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コントで日常をメモし続ける、理想は全国行脚の旅芸人/スペースマーケットGuest Story

京大卒のピン芸人が提案するのは、日常の体験コント。

チャレンジする人を応援する、スペースマーケットGuest Story。今回のゲストは、一人芝居形式のコントで全国津々浦々をめぐるピン芸人の九月さんです。話しているといつの間にかその世界に惹き込まれてしまう不思議な魅力の九月さん。コントという形に落ち着いた独特な芸風の裏側や、理想とする生き方を語っていただきました。

行き着いた形がたまたま「芸人」だった

もともと文章や絵や音楽や、何かを作ること全般が好きだったんです。芸人になろうと思っていたわけではなくて、「コンテンツ制作」の一つの選択肢としてお笑いがありました。自由と楽しさを求めてたまたま作ったものがコントと相性が良くて芸人という形になりましたが、他のきっかけがあれば舞台や映画だったかもしれません。

養成所に入るとか、エントリー式のお笑いライブに出るとか、そういう一般的なお笑い芸人の道を通っていないんです。コントらしきものが出来たので、会場を借りて公演を開いて、それが楽しくて継続してたら外から仕事が来るようになって。

「地方のお祭りに出演して」だったり、「夜のショーパブでネタやってくれ」だったりが続いて、気づけば今6年目です。事務所に所属するわけでもなく、全て自分でやっているDIY芸人です。

「芸」をしているので自分のことを「芸人」とは思っていますが、「いわゆるお笑い芸人」に当てはまるかと言われたら、微妙なところかもしれません。自分が何者かは僕自身もわかってないし、あえて決めようとも思っていないです。

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コントは日々の体験を記録するメモツール

何か伝えたいメッセージがあるとか、自分の中から湧き上がるものがあるとか、そういうのは一切なくて。日常生活で「これ面白いな」って思うことってよくあるじゃないですか。それを常にメモしていたいんです。そのメモするツールとして落ち着いたのが、たまたまコントでした。

コントになったものをライブでやって、ならなかったものはnoteに書いたり、Twitterに投稿したりして。Youtubeはコロナ禍でライブができなくなって始めたんですが、コントをアーカイブとして残すのにとてもいいツールだなと思っています。このご時世ですから、家にいがちな皆様へ贈るような感覚で。累計200本を超えました。

コントを作る際には一つだけ、「ボケを覆さない」というルールを課してます。例えば、お弁当屋さんにて「このお弁当お願いします。」「はい、8万円です!」「高すぎるだろ!」「すみません、300円です。」っていう会話。よくあるボケとツッコミの流れなんですが、そういうものは、ほとんどやっていなくて。ツッコミが入って、8万円だったものが一瞬で300円に戻るのって、切り替わりが早すぎてもったいないと思ってしまうんです。

お弁当が8万円なら「なぜ8万円なのか」の方向に話を持っていきたいんです。経営の傾いた老舗を存続させるため、自分でもおかしいと思いながら8万円で売るしかないだとか。実は店内に違法賭博所があって、弁当が掛け金になっているだとか。一つのズレをすぐに常識に戻すのではなく、ズレをズレのまま、放置して話を続ける。

そうすることで、「お弁当の適正価格ってどのくらいなんだろう」とか「何が決定要因なんだろう」とか、普段考えないことを考えるきっかけになったり、それがまた新しい展開に繋がったりもして。あたりまえの日常や常識が変容する瞬間が好きで、そんな瞬間をコントで切り取るようにしています。

メモを続けるための活動が形成する新たな文化

現在とても楽しく活動をしていますが、やはり不安要素としては「お金になるか」問題なんですよね。

「お笑いがお金になるか」というのは少し根の深い話で。そもそも、「お笑い」という文化が、駆け出しの芸人からお金を集めることで成り立っている部分があるんです。養成所に行くなら学費が数十万円かかりますし、制作会社が行うエントリーライブに出演するなら出演料として毎回2000円とか3000円を払う感じなんですね。一つ一つの出番は2分や3分で、それを毎週何回か出て、みたいな。ですから若手芸人の大半は結構な赤字で、仕事が増え始めた辺りで、やっとトントンに戻せるくらいというか。

僕はそういったルートを辿らずに、自主制作の公演と、自分で取った仕事だけで活動を進めてきました。夜のショーパブに出たり、お昼の寄席に出たり、結果的なステージ数としてはかなり立ってきたのですが、「自分が赤字になるならば出ない」という縛りを設け活動してきました。「仕事にする」というのはそういうことだと思うので。

こうしたスタイルで活動をしている芸人、自分以外には見たことがなくて。それはちょっと特殊かもしれません。

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ありがたいことに気付けば全国にファンがいてくれています。今年に入ってからファンクラブを立ち上げたのですが、名前が「九月課金組合」でして、もうそのままですよね(笑)課金してくれ、活動を続けさせてくれってことで。

