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荀子 巻第二十法行篇第三十 4

子貢、孔子に問いて曰わく、君子の玉を貴びてびんを賤しむ所以の者は何ぞや。の玉の少なくして珉の多きが為めかと。孔子曰わく、ああよ。是れ何の言ぞや。の君子は、豈に多ければとてこれを賤しみ、少なければとてこれを貴ばんや。れ玉なる者は君子は徳に比ぶ。温潤にしてつやあるは仁なり。縝栗しんりつにして理あるは知なり。堅剛にして屈せざるは義なり。廉にしてそこなわざるは行なり。折れてたわまざるは勇なり。瑕適きずの竝びあらわるるはまことなり。これをたたけば其の声清揚して遠く聞こえ、其のむや輟然てつぜんたるは辞なり。故に珉の雕雕ちょうちょうたるものありと雖も、玉の章章たるにかず。詩に、君子をおもえば、温として玉の如し、と曰えるは此れを謂うなり。

(金谷治訳注「荀子」岩波書店、1962年)

玉→たま。宝石。美しいたま。
珉→玉に似た美しい石。
悪→🈪③ああ。嘆息の辞。
温潤→おだやかでうるおいのあるさま。 あたたかでつややかなさま。
沢→つや。かがやき。ひかり。つやつやしい。つやがある。
縝栗→こまかでかたい。綿密で堅固。
理→ことわり。みち。物事のすじみち。道義。
堅剛→①堅いこと。②意志が強くて何事にも屈しないこと。 また、そのさま。
廉→いさぎよい。行いが正しい。心が清い。
劌→そこなう。傷つける。
撓→くじける。くじく。勢いを断って弱らせる。また、勢いがそがれる。
瑕適→玉のきず。転じて、きず。欠点。
竝→ならぶ。ならべる。立ちならぶ。
扣→たたく。うつ。こつこつとたたく。=叩
声→こえ。音。動物の鳴きごえ。ひびき。
輟→やめる。とどめる。中止する。中断する。つづる。つくろう。
雕雕→文彩の明らかなさま。
章章→ あきらかなさま。明白なさま。
念→おもう。心にとどめる。
温→おだやか。なごやか。やさしい。
拙訳です。
『子貢が孔子に質問した。「君子が玉を貴んで珉を低く見る理由はなんでしょうか。玉が少なく珉が多くあるからでしょうか。」と。孔子が答えて言う。「ああ、賜(=子貢)よ。それはどうした言葉か。君子という立派な人が、どうして多いからと低く見、少ないからと貴ぶということがあろうか。君子は玉を徳と比べる。穏やかで潤いと光沢があるところは仁の徳である。綿密で堅固でことわりがあるところは英知の徳である。意志が強くて何事にも屈しないところは正義の徳である。心清く人を傷つけないのは行動の徳である。折れてもくじけないのは勇気の徳である。キズを(隠さず)並べて見せるのは真情まごころの徳である。玉を打てばその響きは清く高く上がり遠くまで聞こえ、響きがピタリと止まるところは言葉の徳である。だから文彩の明らかな珉があっても玉の明らかさには及ばない。詩経に「君子を心に思えば玉のように穏やかになる。」というのは、このことを言っているのである。」と。』

需要と供給の関係で少なけれ不足し価値が上がることから、弟子の子貢は君子が玉を貴ぶのは少ないからでしょうかと孔子に質問します。孔子は否定し、多い少ないではなく、玉そのものに多くの美点があり、その美点を君子は愛でているのだという説明です。多い少ないというような環境的要素ではなく、自らの属性で光輝を放つという玉のすばらしさです。
翻って自分、わずかでも何かの光を放てればと思います。

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