見出し画像

「空間の再定義」が生まれ変わらせた、レトロなおばあちゃんの家 /スペースマーケット Host Story

年々深刻化している「空き家問題」。
2030年には、日本の空き家率は30%台にのぼるという予測もあります。

空き家になってしまう理由はさまざま。
住んでいた方が高齢となり転居してしまった場合や、亡くなったため遠方のご家族が相続した場合など、やむを得ず家を空けるケースは、枚挙にいとまがありません。

それぞれの事情から、建て替えやリフォームができず、誰かに貸すことも、解体することもできないまま、何年も経ってしまった「空き家」。

そんな空き家を「レンタルスペース」として再定義したことで、「住宅」のままではあり得なかった、新たな価値が生まれた例があります。

設備の古さは、撮影シーンでは「レトロ」に。
現代の生活にあまり馴染まない木造平屋建ては、ボードゲームで集まったゲストにとって「温かみを感じる空間」に。

今ではたくさんの人が集う、ユニークな場所へと生まれ変わった「元空き家」にお邪魔しました。

・・・

海外経験から思いついた、おばあちゃんちの「時間貸し」

京王線桜上水から徒歩で15分。
時折、畑が交じるのんびりとした雰囲気の住宅街を歩いていくと、立派な門構えの一軒家にたどり着きます。

今回訪ねた、今福(いまふく)さんのお宅です。

画像1


早速、家の中を案内してもらいました。

画像2

あ、この感じ。なんだかとても懐かしい。
庭の見える大きな窓と、床の間のある和室。

そうだ、うちのおじいちゃんちにどこか似ているかも。夏の暑い日もなぜか和室は涼しくて、おじいちゃんと昼寝をしたっけ。

画像3

わ、この台所もすてき。
ガラス戸のレトロな模様といい、隣室との間が小窓で区切られている内装といい、最近の住宅では、なかなかお目にかかれないデザインです。

画像4

そしてこのお風呂!
床や浴槽のタイル張りがとってもレトロでかわいらしい。なんといっても、浴槽の角がラウンドになっているところがたまりません。
いかにも昭和風のデザインですね。すてき。


画像5

こちらが、オーナーの今福さん。

Tシャツのイラストからもわかるように、今福さんの趣味はサーフィン。
今まで、オーストラリアやニュージーランド、南米など、海外に長期滞在して、どっぷりサーフィン中心の生活をしてきたのだそう。

日本家屋とサーファー、なんだか異色の組み合わせですね...?(ごめんなさい!)

今福「じつは、ここの家は、僕の祖母が1人で住んでいたものです。
4年前に祖母が亡くなって、そこから空き家になってしまいました。オーナーが僕の父なんですけれども、使い道が無いし、もうどうしようかって…」

小さい頃に遊びに来ていた「おばあちゃんち」。
夏休みには泊りがけで、庭にプールを出したり、バーベキューを楽しんだのだそう。

家族の憩いの場として、この家にはしっかりと思い出が刻まれているんですね。お家の、とくに好きなところはどこですか?

今福「やっぱり庭があるのが。前は植木屋さんが来てきれいにしてもらってたんですね。
おじいさんが――僕が2歳の時に亡くなったんですが、縁側があって、大きい窓から庭を見るのが好きだったと聞いています。
家を建てたとき、庭が見えるように、わざわざ窓を大きく作ったそうです」

画像6

祖父が好きだった庭。
祖母が大切に暮らしてきた家。

それでも、築年数が60年を越え、設備も古くなっていた状態で、「住居」として、次に誰かが住むという選択はなかった。

それならと、自分の海外生活から思いついた活用方法が「民泊」と「時間貸し」だった。

今福「ニュージーランドでは、Airbnbで民家に宿泊するということをずっとやってきたんです。それを思い出して、『まずはここを民泊で使ったら?自分が運営するよ』と、提案しました」

生活とスペース活用の両立のために選択した「運営代行」

「30代40代の方で、祖父母の家を相続した。でも自分でも住まないしどうしよう?そんな相談は、最近すごく増えていますね」と、森実(もりざね)さん。

森実さんの運営する株式会社クルトンは、シェアリングエコノミーを活用した、時間貸し運営代行サービスを展開。現在、この家の「時間貸し」に関する管理を担当している。

もともとご自分で運営するつもりだったところを、森実さんに業務委託したのはどういう理由だったんですか?

今福「やはり、旅に出るので、というところが大きいです。離れた場所にいても、スペースを活用できるようにしたいというのと、自分が移動していてもお金が入ってくるような仕組みを作りたいなと。

去年、僕は南米で9か月ほどのんびりしてたんですが、3月、新型コロナウイルスの流行を機に帰国して。そこから、この家を時間貸しできるように整えたり…。そんな時に、クルトンさんを知ったんです」

じつは、他の運営代行サービスにも、この家の時間貸し運営を相談していたという。ところが、建物のトイレが故障しており、修理しても条件が合わないということで、時間貸しをあきらめていたのだそう。

住居としては貸し出せない。
また、設備の古さから、レンタルスペースとしての用途も限られる。
では、クルトンさんが、この家の運営代行を受けたのはどうしてだったんですか?

