草の子

「夜分遅くにすみません……」
戸を叩く音を聞いて玄関を開けると、齢にして16、7くらいの少女が立っていた。
「一晩泊めていただけませんか」
ダメすぎる。
「お願いします。訳あって宿賃も無く、見知らぬ土地で頼れる人もいないのです……」
とりあえず中に入ってもらった。
「ありがとうございます。お礼は必ずしますので」
「いや、それはいいんですけど、ここマンションの最上階ですよ」
まさか下の階から順番に頼んでいったのだろうか。
「壁は高いほど、乗り越えた時成長出来るかと思って……」
言ってる場合か。
「2cm成長できました」
怖……黙って部屋を貸して、朝が来たらすぐ帰ってもらおう。
「じゃあこっちの部屋を使ってください」
「ありがとうございます。部屋を貸してもらってこんなことを言うのも厚かましいかもしれませんが、私がいる間は絶対に部屋を覗かないでくださいね」
そんなこんなで一応落ち着いて、眠りに落ちた頃……
彼女がいる部屋から物音が聞こえてきた。
覗くなと言われたが、注意くらいはしてもいいか……
「ブンブンハローYouTube」
え、嘘!?
思わず引き戸を開けてしまった。
そこには、カメラの前でホットサンドメーカーのレビューをしている彼女の姿が。
「見てしまいましたね……この動画の収益で今夜の宿代を返そうと思っていたのですが」
「あなたは一体なにものなんですか」
僕が聞くと、彼女は少し目を伏せて語り出した。
「私は、先日野草ハンターに摘まれそうなところを助けていただいた、草です」
草!
「草です」
めっちゃウケてる人みたいになっちゃった。
「じゃあさっき2cm成長したのも」
「草なので……」
なるほどね!
「もしかしてチャンネル登録者も」
「93(くさ)万人です」
めちゃくちゃいる……
「……あれ?」
「どうしました」
「さっき撮った動画を見返していたら、押し入れから顔が覗いてて……」
「ほんとだ。この顔どこかで……」
僕達がその顔に気づいた瞬間、マンション全体がガタガタと大きく連れ出した。
「これはマズい!はやく逃げましょう!」
「は、はい」


結局、マンションは全壊し、世間ではこの事故は迷宮入りとなってしまいました。
あの顔は、餓死した野草ハンターの怨霊だったのでしょうか……

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