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「魔法を使えるようになるけど、いずれ確実に死ぬよ…って知ったらどうする?~『クラバート』~」【YA㉞】

『クラバート』 オトフリート・プロイスラー 作 中村浩三 訳(偕成社)
                                                                                                 2006.11.6読了
 
著者のプロイスラ―は、『大どろぼうホッツェンプロッツ』にに代表される数々の児童書で有名な作家です。
 
ドイツ・チェコにまたがるボヘミア地方からラウジッツにかけて、古くから伝わる昔話『クラバート伝説』にいたく感動した少年時代のプロイスラーが、ぜひとも自分のクラバート伝説を書きたいと願いながら、試行錯誤し長きに渡る執筆作業後、やっと完成した物語とのこと。

 
孤児のクラバートは他に2人の少年と物乞いをしながら暮らしていました。
ある日夢の中で11羽のカラスが木に止まっていて自分を見ていると、「シュヴァルツコルムの水車場へ来い」というカラスの声を聞きます。
 
その言葉どおりにコーゼル湿地の中にある、誰も人が寄り付かないという水車場へたどりついたクラバートは、奇妙な親方と11人のほかの弟子たちとともに、水車場の粉挽きの仕事を始めます。
 
孤児時代よりも食べ物も食べられてちゃんとしたベッドに寝ることができて、うんといい暮らしができるのだから、ちょっとくらいのきつい仕事でも耐えて働くクラバートでした。
 
そのうち、ここでは変わった習慣があるのと魔法に関する勉強をするのだということを知りました。
しかし他にも恐ろしいしきたりがあることに気づいたクラバート。
 
毎年必ず11人のうちの誰かが、奇妙な死をとげるのでした。
 
実は親方はある人物に脅かされ、自分の代わりの犠牲者を選んでいたのです。
 
また、いったん自分のところにおびき寄せた弟子は決して自由にしませんでした。
あるひとりの村娘を好きになったクラバートは、この親方のおかしな習慣としきたりから逃れ、魔法よりも自由に生きていくことを選び、親方と決死の対決を挑む決心をしたのでした…。
 


東ヨーロッパの暗く寒い感じのする物語で、正義感と賢さと勇気にあふれるクラバートが出会った、不思議な人たちとの生活。
 
何でも操れる魔法が使えるけれども死と隣り合わせの暮らしより、好きな女性との自由で平穏な暮らしを望んだクラバートは、読むものに愛とは?自由とは?と問い続け、この世で一番確かなものは何かを教えてくれているようです。


本国で出版された当時、数々の児童書向けの文学賞を受賞している今作ですが、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』制作のヒントのひとつにもなったと言われています。
私はそのことを知らなかったので、そういわれればそうかな?とも思えますが、読んでいた当時は意識せずに読んでいましたし、この作品独自の魅力的な物語として素晴らしい作品だと思います。


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