんです。

「自動車屋だったら」、「自動車屋だから」、「自動車屋だとしてもこうだってなる」といったように。

それこそ「スペースマーケットって、何屋だっけ?」という問いかけをしてみる。

もし「レンタルスペース屋です、そういう業界です」という説明に閉じてしまったら、息苦しくなっちゃうと思うんです。

実際には、ビジョンをもっと広く設定されている。だから今日のような「アイデアをシェアする」という企画も考えられるわけじゃないですか。

業界とかジャンルとかで切った結果、取りこぼしちゃう部分っていろいろあって、故にさっき井上さんがおっしゃっていた「Whyが大事」とか「何屋なんでしたっけ」っていうのが本当に大切だなぁと。

世界で活躍する企業は、そこがめちゃくちゃ強いんですよね。どん引きするぐらい強いんですよ。そんな言わなくてもいいですというぐらい強いところがあって。

井上🍔:そういうときの外向けのメッセージと内向きのメッセージの伝え方がうまい会社は素晴らしいなと思いますね。

「どうしたらビジネスとして儲かるか」という話と、ビジョン・ミッションのような「純粋にこのサービスの素晴らしさをもっと広げていきたいんだ」っていう話があって、後者が大事なんですけど、前者も持ち合わせていないと後者を最大化できないっていう問題があって。

外向けには後者の文脈で発信することが多い一方で、内向きには、ある程度は売上げと営利も取っていかないといけないんだよみたいな。この辺の設定の仕方が非常に難しいと思いますね。

トップはWhyを絶えず、絶えず言い続けていて、中間管理職の人たちが、「とはいえ・・」みたいな話をする、というのはあるあるですよね。

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工藤🎧:そうですよね。そこでそのWHYが逆転されちゃたり、消えちゃったりしてないかが大事ですね。

「Whyとかいいっしょ。とりあえずでしょ」っていう言葉を、会議の雑談でワッハッハ って言っていたのが、いつの間にか本当にそういう声が大きくなっちゃうみたいな現象もありますよね。

例えば、テレビCMを打たなきゃという環境って2パターンあるんです。

ずっと綿密に積み上げてきた中で「よし、ここが勝負どころだ」とCMを打つパターンと、逆に追い込まれて今期は取り返さなきゃいけないというときに、「キャッシュをどうにか集めてきてテレビCMを打ち込みたいんだ」というパターン。

後者の場合は「背に腹は代えられぬ」みたいな議論ばかりになっちゃうんですよね。

極端な言い方ですけれど、「一旦とりあえずユーザーにさせてくれ」っていうぐらいのことを。直接そうは言われないですけど、それに近いような状況も悲しいかな起こっています。

実際に世に出ちゃってるクリエイティブとかでも、結構それは多くなっちゃってると思うんですよね。特にto B系だとより一層そうです。

そういうのを見ていると、僕は同じ業界にいる立場からすると申し訳なさがありますね。その会社、広告をそもそも信じられなくなっちゃうので。

そういう会社では社内の会議での言葉というか、そういうものも伝播するので、Whyが大事というところに戻ってくるのは、本当に大事です。

流行り言葉的なものではなくて、本当にWhyが大事なんだなというのは、いろんな会社さんのフェーズを拝見していて感じるところです。

■2パターンの提案をするワケ

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井上🍔:実際に工藤さんは、クリエイティブやメッセージを考えてクライアントに出すわけじゃないですか。

すごい変な質問ですけど、その完成度とか自信度って何%ぐらいで出すものなんですか。

工藤🎧:完成度という意味では、その枠組みの中でやり切ったなというものをお出しします。

ただ、僕らの職業は意思決定の立場にないことが大事だと思っています。

人によって流儀は様々あるんですけど、僕の場合は当初のプラン以外の選択肢を増やしてあげることが仕事かなと思っているので、基本A/Bプランを考えるようにしているんです。

A案は、議論の延長として、これがベストだと思えるもの。
B案は、議論の中で見えてきた、「実は〇〇屋さんなんじゃないか」という考えを頼りに飛躍させた、依頼からズレたアイデア。

この2案をお持ちするようにしてて、それで議論させていただきます。

そのときにAとBのどっちが良いのかでいうと、A案に関してはある程度論理的に、ロジカルに証明できる数字のロジックが立つものをお持ちしているので自信があるんです。

一方、B案に関しては自信ありなしでいうと、「根拠なき自信はある」という状態のものをお持ちするという感じですね。

これのファクトは?とか、これのリファンレスは?と言われると、だいぶ借用した例え話しか持っていけないです。

井上🍔:めちゃめちゃ面白い。

長谷部🎾:ゴールに向かうにあたって、ロジックとクリエイティビティって、時にちょっと場所が違うところにあると思われるじゃないですか。

数字やファクトでロジカルに説明することで、納得感やその場の理解は得やすい部分がある。

でも、もしかしたら人の心をグッと動かすのは「ファクトはないけどこっちがいいんじゃないか」みたいなこともあって、その辺ってどう考えられてるんですか?

