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荀子 巻第八君道篇第十二 7 その5

故に明主は人に私するに金石珠玉を以てすること有りとも、人に私するに官職事業を以てすること無し。これ何ぞや。曰わく、もとよれ私する所に不利なればなり。彼れの不能なるに而も主のこれを使わば則ち是れ主のくら(愚)きなり。臣の不能なるに而も能をうなれば則ち是れ臣のいつわりなり。主は上に闇く臣は下に詐なれば、滅亡に日なく倶に害するの道なり。

(「荀子」岩波文庫 金谷治訳注)

私する→①公のものを自分のもののように扱う。私物化する。また、ひとりじめする。②身勝手に振る舞う。
誣→しいる。あざむく。そしる。ありもしないことを事実のように言う。
害する→傷つける。損なう。
拙訳です。
『明君主は自分だけの判断で金石や珠玉の宝物を人に与えることはあるが、勝手に官職や事業をあてがうことは無い。これはどうしてか。答えて言う、勝手に官職や事業にあてがうことが利益にならないからである。能力がないのにその人を使うのは君主の愚かさにある。臣に能力がないのに能があるように見せるのは臣の虚偽である。上にある君主が愚かで下にある臣が虚偽であれば、すぐに滅亡し、共に損なう道である。』

夫れ文王は貴戚なきに非ず子弟なきに非ず便嬖なきに非ざるも、てき(超)ぜんとして乃ち太公を州(舟)人より挙げてこれを用いたり、豈にこれに私せんや。以て親[戚]なりと為さんか。即ち周は姓にして彼れはきょう姓なり。以てきゅう]と為さんか。則ち未だ嘗て相い識らざるなり。以て好麗と為さんか。則ちの人は行年七十有二にして齳然ぐんぜんとして両歯ちたり。

(同)

貴戚→高貴な人の親戚。または、貴族。
便嬖べんべい→②主君などに寵愛されること。
超然→物事にこだわらず、平然としているさま。世俗に関与しないさま。
舟人→①舟子。舟子→船頭。水夫。②(イ)舟に乗り合わせている人。
故→②もと。もともと。もとから知っている。
好麗→うるわしくよい。立派。
行年→これまで生きてきた年数。
齳→歯が抜けてなくなること。歳をとって歯が抜け落ちるさま。また、生まれて間もなく歯が生え揃っていないさま。
拙訳です。
『周王朝の文王には親戚がいなかったわけでなく、子弟がいなかったわけでなく、寵愛している臣がいなかったわけでもないのに、彼らにこだわらず舟に乗り合わせていた太公望をとりたてて用いた。このことは身勝手な行動ではないのか。太公望が親戚であったからか。文王の姓は姫で太公望の姓は姜で親戚ではない。元々知っていたからか。それまでお互いを知らなかった。麗しくて見た目が良かったからか。太公望の年齢は七十二才で歯は抜け落ちていた。』

私することを戒めて、君主は勝手に人を採用するのは良くないとしています。無能な人を用いるのは不利益でしかないためです。
その後に、周王朝の文王が太公望を採用したことが例示されます。この採用は私するものではなかったのか。親戚でもないし、古い付き合いがあったわけでもなく、カッコ良かったわけでもないのに文王は太公望を採用しました。そしてどうなったか。
続きは次回です。


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