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「一度は泊まってみたい!それは素敵な物の宝箱・デパートですよね?~『魔法があるなら』~」【YA㊴】

『魔法があるなら』 アレックス・シアラー 作 野津 智子 訳 
(PHP研究所)
                          2005.9.29読了
 
今回ご紹介する本も、『ミッシング~森に消えたジョナ』と同じ作者、アレックス・シアラーの作品です。
その本の紹介でも書いたように、脚本家ならではの作品の構成が素晴らしく読者をどんどん引き込んでいく力があって自然に読み進められる物語でした。
 

ちょっぴり貧しい家庭の女の子・リビーは、母親のいつもの病気、”ジプシーが心に住んでいる”病のせいで、ある日街で有名な豪華で大きくとってもステキなデパート・スコットレーズに、違法にですがこっそり住むことになってしまいました。
 
少し能天気であまり心配などしたことのない“ケ・セラ・セラ”な母と幼い妹のアンジェリーンは、リビーの気がおかしくなりそうなほどの心配をよそに、スコットレーズでの暮らしを思う存分楽しんでいるかのようです。
食べ物は地下の食品売り場にたっぷりあります。(←窃盗です(*_*;)
ベッドはふかふかの新品です。(そもそも不法侵入罪!)
 
でもこの親子にはある理由で行くところがなかったのです。
だからリビーは新しい家が見つかるまでの、ほんの2日ばかりの辛抱なのだと言い聞かせるように、どうにかスコットレーズでの暮らしに自分もなじむしかないと思い込もうとします。
 
ヒヤヒヤしながらも監視人や掃除人たちの目をかいくぐって、意外に快適に近い暮らしが何日もできることに驚きながら、しかしいまだ不安な気持ちを抱かずにはいられないリビー。(当たり前な普通の気持ちですね)
 
いつ見つかるとも知れない不安。
それは見つかったときには警察に捕まるということもさることながら、親子が離れ離れになるかもしれない不安もあったのです。
 
そしてすべてが順調にいっていると思ったのもつかの間、なにやら怪しい人物「ミスターミステリアス」と、厳しい目をした店のドアマン「口ひげさん」の、昼間買い物客のふりをしている自分たちを見る目が気になりだします。そして事件は突然やってきたのです…。

 
物語は、すでにつかまって警察の取調室でのリビーの取調べから始まります。そうです、冒頭から読者は結果を知らされているのです。
それでも、リビーの語るお話のおおかたを覆うめちゃくちゃ不安な気持ちを、読者はずしんと感じてしまうので、けっこう順調にはこんでいるようにみえるスコットレーズでの暮らしぶりの中にも、ばれてしまう恐怖が付きまとって仕方がありません。
 
でも後半からはある事件のせいでスピーディに展開していくのと、思わぬ結末になんだかすごくドキドキ・ワクワクしてしまいます。親子の行為の結果がわかっているのにかかわらずハラハラさせられて、尚且つ冒頭では知りえなかったサプライズも用意されているなんて、なんて読者を満足させてくれる作者なんでしょう。
 
本当に“魔法があるなら”、こんなおとぎ話のようなことも叶うかもしれないなと思ってしまいます。
一度は「世界一ステキなデパート(原題”The Greatest Store in the World")」に住んでみたいな(実際には絶対ムリですよ)と思えるあったかい結末でした。

 



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