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工藤🎧:そういう意味でいうと、特にクリエイティブが関わる部分って事業全体で見ると、事業のスタートが三角形の先っぽだとしたら、煮つまって、煮つまっての最後の周辺領域だったりするじゃないですか。

どうしても順番として最後のほうに来ているので的が絞られすぎている。

一方で、消費者心理でいうと割と大きな影響力を持っている要素であるので、この的の中で考えるのが本当にいいんだっけ?っていうのは、各社のマーケターさんといろんなタイミングで議論できる環境に持っていけるかが、さっきお伝えしたB案を考えるときには大事なことかなと思っています。

なので、ここまでどんな完璧なものを積み上げてても、結局最後にお客さまとコミットメントするときに、ズレちゃうと全く意味がないよねという、UI・UXの話と近いと思うんです。

その瀬戸際のところで、どうひっくり返すのかに本当はもっと力を入れなきゃいけないんだけど、意外に最後の最後の近いところにコミットメントする立場の人って少ないと思うんですよね。層としても薄いし職種としても薄いと思うんですよ。

なので、そこにどうやって経営リソースを割くとか、どうやってみんなに大ごととして捉えてもらうかを考えなきゃいけないというのが、クリエイティブの僕とか、そういう人間の仕事かなと思っています。

長谷部🎾:考えて、考えてきただけに、頭でっかちになっちゃうというか。本当は「ここが大事なんじゃないか・・」って何となく気付いているんだけど、これまでやってきたここがあるから、そっちに寄せにいっちゃうみたいなことありますよね。

工藤🎧:そうなんですよね。めちゃくちゃラフなというか、分かりやすい感じでいくと、例えば会議をしていて、本当にどれがいいんだっけと思ったときに、消費者としての自分というか、生活者としての自分が完全に抜けきった状態で議論していてもしょうがなくて。

生活者としての自分は、「よく分かんないけど“青”」とかっていう行動を取るじゃないですか。

「何となくかわいい」とか、そういう何となくみたいなをものを言えない余白に、スプレッドシートが迫ってくるんですよね。

スマートな判断を良しとする、スプレッドシートさんが迫ってくるじゃないですか(笑)。

長谷部🎾:そのスプレッドシートの例え、めちゃくちゃわかるー!

工藤🎧:そこから逃げたいという。

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井上🍔:そうですよね。頭でっかちになればなるほど、「何で青だと思うの?」みたいな話になる。

そこにスプレッドシートさんがおられたら、調査結果からギューっとなって「だからこれなんです」ってなる。

工藤🎧:本当ですよ。

井上🍔:言える人がいたらいいですけどね、「確かにスプレッドシートは”緑”と言っている、でも違うと思うんだけどなぁ」みたいなことを。

工藤🎧:そうです。これはまずくね、みたいな。
それって引いて見てると分かるんですけど、入ってると意外と分かんなくなるというか、自家中毒を起こしちゃうじゃないですか。

しかも、結構その自家中毒ってあっという間に起こるんですよね。

なので僕も、それこそ煮つまっちゃってどうしようってなったプロジェクトには、どうしようってなった次のタイミングから違うメンバーを入れるように意識してるんです。

そうするとあまりキャリアとか関係なく他のメンバーから見たら、どん引きするぐらい訳分からないことに悩んでいるみたいな状況がある。

「3本か2本かというのは…どうでもいいですよね?言っちゃまずかったですか」みたいな感じがよくあるんですよね。

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あと、それこそさっきのスプレッドシートじゃないんですけど、競合に勝とうと思ったら、メッセージを超大事にするじゃないですか。

例えば「レンタルスペースならスペースマーケット」というのを、鬼大事な言葉として、それの浸透力至上主義で判断の軸を設ける、みたいになると思うんです。

それは短期のショートタームで見るものとしては優れた指標なので、そこを見ていきますけど、どうしても長期というか、何屋なんだっけというところが、ぐらっとした状態でそれをやっていると、気付いたら「レンタルスペースって言えばいい!」みたいな意思決定になっていることが、容易に起きてしまうので。

だから、そこから抜け出すためのテクニカルな話なんですけど、スプレッドシート上にビジョンやミッションを入れるのは地味に効きます。

資料とか眺めるものに物理的に入れてしまうと、嫌でもに意識するようになって、結構そういうのが大事です。

長谷部🎾:確かに、地味に効きそう!

「大切なのは、「私たちは何屋なのか」を考えること(2/2)」へ続く