このファンクラブの面白いところは、僕みたいな少し変わった活動スタイルの芸人のもとに集まって来た人たちということで、そこに共通の文化のようなものが生まれている、ということです。先日なんて、僕のコントの感想を書くために大学に入って勉強します、という方がいて。やっててよかったなぁと思いますよね。

ファンの方々は、お笑い好きというよりも映画や演劇など、広くカルチャーが好きという人が多いです。自分にはそういった方々に対して、「お笑いってこういうものです」「お笑いではこういうこともできます」というのを提示する役割があるのかな、と思っています。「お笑い」というジャンルの裾を広げるポジションというか。王道を歩いてきたわけではないぶん、そこに自分の使命があるように思います。

理想のスタイルは全国行脚の旅芸人

芸人としての僕の強みは、「すべてが現実に由来している」ところだと思っています。日常のメモが元になっているので、色濃く僕の生活経験が反映されているんです。

そういう意味では、実質的にはエッセイストに近いのかもしれません。たまたまやり方が「コント」で、カテゴライズするならば「芸人」となっているだけで。憧れはさくらももこさんだったりします。活動スタイルとしても、全国を行脚しながら各地でライブをするような、旅芸人になりたいんです。

僕はもともと青森県出身で、大学進学で京都へ行き、芸人活動の初期はほぼ大阪、上京し現在、と、自分がどこの人間でどこに居場所があるとかっていうのが、あんまりないんですよね。もうどこもホームではないような、どこでもホームであるような。だからこそ、一つの地域に根差した芸人というよりは、あちこちを回る旅芸人になりたいなと思います。今でも、やり方を工夫したうえで、全国各地ライブをして回っています。

その全国行脚の会場探しにスペースマーケットを利用しています。お笑いの劇場って、どの街にも定番のハコがあるんですけど、コロナ禍で営業していなかったり予約が取れなかったりするんですよ。どんな劇場があるかわからない遠方の場合、現地で探すのも大変です。スペースマーケットの場合、事前にネットでどんな場所か調べられるから重宝しますよね。

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僕の場合は舞台装置とかは何もいらないんですけど、配信機材や電源、wifiはあるかなどが大事になってきます。また、背景がきらびやかであるよりは無地の方がやりやすいので、ライブバーやいかにも派手なステージよりは、小劇場やスタジオ、ギャラリーの方が相性がよくて。そのあたりの環境も含めて、事前に簡単にチェックできるところも助かってますね。

目指すは「参加型ミュージアム」の創設

今後の目標や展開でいうと、そうですね、とにかく今のまま、規模を拡大していけたらなと思っています。もっといっぱいコントをやり、もっとたくさんの人に見て貰い、一生これを続けていけたらなと。そして絶対に奨学金を完済します。心から嫌だなって思うくらいの額があるので(笑)

贅沢をしたいわけでもないし、テレビスターになりたいわけでもないのですけど、教科書にはちょっとだけ載りたいし、都市伝説には絶対になりたい。何かしら、自分は一つの文化を作ったぞと言えるような活動をしたいです。

普段コントを作るとき、僕は日常からモノや状況、何らかの素材を見つけ出し、それをひたすら見つめて、考えて、動かして、こねくり回しています。これって実は、身の回りのものを一つずつ「面白いってことにする」営みなんじゃないかと思います。

今の持ちネタの数が300弱くらいなんですけど、広辞苑の収録語数分、25万語分コントを作りたいです!いや、10万ぐらいでもいいのかな。5万でもいいのかな。いや、いくつでもいいんですけど、それくらいまで行くと日常全てが面白くなると思うので。好きな単語を言ってくれたらそれにまつわるコントやります!って言えるぐらいにネタ数を増やしていきたいです。

そうだ!あと、お笑い版の「お化け屋敷のようなもの」を作りたいです!お化け屋敷って、お客さんがフィクションの中に入っていき、物語をそのまま体験できる、最強の表現ツールだと思うんです。

僕が普段やっているコントも、「日常とフィクションの境界を溶かす」というのがテーマの一つとしてある気がしていて。きっと、お化け屋敷のシステムと相性が良いように思うんです。本気で作りたくて、今は全国のお化け屋敷をひたすら巡っています。必ずいつか、お笑い版のお化け屋敷を作るので楽しみにしていてください。

Guest Profile 九月 / 芸人
ピン芸人。1992年、青森県出身。京都大学大学院在学中の2016年に芸人活動を始め、2019年よりピン芸人「九月」としての活動を開始。ギャラリーに2日間軟禁されコントを披露し続ける「48時間軟禁ライブ」など、精力的な活動を展開している。

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