画像9

森実「ここはレアなタイプなんです。そもそも都心で庭付き一軒家の相談って少ないんですよ。古民家を所有されている方は、その価値に気がつかず、何かに活用できるなんて思ってない方が多いんです。

僕らは、鎌倉の別荘だったり、ホテルや映画館、何でも一応お断りせずにお話は伺っています。

もちろん、運用できないスペースも中にはありますが、お受けする場合は、スペースの特性を生かした提案を心がけてます。
まずは『いかにトラブルのない貸し方ができるか』というところを、始めるときに考えるんですね。

たとえば、こういう閑静な住宅街にあると、パーティーでは、帰りのアプローチが絶対にうるさいと言われる(笑)
たぶんこのあたりって、昔から住んでいる由緒のある方が多いと思うので、オーナーさんも、ご近所問題を一番嫌がるだろうなと。

そこで、撮影とかワークスペースはどうですか?と考えます。
今福さんは、前に撮影用途での貸し出しをやってらしたと仰ったので、まず、その時のレビューを拝見して。レビューを見たら過去の問題点が出てくるじゃないですか。それで、ここは撮影でいけそうだと」

必ず、委託される前に、現地を見るという森実さん。
現地で建物を確認すると、カビや劣化などにより大規模工事が必要となり、活用を断念する場合もあるという。

幸い、この家は、今福さんたちの日々の手入れと、レンタルスペースの運営を視野に入れ開始していたトイレの修理により、とても状態がよく、スムーズに貸し出しできたのだそう。
今では、クルトンが管理しているスペースの中でも、5本の指に入るくらいに稼働しているという。

もともと、今福さんが想定していた利用用途と、実際の利用にギャップはありましたか?

画像8

今福「場所が駅から離れているので、正直なところ、最初は『お客さんくるのかなぁ…?』と心配していました。
でも、稼働していることはもちろん、実際の利用目的を見てみると、それはもう、まったくびっくりとしか(笑)

撮影とかは考えていたものの『こんなにコスプレイヤーがいるんだ!』とか。ほかにも『友だちとボードゲームをしたい』とか、思いもよらぬ使い方をされていて。
『こんな場所で、こんな使い方を!』と、驚くばかりでした。まさに、知らない世界でしたね」

森実「今までの予約を改めて見てみたのですが、こちらは、アニメ『刀剣乱舞』のコスプレイヤーさんがよく使ってますね。和の空間で撮影したいという要望が多いのと、ハウススタジオを借りるよりも安い。
コロナ禍にあっても、一軒家の物件であれば密を避けられるという点も人気です」

そのほかにも、都内の一軒家という立地条件から、「昔の昭和家屋で撮影したい」という理由で、テレビ撮影にもよく利用されている。
実際に、再現VTRにこの家が登場したときは、今福さんのご両親ともとても嬉しそうな様子だったのだそう。

何年も住む人がいなかった「おばあちゃんち」。
今や、さまざまな目的をもった、あらゆる世代の人が集まる場所になっているんですね。

空間を再定義する

森実「今の日本では、人口が減るに従い、住む人のいない空き家が増えていくのは間違いないんですね。

だけどこうやって、「住宅」では「築60年」がマイナスにしか評価されないものが、「レンタルスペース」というカテゴリーに入れてみると「この昭和風の感じがいいよね」と再評価される。

僕らのミッションは『空間を再定義する』とよく言っているんですが、住居として機能しなくなった建物も、別のラベリングをすれば、ちゃんと活用できるんです。
そういう意味で、増えていく遊休スペースを生かしていきたいというのは、いつも考えています」

画像9

空き家は持っているだけで負債になる」と考えるオーナーも多い。
クルトンでは、そんなオーナーからの相談を受け、空き物件を活かすさまざまな方法を提案してきた。

森実「たとえば、地方の物件の場合、都心から30分以上かかる立地では『利用してもらえないのでは』と考えるオーナーさまは多いです。たしかに撮影などでは稼働しにくいでしょう。

でも、地方ではカフェの席数が少ないので、今度は「会議室」の需要があります。
それと音を出せる場所。たとえば、管楽器の練習したいとか、ダンスで音を出して踊りたいとか、演劇の台本の読み合わせとかもありますね。
「音出し可」のスペースとして倉庫を貸し出してみたところ、十分稼働したというケースもあります。

貸し出してみると想定外の需要が出て、『この近く、こういう利用をしたい人たちがいるんだ』とわかる。その人たちに合わせて、じゃあ何か設備を入れようとかカスタマイズしていけばいい。

なので、賃貸か空き物件か、”100ゼロ”で考えている人には、『まずは貸し出しだけでもしませんか』というふうにおすすめしています」

今福「僕は、自給自足の生活をする『エコビレッジ』のような活動にずっと興味を持っていて。
じつはエコビレッジには、土地や建物の買い手がつかなかったような限界集落や廃村を活用して、村を復興したような場所があるんですね。

『空間の再定義』って、まさにその『村作り』と同じなのかなと思って。
方法を変えるだけで、場所の価値が変わって、またそこに人が集まってくる。それってすごく面白いですよね」

画像10

・・・

この日、取材の後にもロケハンの予約が。今度は何の撮影に使われるのかな、とわくわくする。
誰かの写真や映像の中で、この家はどんな新しい顔を見せてくれるんだろう。

建物の姿かたちは変わらなくても、「空間を再定義」することで、そこに集まる人が変わり、新たな価値やストーリがうまれる。

今福さんの一軒家は、そのことを現在進行で教えてくれている気がしました。

・・・

インタビュー:吉田由梨(スペースマーケット ホストコミュニティマネージャー)
文:山口優希(スペースマーケット カスタマーサクセス)