おかえり
異国の地にわたしはいる
ナイフとフォークでご飯を食べる
初対面の人と頬にキスをしあう
春にお庭に咲くのはシロツメクサではなくてマーガレット
お線香や柔軟剤の香りではなくて香水の香りがする
その二つの違いを楽しむことが本当に好き
*
だけどやっぱり
とてもとても寂しくなる時がある
体調が悪い時、なんだか何もかもがうまくいかない時、傷ついた時
だけではなく
ふっとした時に
食べたい
見たい
嗅ぎたい
聞きたい
と強く思うのは
ふるさとの慣れ親しんだものたちなのである
炊飯器を開けた時の炊き立てのご飯の香り
お母さんが作ってくれるお粥
もう数えきれないほど見たジブリの映画たち
季節の変わり目を知らせる優しい香りたち
いただきますやただいま、おかえり、いってらっしゃいの声
魚の煮物に、卵かけご飯、お味噌汁に、おばあちゃんが買ってきた酸っぱい漬物たち
きっとどんなにこちらの生活に慣れようとも
現地の人々のようにこの街に詳しくなったとしても
ずっときっと
わたしが求めるものは変わらないのだと思う
日本語の響きでさえもとてもいとおしく感じる
そしてこんなふうに誰かを何かを
恋しく思えるほど
今まで出会ってきた人やものに愛をはぐ汲まれてきた
なんて有り難く、哀しく、美しいのだろう
ふるさとが心の中にあるということ
それがどれだけ幸せでかけがえのないものなのか分かった気がする
*
わたしがただいまというと
おかえりと返してくれる声がする
いつでもわたしを待っていてくれている
なんて
なんて
幸せなの
20.Fed.2024
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