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【NIACプログラム】氷衛星の生態系を解き明かすEVEとは?

先日、以下のような記事を投稿しました。

NASAが将来の宇宙ミッションを支援するためのプログラムです。しかも、"今現在できる"ミッションではなく、ハードルはかなり高いが将来的には実現できそうというチャレンジングなミッションの初期検討に対してのプログラムなので、採択されているものはどれも斬新なアイディアばかりです。
その中で、今回は氷衛星であるエンケラドスを探査するプロジェクト「Enceladus Vent Explorer(EVE)」を紹介します。(ちなみにこれはNIACフェーズIIになります。)

Enceladus Vent Explorer

直訳すると「エンケラドス噴出口探査機」です。
概要はこちらに記載されています。以下で一部抜粋して解説します。

EVEの目的

Enceladus Vent Explorer (EVE) is a robotic mission to enter an Enceladus. Her mission objective is to collect samples of ocean water that could contain intact organisms (i.e., cells) to i) draw an unambiguous conclusion on the existence of life in the ocean of Enceladus and ii) should a positive result be obtained, characterize the life and ecosystem of Enceladus through biochemical, taxonomic, ethological, and ecological studies.
(EVEはエンケラドスの内部を探るロボッティックミッションである。このミッションの目的は、エンケラドスの内部海のサンプルを集め以下のことを解明する。i)エンケラドスの海における生命の存在に明確な結論を出す。ii) i)において生命がいる場合は、生化学、分類学、動物行動学、生態学などの学問を通して、エンケラドスの生命や生態系を特徴づける。)

エンケラドスとは土星の第2衛星で表面が氷に覆われている氷衛星です。このエンケラドスの内部にはH2Oの海が存在していることが示唆されており、その中に無人探査機を送りこみ、水のサンプルを現場観測することで生命のシグナルを検出します。また、生命がいるかいないかの調査にとどまらず、もし生命がいた場合にそれらの生態系の分類までも行おうという野心的なプロジェクトです。

EVEの概要

The EVE mission will send two types of modules: Surface Module (SM) and Descent Module (DM). SM is a lander that lands within a few hundred meters from the entrance of an erupting vent. After a successful landing, it deploys a single or multiple DMs. First, DMs move to a vent and descend into it. Then they perform in-situ science investigations in the vent using miniaturized instruments such as a microscopic imager and a microfluidics chip. Finally, it collects ocean water and/or ice particles in the vent and delivers them to instruments on the SM such as a mass spectrometer for detailed chemical analysis. 
(EVEは①地表探査モジュール(SM)、②地下探査モジュール(DM)の2つからなる。SMは噴出口から数百m以内に着陸するランダーである。着陸後、1つないしは複数のDMを展開する。DMは噴出口へ向かいその中へと潜入する。そこでDMは小型の観測機器を使って噴出孔内の現場観測を実施する。最終的に噴出孔内の水/氷粒子を採取し、SMに搭載された機器へと運び成分分析などを行う。)

上に書いたような手順でサンプル回収を行い、貴重な現場観測を実施します。
これまで氷衛星の内部海には生命がいるのではないかという議論は活発に行われていますが、その決定的な証拠をゲットできるかもしれません。

EVE実現のための研究

EVE実現のために行われている研究をPhaseごとに簡単に説明します。

Phase1

○噴出孔の状態分析
エンケラドスの噴出のシナリオに関して2つのモデルを作成します。
(boiling modelとcryovolcanic model)
噴出孔の幅噴出による動圧によってモデルを分けているらしい。(いまいちよくわかってません)

画像1

(引用元: https://www.youtube.com/watch?v=y98fXTJcTxo))

○DMのシステムデザイン検討

エンケラドスの噴出孔内を調査するDMのシステムデザインがどのようなものがいいのかを検討します。
DMは2次元に移動することが可能な設計とするため、フェース1では自由度5の足を4本取り付けることにしたようです。また、電源供給や通信のためにSMとDMをテザーで結ぶ仕様になっています。このデザインで実験、数値解析を行った結果、上記で示したboiling噴出シナリオであれば、現実可能であることがわかった。一方、cryovolcanic噴出シナリオの場合は、まだまだ検討の余地ありがあるようです。

Phase2

フェーズ2のタスクとしては以下の4つがあるようです。(ここは私の勉強不足でいまいちわかっていませんので、あまり信頼せず下に貼ってあるYoutubeを確認していただければなと思います。)

① Phase1で行った噴出孔のモデル(特にcryovolcanic model)の改良
② 各噴出孔モデルに対してDMのシステムデザインを検討(sublimination anchor やsnakebotなどの新概念の導入などを検討)
③マルチロボットシステムや地下探査での自動化に関するソフトウェア開発
④2つの噴出孔モデルに対してトレードオフを検討

最後に

このワクワクするプロジェクトのPI(研究主宰者)を務めているのが、NASA/JPLの小野雅裕さんです。小野さんがEVEについて解説した動画もありますので下に貼っておきます。英語ではありますが、画像付きだとかなりわかりやすいです。

土星の衛星エンセラダスの地下に存在する海のサンプルを調査することで、どんな発見があるでしょうね?地球外生命が存在したというだけではなく、そこには繁栄した生態系が存在するかもしれません。そして、それらを調べることによって、地球生命の起源の理解、ひいては生命とは何かに対する新たな知見が得られるかもしれませんね。本当にワクワクします。
そして外から見てワクワクするだけでなく、研究者として私もそのレベルになりたいなと改めて思いました。

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