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「あなたも私も苦しい、その心を分かち合う~『トリガー』~」【YA㊶】

『トリガー』 いとう みく 著 (ポプラ社)
                                                                                                   2019.4.4読了
 
中学生の音羽(とわ)は親友の亜沙見(あさみ)の様子がどことなくいつもと違っていることに気がついていました。
でも気がつかないふりをしていたのです。
これまでも、自分はいつもそうでした。小学生のころ仲の良かった子にひどい仕打ちをした記憶が蘇り、後悔にさいなまれるのです。
もうあまり深く友だちとはかかわらないことにしようと、つい考えてしまうのでした。
 
「亜沙見がいなくなった」
と、亜沙見の母親から切羽詰まった様子で電話がかかってきたのは、「なんだか彼女の様子が違う…」と音羽が気づいた日の夜でした。
 
「音羽ちゃんなら知っているでしょ?どこに行ったのか!?」
亜沙見の母親から問い詰められますが、どこか深入りしたくない自分がいて上手く答えられなくて、でもそんな自分が嫌だったのも事実でした。
 
学校には具合が悪いという理由で欠席扱いの亜沙見ですが、陰で彼女のことを探す音羽は、後悔と焦りにも似た何かに突き動かされていました。

そんな時クラスでひときわ浮いているひとりの女の子に、亜沙見を見かけたという情報を得ます。
それまでその女の子のことをきちんと知ろうとせず、見た目だけで敬遠していた自分でしたが、亜沙見の情報を思わず聞き出します。
でもそのことに、自分が妙に調子がよく卑怯な気がしてしまいました。
 
これまで親友なのに深く接することを避けてきた音羽は、今回初めて亜沙見の秘密に関わることによって、そんな周りの身近な人々の知らなかった側面があることを知るのです。
 
自己中心的な自分と決別するとともに、そのときから亜沙見の思いがけない出生の秘密を知るのですが、そこに自分で関わっていきそして寄り添い、亜沙見の苦悩を一緒に分かち合うことで、新たな世界を見ようとします。
 
亜沙見の秘密はそんじょそこらに転がっているものではありませんが、似たような境遇はけっこうあるのかもしれません。ふたりにとってはあまりに重くのしかかっている現実に、押しつぶされ、彼女たちだけで簡単に解決できる問題ではないようですし、十数年しか生きていない彼女たちには到底無理な話です。
でも逃げないことを選んだふたり。
 
そしてまた小学生のとき音羽が幼いゆえに犯した、仲良しだった女の子に対する仕打ちは、身に覚えがある人も少なからずいるでしょう。
二人の女の子は、ひっかかって抜けそうで抜けない棘のような心の傷から逃げずに、真正面から向き合う覚悟を決めたところから、大人への一歩を踏み出すのです。
 
この年頃の子どもたちは、友だちと仲良く付き合っているように見えても、自分の内面は簡単に見せたくないのだと思います。だれに相談することもなくひとりで苦しみを抱え、思いつめることが多いです。
その悩みの度合いが深ければ深いほど、親しいと思っていた友人にも言えない子どもたちをどうやって救い出せるのでしょうか。
 
同じように心に悩みを抱えているすべての思春期にある子どもたちの支えとなってくれる本かもしれません。

 


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