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不在の記録

僕がフィルム写真を始めたきっかけの、側から見れば別段面白くもない話です。
一言で言えば、大学卒業後に進学した東京のデザイン専門学校で僕はある女性と恋に落ちたことが始まりなんだけれど、興味がある人はもう少し読んでくれると嬉しい。もしかしたら、これは対岸の火事ではなく、あなたにもこれから起こりうる話だから。
あと...ここでは便宜的に「恋人」と呼ばせてもらうけれど、僕らの恋愛関係はもうだいぶまえに解消されている。

先にも書いたように、僕は京都の大学を卒業してから東京の専門学校はと進学し、3年間デザインの勉強をすることになった。
そこで、ある女性と知り合うこととなって、僕らは恋人関係になった。
学校の課題をこなしながら、僕らはいろんな場所へ出かけた。
あえて言う必要もないのだけれど、僕らには「デザインが好き」という共通項があったから、デザイナーの展示や美術展など...お互いが行きたい場所へ誘い合い、たくさんデートをした。

ある時、恋人から「共通の趣味を持ちたい」と言われた。
なんとなく分かるかと思うけれど、これがフィルム写真だった。
ただ、その時の僕はデジタルカメラで写真をなんとなく撮ることはできても、カメラのことなどさっぱり分からなくて、正直気が進まなかった。
それでも思い返してみると、僕らはたくさんデートを重ねたにも関わらず、その記録は殆ど無かった。今思い返すと非常に残念なことにね。
だから、思い切って始めてみたってわけだけれど、もちろんどのカメラが良いのかも分からなかった(それは今も変わってないけれど)。
だから...と言ったら良いのか分からないけれど、「大好きな写真家の川内倫子さんがRolleiflexと言うカメラを使っているらしい...」というざっくりとした情報だけでRolleiflex SL35というカメラを買った。
後々に分かったことだけれど、川内倫子さんは二眼カメラで僕は一眼で...それすら合ってないほどにカメラの知識は乏しかった。

それから、僕はお金と時間が許す限り、たくさんの写真を撮るようになった。もちろん恋人の写真も数多く撮った。

浜松町

専門学校を卒業して程なくすると、僕らの恋人関係は解消された。
そこで写真を止めることもできた。というか、そうすべきだったのかも知れないけれど、僕はそれからも写真を撮り続けた。
恋人と行った場所を一人で歩き回り、同じようなアングルで写真を撮った。
この記事のタイトルにもしたけれど、彼女の「不在」を記録し続けた。

東高円寺

「彼女にもう一度会えるかも知れない。」なんて思っていたわけではないし、むしろこんなところにいても絶対に会うことなんてないと分かっていた。
ただ、その「不在の記録」を続けることで、僕は彼女に何かを伝えることができるかも知れない...とは思っているのかも知れない。
「君と一緒に行ったあのギャラリー、今は建物ごと壊されちゃったんだよ」とか
「帰り道に一緒に撫でた猫、最近見かけないんだ」
とかつまらないことばかりだけれど。

きな粉

過去に撮った写真と、今の写真を並べることで、僕は擬似的にタイムリープできている気がしてしまうし、それはあながち間違っていないと思うんだよね。
だからね...ってわけじゃないんだけど、こんな私的で退屈な話をここまで読んでくれた人たちにも、写真を撮ることを勧めたい。
フィルム写真じゃなくたって、わざわざカメラを新しく買わなくたって、スマホについてるカメラで良いんだよ。
どんな有名な写真家であろうと、あなた以上にあなたの恋人の魅力的な瞬間を撮ることはできないんだよ。
きっとたくさんあると思うよ。それを沢山残しておいて?
もし、その恋人と上手くいかないことがあっても、写真はきっとあなた達を、どんな形であれまた結びつけてくれる。

だいぶ、僕はその「不在の記録」に取り憑かれた日々から抜け出して、今も一人でいろんなことを記録し続けている。
今まで避けがちだった家族のことも。
そして、今まで以上に写真というメディアの持つ力を信じている。
居なくなった後でさえ、あなたがくれたきっかけが、今の僕に道を繋いでくれたんだから。

阿佐ヶ谷

#日記 #写真 #エッセイ #フォトエッセイ  


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