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「多様性というものをどれくらい受け入れられるか。ともに生きよう。~『丸天井の下の「ワーオ!」~』【YA⑱】

『丸天井の下の「ワーオ!」』今井恭子 著 (くもん出版)
                          2015.8.20読了

古い建物の中にある博物館。
中央には高い丸天井があります。
以前ならその真下には、ヒグマの剥製が今にも飛びかからんばかりの二足立ちで、ずう~っと立っていました。
しかし今は近隣の学校代表の、入賞工作の作品群が並んでいます。
 
その中のひとつに、古びた感じに仕上げた頭蓋骨が置かれています。
小学六年生の女の子が作ったとは、全く驚きです。
しかしながら今、彼女はその受賞した喜びとは正反対に、その展示に怒っています。
まるで、ヒグマのごとく仁王立ちをして。
先生が勝手に作品コメントを書き換えているからです。
 
人類の最初の女性、旧約聖書のイヴの頭蓋骨を想像して作った作品…みたいなことを書いているのです。
 
違う!全く違う!!
 
その作者の少女・マホが表現したのは、太古にまで遡り自然人類学的に最古と言われている、今の人間の母とも言うべき女性の“ミトコンドリア・イヴ”なのです。
 
マホのおじいちゃんは、大学で自然人類学を研究しています。
そのおかげで、マホはおじいちゃんから様々な考古学的なはなしを聞いては、想像力をはたらかせていました。
 
そうして溢れ出てくる言葉で、いろんなお話を作ることも大好きです。
 
そんなマホは、その博物館で出会った中学生の男の子・正樹と話をするうちに、独自の物語を正樹に語ってあげるという思わぬ展開にはまってしまいます。
 
独創的な物語を聞くうちに、彼女の中に素晴らしい才能の可能性をみる正樹。
 
「小説家になるんだろ?なってみなよ!」
 
そう正樹に言われ、絶句するマホ。
…実は彼女には、あまり他人に言いたくない秘密があったのです…。
 
 
 
“ミトコンドリア・イヴ”、“ディスレクシア”…普段耳慣れない言葉が出てきますが、れっきとした児童書です。
 
後者は、いわゆる学習障害のこと。読み書きが通常よりも上手くいかないけど、それ以外はいたって健常。
他方面で、素晴らしい能力を発揮することも稀ではないという特徴もあるようです。
 
しかしながら、本人にとっては相当なコンプレックスです。
周囲の身近な親族でさえ、本人にかなり気を使うのが現状のようです。
 
でもこの本では、ディスレクシアの人たちもそれ以外の人も成長とともに思春期を迎え、まだ何者にもなっていない自分に不安と悩みしか持てない多くの子どもたちに、また違った希望と勇気をもたらしてくれるのではないでしょうか。
(正樹の方も、また彼なりの悩みを抱えていました)
 
夏休みの読み物としては、いろいろ考える時間をもてるし、いい素材となるのでは?
ぜひ多くの人たちに読んで欲しい1冊です。


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