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『メディアと自殺:研究・理論・政策の国際的視点』出版されました

師匠の太刀川弘和先生とともに監訳した『メディアと自殺:研究・理論・政策の国際的視点』(トーマス ニーダークローテンターラー ・スティーブン スタック 編著)が、2023年8月10日に人文書院より発売となりました。

メディアの自殺報道はどうあるべきか
世界的な自殺研究者たちが、多様なメディアが自殺に与える影響について、歴史的分析からウェルテル効果やパパゲーノ効果などの理論的分析、各国の政策などを紹介。ソーシャルメディアとどのように付き合うか、ネットいじめの影響、集団自殺や拡大自殺の報道についても最新の知見を示し、回復への道筋も探る。メディアと自殺の関係を問う最先端研究論集。

人文書院 紹介ページより

メディアと自殺といえば、紹介にもあるように「ウェルテル効果」が知られています。これは自殺の報道によって自殺者数が増加する現象のことを指します。日本でもマスメディア(特に新聞やテレビ報道)を対象にウェルテル効果をテーマとした研究が多くなされ、報じられる内容や量、報じ方などの報道の要素と、増加する自殺との関係が明らかにされてきました。つまり、主に「自殺報道」の研究に焦点が当てられてきた、といえます。

他方、本書はメディアと自殺の関係をより広範囲に、より多角的に捉えた研究論集となっています。

本書が扱う内容のイメージ(公式ではありません)

例えば5章は、ネットいじめの被害経験が青少年の自殺念慮・企図に与える影響を、6章は自死遺族がどのようにFacebookを活用しているのかを調べた研究で、自殺報道の研究とは、研究の問いもアプローチも異なります。
ある種のメディアで自殺がどのように描かれているか(例えばジェンダーの視点で)、という問いの研究を取り上げれば、新聞記事、映画、絵画や彫刻、歌舞伎など多様なメディアが登場します。
このように、視野を広げてメディアと自殺の関係を捉えることができるのが本書の特長といえます。

赤字だらけの校正原稿

また、私が本書を読んで特に興味深いと思ったのが、メディア関係者と研究者・専門家の協働のあり方について書かれた『Ⅲ自殺対策』の各章です。日本では、メディア各社と専門家はまだあまり協働的な関係を構築できておらず、自殺報道に対して専門家がメディアに訴えかけるというアプローチが印象的です。しかし、本来的に協働のタイミングは報道後ではなく、報道前やジャーナリストの養成段階から重要であることが理解できます。

ソーシャルメディアで誰もが発信できるようになった現代、だれもがメディア関係者ですので、自殺について初めて学ぶ人には少し難しい内容・言葉もあると思うのですが、ぜひ多くの人に読んでいただきたいと思います。さまざまな研究方法や先行研究が登場するので、自殺について研究したい学生さんにも役立つと思います。私も本書をきっかけに、メディア関係者との協働に関する研究を新しく始めました。
そのうち勉強会なども開催できたらよいなあと思っております。

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