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荀子 巻第二十哀公篇第三十一 4 #2

前回は、哀公が、自分は深宮で生まれ育ったため、哀しむ・憂う・苦労する・恐れる・危ないという気持ちが分からないと言い、その説明を孔子に求め、孔子が、哀しい気持ちを推し量る事例を挙げました。
続きです。

君、昧爽まいそうにして櫛冠し、平明にしてちょうを聴くとき、一物も応ぜざるは乱のはじめなり。君此れを以て憂を思わば、則ち憂んぞく至らざらん。君、平明にして朝を聴き日かたむきて退くとき、諸侯の子孫に必ず君の末庭に在る者あり。君此れを以て労を思わば、則ち労た焉んぞく至らざらん。君、魯の四門を出でて魯の四郊を望むとき、亡国の虚列必ず数がいあり。君此れを以て懼を思わば、則ち懼た焉んぞく至らざらん。且つ、丘きこれを聞けり。君なる者は舟にして、庶人なる者は水なり。水は則ち舟を載せ、水は則ち舟をくつがえすと。君此れを以て危を思わば、則ち危た焉んぞく至らざらんと。

(金谷治訳注「荀子」岩波書店、1962年)

昧爽→夜明け。早朝。未明。
平明→②夜明け。明け方。
一物→①一つの品物。また、ほんの少しのもの。
昃→かたむく。日が西にかたむく。
応→④したがう。⑤かなう。適合する。あてはまる。
諸侯の~末庭に在る→(注より)楊注によると、本国から逃れ亡命してきて魯に仕えている者だという。
郊→はら。のら。田野。
亡国→②ほろびた国。また、国がほろびること。
廃→⑩あと。昔、住居などのあった跡。しろあと。故跡。廃墟。
列→たくさんの。多くの。多数の。
数→いくらか。いくつかの。
蓋→⑬けだし。(ウ)たいてい。思うに。考えてみるのに。推量の意を表す語。
懼→おそれる。おそれてびくびくする。
拙訳です。
『「君が、未明に櫛を差し冠をかぶって、明け方に朝廷で政治をとるとき、少しでも従わないことがあればそれは乱の端緒です。このことから君が憂についてお考えになれば、どうして憂う気持ちに至らないことがあるでしょうか。君が、明け方に朝廷で政治をとり、日が西に傾いて退廷されるとき、亡命してきた諸侯の子孫が必ず朝廷の端にいます。このことから君が苦労についてお考えになれば、どうして苦労する気持ちに至らないことがあるでしょうか。君が、魯国の四つの門を出て、四つの野原を遠望なさったとき、必ず多くの城跡のうちのいくつかを見るでしょう。このことから君が恐れについてお考えになれば、どうして恐れる気持ちに至らないことがあるでしょうか。また私(=丘)はこう聞いています「君主と言うものは舟であり、民衆というものは水である。水は舟を浮かべもし、水は舟を転覆もさせる。」と。このことから君が危についてお考えになれば、どうして危うさという気持ちに至らないことがあるでしょうか。」と。』

哀しむ・憂う・苦労する・恐れる・危ないという気持ちが分からないという哀公に、孔子は一つ一つこれらの気持ちに至る材料を提供しています。
ご先祖様の器物を見て今は亡きご先祖様を思えば哀しく、朝廷の場で従わない兆候があれば憂い、朝廷の場にいる亡命貴族を見れば苦労を思い、郊外の廃墟を見れば恐れを感じ、民衆の力を知って危うさを知ることができます。
ただ見るだけではなく、そこから発想を飛ばして哀しみや、憂い、苦労を慮り、恐れ、危うさを感じなさいと教えてくれています。何事にも心を動かすことですね。

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