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【超短編小説】ハルロマーンの日常

 ハルロマーンは春生まれである。のんびり屋で不思議なところがある。でも人間なんてみんな不思議なもんだ。

 ハルロマーンは散歩するのが好きだ。年中散歩に勤しむけれども、暑い季節は涼しい風が吹く夕方に出掛けることが多かった。でも今日は何となく真っ昼間に歩きたくなった。

 お気に入りの肩掛け紐付きの水筒に、氷をカランコロン、数粒入れる。昨夜シュンシュンに沸かした麦茶はもうやかんの中で冷めている。それをたっぷり注いで蓋をしっかり閉めたら、準備完了。粗目の麦わら帽子を目深に被って、いざ家の外へ。

 日差しがジリジリ。熱気がむわッと。今日はなんて暑い日だ。一気に日焼けしそうだ。
こんな日は冷房の効いたお部屋で漫画でも読んでいるのが極楽なのだが、活発な太陽の下、汗をだらだら流しながら歩くのもやみつきになる快楽がある。

 少し歩くと近所のお気に入りスポットについた。住宅街の小さな一角に、これまた小さな祠が建っている。そこには一本の細く背の高い木がつっ立っていて、二人分ほどのベンチに涼しい影を落としてくれる。ハルロマーンはベンチに腰掛けてずっしりと重い水筒を膝の上に置き、お茶をごくごく飲んだ。ぷはーっ。少し歩いただけなのに、もう汗が頬を伝う。

 一休みして暑さが和らぐと、木の葉を一枚一枚、じっくりと見る余裕ができた。緑が濃くてつやつやしている。海老のようにぷりっと張りがあって、元気いっぱいな植物のエネルギーが放たれているのを感じた。ああ、夏が来たんだな。ハルロマーンはしみじみとして、またゆっくりと散歩の続きを始めた。

2021年6月28日 カーナ 作