新しいことするの、もうやめない?
課長はそう言って微笑んだ。口は微笑んでいるが、目は悲しそうだった。言い方はおどけていたが、その氷山の下には深い悲しみや無念がありそうだった。
組織論やチームビルディングについてはいろいろと語られているが、人と人の組み合わせはケースバイケースだし、正解や王道なんてない。
何かを新しく始めたり、ルールを変えたりすると前の方が良かったと言う人が20%くらいは現れる。そもそも組織やチームにほとんどコミットせず我が道を進む人も少なくない。
「たとえばさ、このカレーも、何十年もレシピを変えてないから、長く多く愛されてるんじゃないかな?」
課長はそんなことを言いながら、スプーンを口に運んだ。さっきまでカレーを温めていたインド出身(もしかしたらパキスタンやネパールかも。スリランカではない)の料理人が課長の顔をじっと見つめていた。
お店を出てから課長に言った。
「さっき、シェフがなにか言いたそうでしたよ」
「え?マジで?」
「たぶん、、、ワタシタチのカレー、変わり続けてる。ちゃんとグレードアップしてるし、お米もチキンも季節や天候によって変えてるよ!だと思います」
「そうかー。あそこのカレーいつ食べてもうまいし飽きないもんなー。見習いたいね」
語尾、ね、なんだ、と思った。いい意味で、ね。