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荀子 巻第十二正論篇第十八 3 #1

世俗の説を為す者は曰わく、治まりたるいにしえには肉刑なくして象刑ありしのみ。げい[の刑]には墨幪ぼくぼう(巾)し、[の刑]にはえい(纓)をさらしぬの[布]にし、宮[の刑]にひざかけ(韍)をあおじろくし、(刖)[の刑]にはくつ■1あさ(枲)にし、殺[の刑]には衣をあかくしてふちど(縁)らず。治まりたる古えにはくの如しと。

(金谷治訳注「荀子」岩波書店、1962年)

■1→漢字が出てきません。樹という字の木偏を糸偏にかえた字です。
拙訳です。
象→②かたち。すがた。ようす。ありさま。
墨→黒い。黒ずんでいる。
幪→ひたいあて。頭巾。昔、刑の軽いものにつけさせた布。
嬰→かける。首にかける。
慅嬰→洗いふるした布で作った冠のひも。罪人のかぶる冠の飾りひも。
畢→まえだれ。ひざかけ。
艾→②よもぎいろ。青白色。
屨→くつ。はきもの。
『世の中の風俗に染まる者は次のように言う、「よく治まっていた昔は肉体を傷つける肉刑はなく、姿を変えさせる象刑があっただけである。いれずみの刑には黒い額あてをさせ、はなそぎの刑には罪人がかぶる飾り紐をかけさせ、宮(去勢)の刑には前垂れをヨモギ色にさせ、あしきりの刑にははき物を麻にさせ、死刑の場合は衣服を赤色にし縁取りをさせないようにしていた。」と。』

是れ然らざるなり。以て治まれりと為さんか。則ち人もとより罪に触るることく、ただに肉刑を用いざるのみに非ず、亦た象刑をも用いざらん。以て人或いは罪に触るるとも而もただ其の刑を軽くせるのみと為さんか。然らば則ち是れ人を殺せし者も死せず、人を傷つけし者も刑せられず。罪は至重なるに而も刑は至軽にして庸人は[悪]をにくむことを知らず、乱れより大なるは莫し。

(金谷治訳注「荀子」岩波書店、1962年)

庸人→凡庸な人。 普通の人。 一般の人。
或いは→ある事態が起こる可能性があるさま。ひょっとしたら。
拙訳です。
『これは間違いである。これで治まるとするのか。治まっていれば元々人は罪を犯さず、肉体を傷つける肉刑を用いないだけでなく、姿を変えさせる象刑をも用いなかっただろう。ひょっとしたら人が罪を犯したときにその刑罰を軽くするためだけに姿を変えさせる像刑を用いるのか。それであれば殺人者は死刑にならず、人を傷つけた者も(相応の)刑にかけられず、罪は極めて重いのに刑罰は極めて軽く、のこのようでは一般の人は悪事を憎むことを理解できず、これより大きな乱れはない。』

古代中国の刑罰が出てきています。いれずみはなそぎ、宮(去勢)、あしきり、死刑、等ですが手術ではなく刑罰ですし古代の事ですから麻酔を使うことなく、入れ墨、鼻削ぎ、去勢、足切りをされるというのは、想像するだけでも痛いし怖いです。この怖さがなければ、世の中が乱れるぞという説明です。
続きは次回とします。

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